1-10 晩餐会の尋問
さて、誰がこの晩餐会を考えたのか……。それとも本当に偶然の晩餐会だったのか。現在行われているのは甘い『尋問』という評価が妥当だろう。
最高司祭・ベルモンド・ガル・ベルロイをはじめとし、第一位司祭の人(?)、第二位司祭レイ・マクリルド、第三位司祭のドワーフの男、第四位司祭……以下同文の16人と俺とハーニル司祭。
要するに高位司祭が総動員で俺を質問攻めにしている。食事中に立ち上がるのはさすがにマナー違反だろう。ここに縛り付け質問するための晩餐会といえるわけだ。
「どこからきた?」「両親はいるのか?」そんな当たり前のことから会話は始まったが、これは会話ではない。一方的な質問だ。天気の話も世界経済の話も挟む余地もない。
かといって、失礼な質問をする輩もいない。注意を払っているし、問題がありそうだとわかるとすぐに引く。
「言葉はどこで習ったのかね?」
「学校で習いました」
「学校? それはどこの国に……」
「ですから、国についてはお答えしかねます」
第一位司祭・ビギヌス・サトリアスに答える。答えられることは答えるし、それ以外は答えない。作り話をする手も無きにしも非ずだが、嘘を吐くのは気が引ける。それなら答えない方が個人的には良いと考えた。
もっとも『この世界の言葉』は習っていないので答えない。
ほとんどの質問は「答えられない」で通す。おちおち食事も出来やしねー!
教会というと肉料理は駄目なのかと思ったけどそんなことはない。むしろ肉料理が中心だ。宗教によって違うんだろうな。わからんけど、それにワインも飲んでいるからお酒もいいらしい。
ちなみに俺には水が出されている。ジュースは無いのか? 自分で『W B』から出すという手段もあるが、話が拗れそうなのでやめておこう。
最高司祭・ベルモンドのおじいちゃんが不意に言う。
「どうじゃ? 大地神ガナス教に入信する気はないか?」
「……は?」
眉毛で目が見えないが、こちらを覗き込んでいるのだろう。
それにしても何を言っているのだ、このおじいちゃん、ボケちゃったの? ……と思ったが、第三位のドワーフのおっさんはさらにとんでもないことを言う。
「今なら第二位司祭の地位も付けるぞ?」
「いや、おかしいでしょ! 突然、信者になったら第二位の地位に着くのは!」
おかしいのはおじいちゃんとドワーフだけじゃない。この場にいる高司祭全員だった。意味がわからないよ。
だが、その答えを最高司祭・ベルモンドが教えてくれる。
「神託があったのじゃよ。大地神ガナス様から直々にな。神々にもルールがあって長い内容は伝えることが出来ないらしいのじゃ」
「その神託の内容と俺と何の関係が……」
ハーニル司祭を助けたことが関係しているのか? というか、それしか思い当たらない。偶然じゃなかったことになる。
「この本を覚えておいでかな?」
「えぇ、先ほどハーニル司祭から馬車の中で読ましていただいた『魔力の始まり』ですね」
一気に食堂内に『おぉ~!』とざわめきが起きる。
嫌な感じがする。
感じとはいわないな、ほぼ間違いないだろう。神様が言っていたチート能力……か。
「『この本を読める神の使者が現れる』……簡単に言えばそういう神託じゃった。この神託は全ての信者に与えられているため、聞き間違いということはないのじゃよ」
ハーニル司祭に嵌められたな。
さも、普通の本みたいに見せやがって……『大人ならみんな読めますよ~』みたいな顔していたから当たり前に読んでしまったじゃないか!
「ハーニル司祭にはこの本の解読に専念するため今回 高司祭の末席に据えることと、この本の保管・保持・管理を行うことになっておったのじゃよ」
「そうすると、彼女の護衛は『本』と『解読者』の護衛だった……というわけですか……」
俺、神の使者かよ。ってーか、あいつが大地神ガナスなのかぁ。うん? 大地神ガナスなのか?
「すみません、私 神の使者ってわけじゃないんですよ。そもそも大地神ガナス様ってどんな神様かも知らないですし……」
第一位の人(?)が大笑いをする。何がおかしい!? この、人かオークかわからん奴が!?
