端役の僕
純さんへの報告は短かった。
「次の人、マッチングしました」
「そうか」
「楽しそうな人で」
「それが目的ならいい」
グラスが置かれた。
少し間があって、手を伸ばした。
冷たかった。
莉子さんは待ち合わせ場所に走ってきた。
「ごめん、一個前の電車乗り遅れた」
息を切らしながら笑っている。
怒る気になれなかった。
テンションが高い。
よく笑う。
言葉の途中で、腕が触れてくる。
僕はいつも莉子さんのペースに引き込まれていた。
「亮くんってなんか、ちゃんとしてそうだよね」
「……そうですかね」
「なんか、真面目すぎじゃない?もっとこう、ツッコんできてよ」
ツッコむ。その発想がなかった。
「どこをツッコめばいいですか」
「そこじゃん」
莉子さんが笑った。
僕も笑った。
それは演技じゃなかった。
帰り道、電車の中で思った。
今日、一度も「正解」を探していなかった。
二回目、三回目とデートを重ねた。
莉子さんは興味が移りやすい。
先週ハマっていたカフェの話が、今週はジムになっていた。
ナンパされたら困るから一緒に来てほしいと言われて、断る理由が見つからなかった。
「甘いもの好きだから運動しないと」と笑いながらトレッドミルで歩く莉子さんの隣で、次に行く場所を相談した。
「たまには亮くんが行きたいところ行こうよ」
「じゃあ一泊でドライブ旅行に行こうか」
「じゃあ、このあとカフェで相談だね」
「僕が行きたいところじゃないの」
彼女は楽しそうに笑った。
莉子さんと過ごすと、知らないものが増えた。
行ったことのない店、聞いたことのない音楽、やったことのないこと。
それは悪くなかった。
ただ、帰るたびに空になる感覚があった。
楽しかった。
確かに楽しかった。
家に帰ると、今日どんな話をしたか思い出せない。
莉子さんが笑った顔は残っているのに。
最近バーに行っていない。
純さんに何を話せばいいかわからない。
楽しかったとだけ言えば、また「それが目的か」とか言われたくなかった。




