1-12 コーラだけで一話使用
コップが来た。
料理は まだだが飲み物は全員分揃う。カエナはオレンジジュース、セバスチャンはエール酒。そして、俺は空のコップ。
この世界にすでにグラスはあるようだが高価なモノのようだ。俺に出されたコップは陶器で出来ている。そのため、中身の色は分かりづらい。
それでも注いでいる最中に真っ黒の液体がコップの中へと入っていくのは見える。
「うわ、なにそれ!?」
「黒いですな……ソースですかな?」
「いやいや セバスチャンさん、ソースは飲み物ではないから!」
「ホントに飲めるの? なんかブクブク言ってるわよ?」
うーん、炭酸はこの世界にはまだ存在していないのだろう。面倒なので説明をしない!
注がれたコーラのコップをカエナの前に出すと、あからさまに眉をひそめ匂いを嗅ぐ。毒じゃないか確認しているようだ。
毒なんて、こんなあからさまな色をしていたら誰も飲まないだろう。もっと言えば、もっと毒っぽい色の飲み物なんぞ山ほどあるんだが、それは置いておく。
「あら、意外と甘ったるい匂いがするじゃな?」
「気を付けてください、お嬢様。毒なんぞ みんな甘ったるい匂いがしますぞ! まずはカンザキ殿に毒見をしてもらってはいかがですかな?」
「……そうね、そうよね。甘ったるい匂いがするからといって安全とは限らないもんね。よろしい、カンザキ。特別に私の毒見役にしてあげるわ!」
「毒見役にしてもらっても別に嬉しくないんだが……いいか、元から飲むつもりだったし……」
普通にカエナからコップを取り上げ、グビグビ、とコーラを飲んでいく。冷蔵庫で冷やしてあるので喉越しが気持ちいい。美味い、非常に美味い! 多分世界一美味い飲み物だろう。飲んだことないけどピンクのドンペリより美味い、間違いない!
「ぷはぁ~!!」
「ちょ、あぁ!! なんで毒見役が美味しそうに全部飲み干してるのよ! 私の分が無くなるでしょ! このクズ!!」
そもそも、俺のコカ・コーラだ。全部飲んで何が悪い。……だが、この手の娘はそのことを言うと喰ってかかってきそうなので、口には出さない。
「大丈夫です。まだ、こちらの缶に残っていますから……」
トクトク、とコップに再び黒い液体を注いでいく。実になめらかな色合い。炭酸による気泡で輝いて見える。
俺のコーラの飲みっぷりから察したか、カエナとセバスチャンが先程の毛嫌いした感じとは違い興味深く色合いを確かめている。
注ぎ終わると、二人がコップに手を伸ばす。
「まずは私からでしょ、セバスチャン!」
「いいえ、お嬢様。不肖、セバスチャンめがまず毒見を!」
「毒見はカンザキがしたからいいのよ!」
「しかし、カンザキ殿が敵の手の者かもしれません!」
「それなら私が倒れたときにセバスチャンじゃないと捕まえられないでしょ! セバスチャンが毒で倒れたら結局、私も殺されるから結果的には同じよ!」
「むむむ、仕方ありません。いいですよ、お嬢様が先に飲めばよろしいんじゃないですか~」
セバスチャンはイジケながらカエナにコーラのコップを譲る。この人、本当に執事なのだろうか? あれそう言えば執事だって言ってたっけ? 言ってなかったような気もするな~?
