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ブナケデス  作者: あるばいと
カンザキ師匠編
10/57

1-8 異世界は黒猫は不幸を呼ぶのか

 馬車に揺られること数時間。護衛隊長が横の窓から話しかけてくる。


「ハーニル様、街に着きました。あと数分で教会入り口になります」

「わかりました。伝令は?」

「すでについていると思います」


 何の伝令かと思ったら「もうすぐ着くよ~、出迎える準備しとけよ~」ってことらしい。そんなに偉いのかね~15、16の小娘が……。偉いんだろうなぁ司祭だし……。


 窓の外を見ると、良い具合にファンタジーなレンガ造りの家が立ち並ぶ。スラム街もありそうだ。なんか僧侶風な人が多いなぁ。やっぱ、実際に神様がいると僧侶が多いのだろうか?


「僧侶の人が多いですね?」

「この街は初めてですか? ここは大地神ガナスの神聖王国ですから信者が多いのですよ。300年ほど前に勇者を輩出した国としても有名です」

「へー、勇者なんているんですね~」

「現在は勇者の力を引き継ぐ者がいるらしいですが、魔王がいない今『勇者の力も眠っているのではないか』という説が一般的ですけどね」

「魔王を倒したんですね。ということは、もう平和なわけだ」

「いいえ、まだ残党ともいえる魔族が地上に沢山います。それに千年に一度、魔王が現れるとも言われています」

「そろそろ千年近くになるとか?」

「まだ、魔王を倒して300年くらいじゃないでしょうか。考古学者によると魔王を倒してから270年前後と言われていますが、当時の文献や書物、遺産などは魔族によりほとんど破壊されてしまったため正確な年代がわからないらしいです。しかも当時の人口の約八割近くの人間が殺害されてしまったという話です」

「全滅一歩手前ですね。よく300年でここまで文化が持ち直しましたね、文献もほとんどないのに……」

「その時の知識を持った人たちがいましたし、勇者の力も大きかったのではないでしょうか。300年程度からは文献を再び書きはじめているので、それを手探りで解読していく作業になってはいます」


 ようするに建築家や文化人が多少生き残っていたわけか……。

 それにしても魔王 怖いな。良かったよ、そんな時代に召喚されたんじゃなくって……でも、そうなるとなんで俺はこの世界に呼ばれたんだ? 神様の経験値稼ぎなら魔王と闘わせた方がいいんじゃないだろうか?

 まぁ、即死んでしまう可能性があるところには呼ばないか。 でも俺って不老不死だって話も聞いたんだけどなぁ~。


 日もだいぶ傾いてきていて、人通りは多くない。

 石畳の道路は道幅が広く悠々 馬車が二台通ることが可能だ。

 ほとんどの家は二階建て。

 家の窓からは灯りが付き始めている。灯りが気になる。魔法か、それとも油を入れるランタンか? 魔法使いは多くなさそうだから、普通のランタンだろうな。


 と、思ったところで『ガコンッ』と馬車が急停車した。

 どうやら、お待ちかねの教会に着いたようだ。馬車の扉が護衛により開かれる。


「長らくお待たせしました、ハーニル様。それとカンザキ」


 なんか一人だけ『様』付けされていると、俺が呼び捨てなのが納得いかない。納得いかないが仕方ない。見た目は子供!

 それに護衛対象でもない、どーでもいい奴なんだから『様』付けするわけもない。


 馬車から降りると、教会の大きさに驚かされる。と、いうか教会かコレ!?


 ちょっとした学校くらいの大きさがある。いや、白い東京駅と言った方がイメージは湧きやすいだろう。それに神殿もある。こんなデカい教会があるとは思いもしなかった。

 ちょっと広い一軒家程度を考えていたが、神聖王国を舐めてた。


 アホのように口を開けデカい教会を見上げているとハーニル司祭が歩き出す。我に返りついていこうとすると、彼女がそれを制する。


「カンザキさんは少しそちらでお待ちください。休息の場所を用意いたしますので……」


 それだけ言うと護衛隊長に向き直り指示を出す。


「黒騎士たちを牢の方へ。それとカンザキさんの護衛もしばらくお願いします。すぐに戻ってまいりますので……」


 それだけいうと、スタスタと教会の中庭を通り門番が扉を開き中へと入っていく。


 嫌な予感がする。いくつかの理由がある。

 まず第一にこんなデカい教会に入るだけで胃が痛い。もし、偉い人にでも会ってみろ。神聖王国だぞ? ようするに日本でいう所の大統領……じゃなくって総理大臣だろ! そんな奴と素面(しらふ)で会えるか!? 目眩がするわ!

