1-13 冒険者とクランと腕時計
フォークとナイフを置く。朝食を食べ終わった。
鶏肉より歯ごたえがあり、その割に柔らかいボアは美味かった。
一息ついていると、セバスチャンが声をかけてくる。当然 冒険者になることについてだろう。
「では、さっそく登録しに行きましょう」
「待って、セバスチャン~。お腹いっぱいで動けない~」
「お嬢様、はしたないですぞ」
食べすぎでグッタリしているカエナに注意するセバスチャン。カエナは初め一品だけで良かったのだが、途中から他の卓に乗っているメニューが気になって頼み過ぎたのだ。まだ10歳前後なのに3人分は食べただろう。そう簡単に動けるはずもない。
「聞いてなかったんだけど、カエナは何歳なんだ?」
「あら……(げぷっ)、レディーに年齢を聞くなんてマナー違反じゃなくて?」
レディーは途中でゲップを挟まないだろう。
「まぁ、よろしくてよ。私、今年で9歳になりますのよ。おっほっほっほ」
手の甲を口に当て、お嬢様笑いをするカエナ。何がおかしいのか? 頭か。
「私めは今年63になりますが、カンザキ様は何歳になられるのですかな」
おっさんの年齢なんぞ聞いても面白くないが、聞き始めは俺なので文句は言えない。
「俺は……」
うん? 精神年齢か? 肉体年齢か? 答えるのが難しいな。 嘘は吐きたくないしなぁ。
「想像にお任せします」
「あら、自分の年もわからないの?」
「仕方ありませんよ、お嬢様。カンザキ様は両親が他界されているようなので、正確な年齢がわからないのでしょう。おそらく5歳だと思われます」
他界……他界と言えば他界か? 俺が言ったわけじゃないからいいか、勝手に解釈してくれれば。
「5歳かぁ、私、年上が好みなんだけど。」
別にお前の好みは聞いていないんだが?
「お嬢様、わがままはいけません。なにせコーラを出せる人間を私は他に知りませんから許嫁としてはもってこいかと思われます」
「確かに、コーラは魅力的ね~。あとは実力がどれくらいあるか、ね?」
「……? 許嫁? 誰が? 誰の? いや、この流れからして俺がカエナの許嫁になるという話だということは分かる。わかるが、なんでそんなことになってるかが、わからん! いや、この際、わからなくてもいい。俺は断る!」
「なんで?」
「何ででございますか?」
色々おかしいだろ?!
だが、セバスチャンが力説する。
「よくお考えください、カンザキ様。カンザキ様は身寄りもお金もなく頼れる者はいない。それなのにまだ子供でございます。何かしらの保護下に無ければ死んでしまう可能性は高いのですよ?」
ごもっともな意見だ。だが、神様曰く、俺は不老不死だ。話が本当なら、そう簡単に死ぬまい。嘘だとしても『気』が使えれば、黒騎士くらいは倒せるのだ、冒険者として生活が可能だろう。ただ、黒騎士が最下層の強さの可能性もあるので何とも言えないが……。
「確かにありがたい申し出だが、そこまで切羽詰っていない。それにそちらに利点もなければ俺と婚約する意味が……文字が読めることか」
「そういうことです。どちらにも有益に働く申し出だと思いますが?」
「戦いぶりを見てもらってから、俺に後ろ盾が必要か判断してもらった方がいいな」
「ほう、自信がおありのようですな」
セバスチャンは俺を見てニヤリと笑う。
どちらにしろ、冒険者登録をするのだ。確認してもらった方がいいだろう。と、いうか俺が確認した方がいいだろう。どれくらい自分がこの世界で強いのか。
冒険者の酒場の端にある受付スペースに行ってカエナと俺だけが登録をする。
セバスチャンはすでに冒険者登録されているらしい。冒険者兼執事なのだろうか。
それにしても、冒険者は簡単に誰でもなれるんだな~。こんな年端もいかない子供でもなれてしまうのか。
簡単な説明を受ける。そして、書類に名前を書く。「お名前は書けますか?」など受付嬢に言われるが問題なく書き進めると褒められる。個人的にはバカにされた気分になるが、見た目 的に仕方ないと諦める。
子供でもなれる理由は子供でも出来る仕事があるからだ。仕事がランク分けされている。
S・A・B・C・D・Eの6つのランク。冒険者も同じランクがある。
『 D・E 』冒険者はCの仕事まで受けられる。
『 C 』冒険者はBの仕事まで受けられる。
『S・A・B』冒険者は全ての仕事を受けられる。
Eの仕事は街中でおこなわれる。ゴミ掃除やペット探し。簡単なモノだ。
Dの仕事は町の外。採取や捜索、採掘など、非戦闘。ただし、魔物に襲われるのは自己責任。
Cの仕事は討伐、素材・食材の確保など戦闘メイン。比較的弱い魔物との戦闘。
Bの仕事はCと一緒だが、こちらは強敵がメイン。場合によっては町に危害があるレベル。
Aの仕事は国家からの依頼。国から依頼されなければ仕事は無い。内容は国による。
Sの仕事も国家からの依頼。ただし複数国家にまたがる場合がある。
依頼をこなした回数や難易度によって冒険者ランクが上がるらしい。