おっと、その前に炭酸について注意しておかないと……たぶん存在自体を知らないだろうか、ビックリして吐き出して……。
「ぶはっっっぅ!??」
カエナ嬢が思いっきりコーラーを噴き出し、俺の顔にかかる。説明する前に、たらふく口に含んだらしい。顔中ベトベトになってしまった。
セバスチャンは真っ青になって焦っている。飲み物で噴き出すのは異常事態だろう。普通のお嬢様がそんなことをするはずがない。
「お嬢様、大丈夫ですか!? やはりあの液体は毒で」
「おいしぃー!! 凄く美味しいわ、セバスチャン!! ビックリしたけど驚異の美味しさよ!!」
「は……?」
「『は』じゃないわよ。美味しいの、凄く凄く すごーっく。例えるなら……凄く美味しいのよ!」
例えてないがな。
「ちょっと飲んでみなさい」といってカエナはセバスチャンにコーラを差し出す。噴き出したせいでコップの中身は三分の一程度に減っていた。
さすがに先程のカエナの惨状で引き気味のセバスチャン。説明しなくとも注意して飲むだろう
「ぶはっっっぅ!??」
ダメでした。
どうやら異世界の人は、炭酸に耐性が無いか、知らないせいか わからないが噴き出してしまう。
カエナ嬢に吹きかけてはいけないと思ったのだろう、咄嗟に俺の顔に思いっきり噴きかけやがった。
「美味いですぞぉ!!」
椅子に登り、机に足をかけ大声で叫ぶセバスチャン。さすがに大袈裟だろう。
その後を追うようにカエナ椅子に登り、机に足をかけ、
「どう、私の言った通り美味しいでしょ!!」
「流石はお嬢様! お嬢様の目に狂いはありませんでしたぞ」
机の上で手を握り合う二人。
酒場のウエイトレスに注意され、謝りながら降りる。
酒場で注目の的だ。羞恥心が無いのだろうかこの二人は……。
缶の中身も少なくなり、コップに全部 注いでしまう。
食事のときに飲む分くらいあるかと思ったら、コーラの入ったコップをカエナに取り上げられる。が、すぐに注意するセバスチャン。
言ってやってください。
「イケませんぞ、お嬢様!」
「なんでよ! 凄く美味しいのよ。私が飲むべきだわ」
なんで、凄く美味しいとお前が飲むべきなんだ?
セバスチャンが取り上げる。そして俺の所に返して……こない!? なん……だと!?
「これは私が飲むべきです!」
うぉおいっぃ!! 俺の俺のですから~!
「何言ってるの、私が飲むのよ! よこしなさい!」
「い・や・です! 私が飲むのですぅ!!」
「コップから手を放しなさいよ、セバスチャン!」
「カエナお嬢様こそ諦めてくださいぃ!!」
溢さないように細心の注意を払いながら、「ぐぬぬぬぬ」とコーラの入ったコップを引っ張り合う二人。
執事ならお嬢様に譲るべきじゃないのか? 大人げない。
あのコップは二人にあげることにして、俺はウエイトレスさんに頼んで、もう一個コップをもらうことにした。
「すみませーん、コップをもう一個下さい!」
「はい、只今お持ちします!」
すぐにコップが持って来られる。
コーラ入りコップを持ったままの二人が、新しいコップに注目している。
『W B』を出し、新しいコーラを取り出す。
「「あぁあっぁ!!」!」
二人のハモった絶叫が酒場に響き渡る。
「ちょっと、ちょっと、ちょっとっぉおっぉ! どういうことよ! まだあるなら、さっさと私によこしなさいよ!!」
「カンザキ殿、是非、是非 私にお譲り下さいっぃ。いくらです、いくら払えば譲っていただけるのですか!?」
「待ちなさい、お金なら私の方があるわ! それに私の方が可愛いんだから私に譲るべきよ」
「えぇーい、黙れ小娘! ここは年功序列じゃ!」
セバスチャン……大丈夫か? クビになるぞ?
ため息を吐く
「落ち着いて、二人とも。二人に一缶づつあげるから」
面倒臭くなってきて、丁寧語を使う気が無くなってきた。コーラがあれば上位に立てるし口調を気にしてると疲れるから、もういいや。
『WB』から さらに二本、コーラを取り出す。
目がキラキラしている二人。ハッキリ言って怖い。あと近い……離れて離れて!
二人の前に『トン』『トン』とコーラの缶を置く。
「すごい、凄いわ、カンザキ! あなた天才なんじゃない!」
「どこを、どーしたら、そんな結果に……」
「そんなことは決まっています。一人に一本、コーラを渡すなど天才でなければ思いつきますまい!」
「いや、思いつくだろ」
「あれ、セバスチャン? この鉄の瓶、蓋が無いけど どーやってあけるの?」
「ん? 確かに? 何と奇怪な……まさかカンザキ殿のイジメではないでしょうか?」
「な!? 期待させておいて、そんな酷いことを!」
「酷い、あんまりですぞ、カンザキ殿!」
二人は俺の顔も見ないでコーラの缶のどこかに穴が無いか、必死で探している。
「落ち着け二人とも、缶をそんなに……あぁ!! 振るな振るな!!」
ムキになったカエナがガッシャガッシャと缶を振りまくる。セバスチャンまで!