 だが、この点はそれほど心配しなくてもいいだろう。たかだか一介の司祭を助けただけだ。問題ないはず。根が小心者だからビクビクしてしまう。

 異世界だからどーでもいいと思っていたが、現実味があるとさすがにプレッシャーになるなー。


 もう一つはハーニル司祭が護衛隊長に、俺を(・ ・)護衛するように言ったことだ。

 これは明らかにおかしい。俺がハーニル司祭を助けたのだ。助けた人間を護衛する意味がわからない。お礼をするのにいなくなると困るから……それなら護衛(・ ・)するようにとは言わないだろう。

 どういうことなのだろうか? 何かきな臭く感じる。


 馬車の前でデッカい教会を眺めていると黒猫が目の前を悠然と横切っていく。

 なんだ? 何の不幸の前兆だ? いや、黒猫が不幸の象徴だったのはイタリアのような気がする。イギリスでは幸運をもたらすはずだ……日本でも招き猫が……あれは黒くない。確か沖田総司が何だかで飼っていたという話もあったはずだ。

 危ない危ない、黒猫一匹 横切ったからってネガティブになり過ぎだ。


 自分の気持ちを落ち着かせるために、聖騎士の護衛隊長に話しかける。


「やっぱり聖騎士になるのは大変なんですか?」

「んぁ? ぁ、あぁ、大変だな」


 不意をつかれたようにこちらを見る。俺の護衛を任されたといっても、護衛などする気など無さそうだ。子供がフラフラどこかへ迷子にならないようにするくらいの考えなのだろう。


「神様の神託とかあって聖騎士に?」

「いや、高司祭から認められたものだけがなれる。もっとも武力に長け神聖魔法も使え、騎士としてのプライドを持ち神に仕える者でなくてはならない」


 どうやら第一の不幸は彼に聖騎士になる方法を聞いたことのようだ。

 喋る喋る。騎士道精神から学術についてまで、放っておけばゆりかごから墓場までの騎士道物語を延々と聞かされていただろう。


 放っておかなかったのは戻ってきたハーニル司祭だった。

 だが、意外と食い下がる聖騎士の護衛隊長。教会の中まで入ってきて俺の隣で聖騎士になった時の最初の試練の話をしている。

 このおっさん、滅茶苦茶喋りたがりだったんだな……。

 ハーニル司祭は一切口を挟まず、俺の休憩室への道案内をしている。


 長い廊下を二~三度 曲がると目的の部屋に着いたらしい。


「ではこちらでお待ちください。隊長は元の職務に戻ってください」

「ふむ、ここから大波乱の展開が……」

「……」

「ただちに戻ります!」


 ハーニル司祭が無言だったのが怖かったのかきびきびとした態度で今来た道を戻っていった。もし彼に会うことが遭ったら話の続きをされそうなので会わないことを祈ろう。彼は喋りたがりの割に話は下手だ。


 通された部屋は八畳ほどので、鏡が一面とクローゼット、ソファーがあるくらいで休憩する感じではない。楽屋のような雰囲気をうける。

 そこに一人のメイドがいる。年のころなら20~30といったところだろうか? 俺とあんまりかわらない。状況が飲み込めない。


「えーっと」


 ここで休憩するのかとハーニル司祭に尋ねようと思ったが、すでにこの場に居なくなっている。


「手を伸ばしてください」


 メイドが無表情で俺の手を持ち上げる。俺の返事も聞かず自分の仕事をこなしていくメイド。

 メジャー……というよりは巻尺といった感じの物を取り俺の手の長さを計り出す。


 なんだ、俺の服でも作ろうというのか?


 あながち間違いではなかったようだ。

 彼女はクローゼットの中をかき混ぜだすと、一着の小さめのタキシードを取り出す。


「こちらを着てみてください」

「なんで?」

「そのままの格好では、晩餐会に出られないからです」

「晩餐会? いや、そこまで大げさなことをされるようなことは……」

「そのことにつきましては、私は何も伺っておりません。ただ、最高司祭様との晩餐会に出来る格好に一時間以内にするよう仰せつかっているだけです」

「なるほど……お礼に最高司祭との晩餐会……? 最高司祭? え? 最高司祭て、偉いんですよね?」

「大地神ガナス教の最高司祭ですので失礼のないようにお願いいたします」


 俺がパニック状態だというのに、メイドは冷静に俺を言いくるめてくる。ここまで来て逃げられるような状況じゃない。

 しかも、このメイドは何故この状況になっているかは知らないと言っている。知っているであろうハーニル司祭もいない。


 どうしようとアタフタしている俺をメイドは何着目かのタキシードに着せ替えて、これが一番いいだろうと結論付けていた。

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