あとはパーティーはランク関係なく組むことが出来る。これは低ランクの人にはありがたい。高ランクの人にくっついていくだけで美味しい。もっとも組んでくれるかは別。
他に『クラン』という冒険者組織を組むことが認められている。
どこかのクランに所属していると、依頼にあった仲間を見つけやすい。それにクラン内で仕事を分割したり、依頼のお金を分配したり、拠点を築いたりと色々便利らしい。
ただし、一人一つのクランにしか入れない。入る場合は慎重にした方がいい。脱退もできないわけじゃないが、印象は良くない。
クランからクラン外のパーティーに人を貸し出すことも出来る。
その場合はクランにお金を払って借り、依頼の金額も分配するらしい。メンバーを借りたパーティーは高くつくが命の安全を考えれば依頼に見合った人間を借りれ、クランもお金が入るので両者に利点があるわけだ。
孤児だけのクランもあるらしい。最悪、俺はそこに入ればいいか。さすがに許嫁とかは荷が重い。
そんなことより、今現在。
俺、カエナ、セバスチャンの三人パーティー。クランには無所属。
セバスチャンが依頼を受ける。
受付嬢の人と何か話している。要するに「子供連れでそんな依頼をうけるのか?」ということらしいが、Cランクのゴブリン退治だ。問題あるまい。
「よろしいですかな、カンザキ様?」
答えるのはカエナ。
「もちろん、O.K.よ、セバスチャン!」
「セバスチャンは俺に聞いていたような気がするのだが?」
「ゴブリンくらいどーということはないでしょ!」
「選択権があるかないかで、だいぶ物事は変わって来るんだが?」
「男の子がグダグダ言わない!」
初めから行くつもりだったのでいいんだが、納得がいかない。
早速、セバスチャンにゴブリンのいる場所について説明を受け出発する。さっさと片付けて帰って来よう。強かったらセバスチャンが何とかしてくれるに違いない。その場合は孤児クラン行き決定だな。
朝食を食べ終わったばかりで、まだ昼には遠い時間。今からゴブリンの巣に着くのはお昼くらいになるらしい。2~3時間?
あれ、待てよ? これはセバスチャンに聞かざるを得まい。
「正確な時間はわからない?」
「正確な時間? ですか?」
「えーっと、時計はない?」
そこで、カエナが一瞬 目を丸くするが不敵に笑いだす。
なんだ、コーラで酔っているのか?
「ふっふっふっふ、聞いた、セバスチャン?」
「はい、聞きましたともお嬢様」
何の小芝居が始まったんだ?
「ジャジャァーン! なんと、我が家には一か月前に時計を購入したのです」
「さすが、お嬢様!」
「そうか」
「なに!? なんでそんなに反応が薄いの! 時計よ、時計! あの王宮くらいにしかないと言われる、あの時計なのよ!」
「そんなに凄い時計なのかぁ。それは一度見てみたいな。やっぱりデカいのか?」
「そりゃぁ、時計だもの。こーーーーーーーんなに大きいわよ」
両手いっぱい広げるカエナ。
多分、装飾やらなんやらで、仕掛けも凄いのだろう。金持ちのやることは違う。
そんなことを考えながら指を鳴らし『W B』を出す。
「なにコーラ!? コーラちょうだい」
「やはり冒険の前にはコーラが一番ですなぁ~」
二人とも両手を前に出して、コーラをねだる。
お前たちは『WB』 = コーラか!?
「違うよ!」
「『WB』からコーラ以外のモノが出せるの?」
「色々出るよ! 何だと思ってるんだ……」
そう言いつつ『WB』から出したモノを手首に巻く。
「なにそれ? 腕輪?」
「ふむ? マジックアイテムですかな? 何か腕輪に着いておりますが……」
「ただの腕時計だよ」
「「腕時計??」」
二人はハモりながら首を傾げる。時計があるんだ、腕時計くらいわかるだろう。
そう思ったら二人とも俺の腕を抑えつけて、腕時計を確認し始めた。
「なにこれ!?」
「まさか、こんなに小さい時計があるとは!?」
「マジックアイテムじゃないかしら、セバスチャン?!」
「おそらくそうでしょう」
違います。
「この大きさになるとかなりの精密度が要求されます。魔法でなければ動かせないのではないでしょうか?」
「そうなると物凄い金額になるわよね?」
「当然でしょうな。こんな小さな、しかも腕にはめられ、持ち運びが便利な時計など王族でも持っている者はいないでしょう」
しかし、売れないんだよね~。おれから100m離れると消えちゃうから。
「まぁ、そんな細かいことはどうでもいいから、さっさとゴブリンの巣に行こうぜぇ~。これで大体の時間はわかるから……」
今は午前9時くらいだろうと、時計をセットする。
ゴブリンの洞窟を目指したのだが、その間、カエナとセバスチャンが代わる代わる腕にしがみついてきて腕時計を見るのでひとり一本ずつ貸し出してやった。
「いいか、俺から離れると腕時計は消えるからな。あんまり遠くに行くなよ」
「ラジャー!」
「わかりました」
返事だけはいい。
まったく、こっちを見ずに腕時計に夢中の二人を引きずるように連れて行った。