仕方なしに慌てて二人から缶を取り上げる。
「振るなっちゅーの!」
「なんでよ! カンザキが意地悪するのがいけないんでしょ!」
「そうですぞ、カンザキ殿! こんな極悪非道な行いはありませんぞ」
二人とも涙目で訴えてくる。
確かに缶の開け方を説明しなかった俺のミスでもあるわけだが、振るとどうなるか説明をせざるえまい。
「まず、コーラは振ると爆発します」
「何言ってんの? バカなの? 飲み物は爆発しないわよ」
「カンザキ殿、我々を脅かそうなどとしても……!?」
振ったばかりの缶を開けると、噴水よろしく弾けるように噴き上がる。
「「爆発した!?」」
辺り一帯ベトベトになっていく。
あとでお店の人に謝らなければ……。しかし、コーラを飲むうえで避けて通れない道だ。説明したって何かしらの失敗でこの状況になる飲み物だ。
「わかりましたか、二人とも」
必死にコクコク頷く二人。思ったよりも怖がっているので、害がないことも伝えておく。が、コーラが全て飛び散って亡くなったことにショックを受けているようだ。
少しでも多く飲みたいのにこの惨状に哀愁を漂わせる二人。
もう一個の振ってしまったコーラは回収して戻す。別に元の世界のコーラは増えない。倉庫に入れる手もあるが、必要もない。
改めて新しいコーラを二人に渡す。
「すごーい! カンザキいくつコーラ持ってるの!」
「これからはカンザキ様とお呼びいたしましょう。 執事が必要な場合は私めに一声かけてください」
それは『執事を紹介してくれる』ってことでいいんだよな? お前が俺の執事になるわけじゃないよな? コーラで裏切る執事はいらんぞ?
今度はちゃんと缶の開け方を説明する。相変わらず、何でも驚く二人。
慣れてると当たり前に感じることが二人には驚きらしい。いや、異世界の人には……か。
「見て、セバスチャン! 私の怪力を! 鉄を手だけで穴を空けたわよ!」
「ふっふっふ、その技を身に着けたのはお嬢様だけではありませんぞ!」
「やるわね、セバスチャン!」
「いえいえ、お嬢様こそ見事なタブ開けですぞ」
蓋 開けるだけで楽しそうだなコイツら……。さすがにその感覚は無いな~。
それぞれが、自分のコップにコーラを注いでいく。
二人の目つきがウットリしている。ヤバい人の目だ。ヤンデレっぽい目だ。コーラなのに……「フフフフフ」と笑いながら注いでいる。怖い。
その状況に若干 引き気味のウエイトレスさんが料理を運んできてくれた。ここの卓はちょっと異常な雰囲気を醸し出しているので仕方ない。
何故こんなことになってしまったのか……俺がコーラを出したせいですが……。だってコーラ飲みたかったんだもの。人間だもの。
ボアの肉……堅いかと思ったら柔らかい。かなり筋を叩いて叩いて美味しくしている。歯ごたえがあるのにサックリ噛み切れる。これは美味い。揚げ物にはコーラがよく合うぜ!
もっとも二人はコーラの方にご執心だが……。
「それで、なんで俺らは冒険者の酒場で朝食をとることになった?」
もう、この二人の前で敬語や丁寧語を喋る気がしない。
「ずいぶん、話し方が変わりましたな~。コーラをもらっていますので文句も言えませんが……」
桃太郎の気分だな。コーラで家来が付きそうだ。
口調を一切気にしていないカエナがセバスチャンの代わりに答える。
「もちろん、冒険者の酒場ですもん。冒険者登録をして冒険に行くのよ!」
なんで? 何がどうなって冒険者になることになったんだ? いや、冒険者になって冒険するつもりだったから助かるのだが、なんでこの二人と冒険するんだ?色々と意味がわからないぞ。
考えてもわからない。なら、考えるのをやめて、美味い飯を食べるのに専念する。
料理を口に運ぶ。きっと数多くの香草が使われているのだろう。深みのある味だ……。やや、現実逃避をしながら、二人を連れて冒険していることを想像してゲンナリしていた。




