第一話 精霊を持たない精霊使い
キーンコーンカーンコーン、と聞き慣れたチャイムの音がする。
契精学園の二年四組に在籍している俺こと如月雅は、ダルそうに体を動かした。
契精学園は、高等部と中等部がある。ちなみに俺は高等部の一年生だ。
クラスは一から四まであり、成績が良い順番で分けられている。一組には良い方の生徒が、四組には悪い方の生徒が。
俺は四組に在籍しているが、勉強の成績が悪いわけではない。寧ろ一般よりはかなり良い方だ。
何故頭が良いのに四組に在籍しているかというと……。
契約精霊が一体も使えない。それが理由だ。
火、水、風、氷、土。俺はその全系統の精霊と契約することができない。普通なら五つの系統全ての精霊を体内にある魔力量分だけ契約できる。
高位の精霊は一体契約できるだけでも凄いとされている。逆に低位の精霊は複数契約しても魔力が余るだろう。
しかし、俺の場合は違う。子供の頃の記憶はほとんどないが、高位の精霊と契約した覚えはない。低位の精霊もまた然り。
契約すると体の何処かに現れる紋章も、俺の体には無い。学園長直々で調べたので確かだと言えよう。
学園長直々なのは、この学園の先生に男はいないからである。
元々精霊は女の形をしているので、精霊使いは女性の方が多い。そして、学園の先生は必ず元精霊使いでないといけないので、必然的に女性の方が多くなる。
一応男性もいるのだが、力仕事の方が儲かるのであまりいない。
学園長はレアなのだ。
閑話休題。
話が逸れたが、ここまでくると残るは一つしかない。
元々体内の魔力が、低位の精霊とも契約することができないほど少なかった、ということになる。
しかし、それはおかしい。
魔力を持たない人間も多数存在するが、それでもやはりおかしいのだ。
この契精学園の入試内容は、近くにある霊力の高い森で精霊を一体契約すること。それは中等部からのエスカレーターでも変わらない。契約できなければ絶対合格できないはずなのだ。
つまり、俺は入試を何らかの方法で通過した、ということ。まあ、所謂ズルをしたのだ。
正確に言えば、延期ということになっている。なので俺は、在学中に最低でも一体の精霊と契約して、精霊使いにならなければいけない。
他の生徒たちには、ズルをしていることをバレないようにするために学園長に頼んだ。
内容は、如月雅は魔力量が多いのに精霊との契約が上手くいかないので契約を延期している、とのことを。
実際この嘘をみんなが信じてくれて、俺は序列最下位に甘んじている。序列争いに参加しないでいいので悪い気はしない。
しかし、中には異常な程俺に精霊と契約させようとしているやつもいる。
「おい、如月雅。今日こそは精霊と契約してもらうぞ」
放課後になると何時ものように一人の女の子が俺の席に来た。
彼女の名前は水和椎名。顔は文句無しの美人で長い赤髪も綺麗だが、男勝りな口調がちょっと勿体無い。名前に入っている『水』系統の高位精霊を使う。
序列は四位で一組の生徒だ。態々何時も俺がいる一番遠いクラスへまで来るなんてご苦労なこった。
何でかはわからないが、やたらと俺を精霊使いにさせようとしてくる。
「今日はパスで」
「さぁ、早く行くぞ。ユウラ、水牢に入れて連れていくぞ」
「椎名様、無理矢理はあまり良くありませんよ」
「………………」
俺の発言は聞き入れてもらえないらしい。
まあ、今日は無駄な抵抗をせず水和さんの言いなりになっておこう。行きたいところも丁度そこだし。あまり刺激すると水和さんの水系統の精霊、ユウラに水牢という水の牢獄に入れられてしまう。
「自分で歩くから大丈夫だよ」
「お前は信用ならん。何回あの森に連れていったと思っている。それなのに未だにお前は精霊と契約できていない!」
水和さんの長い説教が始まりそうだ。
おっと、まだここは教室だったな。今説教されたら俺は面目が更に悪くなってしまう。序列最下位ってことでも悪いのに。
ユウラとアイコンタクトを交わして、説教をしている水和さんを二人で教室の外へ。
「なっ、ちょっ、待て! 私を押すなー!」
駄々を捏ねる水和さんをスルーして、そのまま近くにある霊力の高い森――『霊高の森』に向かう。これじゃあ、どっちが連れていかれているのかわからないな。
「も、もう着いただろう! は、離せ! 触れるな!」
酷いことを言うなー、水和さんは。心が痛むぞ。
「と、とにかく早く精霊と契約してこい!」
急かす水和さんを後目に、俺は今まで行かなかった奥の洞窟に向かった。
昨日見付けたのだが、日が暮れかけていたので今日にすることにしていた。普段は乗り気じゃない俺が抵抗もしないでここに来たのは、この洞窟を調べたかったからだ。
「結界……? ああ、ユウラの特大水牢か」
洞窟を少し進むと、水でできた透明の通れない壁が見えてきた。これは俺に使おうとしていた水でできた牢獄。水牢だ。
ユウラの得意技で、使用範囲から出られなくなる技。ユウラが高位精霊なのも、この技を見れば納得できる。
言わば最強の結界。これから出られる精霊や精霊使いはそうそういないだろう。
推測だが、水和さんはこの結界に入ったユウラ以下の位の精霊を自力で俺に取らせようとしている。
……無理だろ。
完全にやる気が無くなった俺は、来た道を引き返そうとした――が不可解な箇所を見つけ、足を止めた。
「水牢が……破られてる」
数メートル離れた水牢の部分。そこに人一人分すっぽり入りそうな穴が空いていた。
何者かに破られたように見える。しかし、さっき言ったようにユウラ以下の位の精霊は通れないようになっているし、入試でもないこの時期に序列三位以上の人が来ることも殆んどないだろう。
つまり、あの水牢が破れている場所を通って行けば高位の精霊に会えるかもしれない。
俺は帰るために向けていた足を再び水牢へ向け、水牢にできた穴に入った。
好奇心は時に良い結果をもたらす。実にそうであってほしい。
次話で新しい精霊とバトル展開になる予定です。
プロローグでお気に入り登録してくださった方、一話で幻滅させてしまったら申し訳ない。
みなさんありがとうございます。
機械 人形より