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手品の始まり

次の夜、純さんが先に口を開いた。


「プロフィール、見せてみろ」


スマホを差し出した。


純さんはそれを三十秒ほど見た。


「写真が自撮りだな」


「最新の写真がいいかなと思って」


「誰かに撮ってもらえ。いろんな場所で。数枚載せとけ」


「撮ってくれる人いないですよ。純さん、撮ってくれます?」


「断る。誰もいなければ一人でタイマーで撮れ」


「どうしてですか」


「プロフィールはマーケティングだ。うまそうな店に興味を持つのは当然だろ」


「中身がどれだけよくても、手に取ってもらえないものは存在しない」


「わかりました」


頭の中は、どこで写真を撮るかでいっぱいだった。




次の週。


「少しマッチング率が上がった気がしますが……メッセージが続かないです」


「やり取り、見せてみろ」


「……いやです」


送ったメッセージは全部、失敗の記録だった。


読み返すたびに、どこで止まったかが分かる。


見られたくなかった。


純さんが笑った。


声を出した笑い方じゃない。


口の端が少し動いた。


それだけだった。


でも、バーに通い始めてから笑ったのを見たのは初めてだった。




「見せなくていい」


純さんはグラスを置いた。氷が少し鳴った。


「どうせ自分のことばかりだろ」


「……そうかも」


「相手に興味を持て。自分のことを送るな」


「返信がきてないのに送るな。相手には相手の都合がある」


それだけだった。 相手に興味を持つって、どういうことなのか。


でも次の日、試してみた。 相手のプロフィールに山の写真があった。


「この場所、どこですか。雰囲気いいですね」


すぐ返信が来た。次の日も来た。


二人と、メッセージが続くようになった。


一人は五日目で止まった。もう一人はまだ続いている。


何かが変わった。


ただ、自分が変わったのか、やり方が変わったのかは、わからなかった。


タネは見えないのに、返事だけが増えた。

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