「大地神ガナス様を知らんということはないでしょう、カンザキ殿。ベルモンド殿の後ろの暖炉の上に肖像画があるのですぞ?」
確かにおじいちゃんの後ろに肖像画がある。
かなりデカい油絵。この絵を描いた人物は大地神ガナスを見たことあるのだろうか? 可能性はあるな、実在する神様なわけだし……。
それは置いておいたとして、俺の知ってる自称 神様とは違っていた。性別から……。
大地神ガナスは女神らしい。茶色のロングヘアーで黒い瞳、色白で華奢な感じのバストアップの絵。椅子に座ってるのだろう。宗教画というよりは完全に肖像画だ。
「すみません。どうやら、私は少なくとも大地神ガナス様の使者ではありませんね。もっと違う神様でした……」
と、言ったところで自分の失敗に気づく。アホか俺は!?
さすがに目ざとく第二位司祭・レイがツッコんでくる。
「と、いうことはどなたか神様とあったことがあるということですね?」
食堂内がざわめきに包まれる。
当然だ、俺だって神様にあったと言うやつがいたら驚くわ! しかもこの世界には本当に要るんだから嘘を吐けば天罰があるかもしれないだろうから、容易には神に関する嘘は吐けまい。
だが、これで『大地神ガナス教に入信しろ』ということは避けられ……。
「では、特別顧問として本の解読役に付いてもらうのはいかがでしょう?」
「なるほど、たしかに邪神教でもなければ問題はありませんな」
「問題は何の神様かにもよりますぞ?」
「そんなわけで、カンザキ殿、神様はどなたでございますか?」
うん、知らん。
それにしても、高司祭たちは勝手なことを言ってくれる。とりあえず容姿だけを伝えよう。
「えーっと、煙草をくわえていて、眠そうな目をしていて、服装はスーツ……は通じないかな?」
「うん? 名前は言えないのですか? 煙草を咥えた神様?」
「そんな神様、聞いたことがありませんなぁ」
「四級神か五級神じゃなかろうか? 三級神にはおられない」
どうやら、三級神の顔を全員知っているらしい。神様はみんな面が割れてるんだね~。
高司祭たちは俺に質問して神様を割り出そうとしていた。
邪神だった場合は問題があるが、その可能性は低いだろうと第一位司祭の人(?)が結論づける。「そもそも大地神ガナス様が邪神の使者を指示さないだろう」という観点からだ。
なら、問題ないと高司祭たちが顧問役を俺に押し進めてくる。
鶏肉料理にナイフを入れながら俺は適当に断ろうとしているのだが、少し考えが甘いようだ。
「どこか強力な後ろ盾がいなければ命を狙われるかもしれませんよ」
第二位司祭・レイの言葉だ。
どうやら、この本の文字を読めるだけでもかなり貴重らしく、各国では日夜研究されているらしい。しかし、他国に先を越されないために暗殺や、本そのものを処分をされてしまう場合もあるらしい。そんなに貴重なのに……。
ハーニル司祭が狙われていた理由もその辺らしい。そして、俺が本を読めることで自分より護衛対象のランクが上だと判断し、すぐさま上へ報告しこの場の晩餐会になっている。
俺が本当に読めるか、何者か、そして保護。
第一位司祭あたりは俺が子供だと思っているので、自分の手駒にしようと思っているのかもしれない。完全に見た目判断だが……なんか、悪そうじゃね?
最高司祭のおじいちゃんは「今夜ゆっくり考えるといい」と言っていた。もし、大地神ガナス教の保護下に入らなくとも敵対することはしないことを約束してくれた。
そもそも、神の啓示があったのに軟禁や拷問をするはずがないと笑っていっていたが、暗に『ほかの邪神教団や国家はそういうことするから保護された方がいいんじゃない?』ってことだろう。
頭のまわるおじいちゃんだ……伊達に最高司祭じゃないか。
晩餐会後も何人もの高司祭が「私の所に来るといい」と声をかけてくる。保護目的というよりは地位向上のため、子供風俺を手中に収めたいのがアリアリとわかる。
俺が文字が読めるだけで頭が悪いと思っているのか? いや、さっきの会話でそれを思っている奴は初めから高司祭になどなれないだろう。が、お人よしくらいに思っている奴は多いのかもしれない。
適当に高司祭をあしらいながら晩餐会の会場を後にする。後ろの方ではまだざわめきが起きている。
「本当に神の使者なのか」「保護は絶対に必要だ」「本の解読が進めば……」などなど……。
まさか、言語理解能力がココまで面倒なことになるとは……。そう思いつつ、メイドに俺の部屋を案内してもらった。




