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造花の花  作者: かわいかつひと


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15/19

気根

植物園の最寄り駅で待ち合わせた。


遥は少し早く着いていた。


改札を出ると、手を振っていた。


「久しぶりにちゃんと出かける気がする」


歩きながら、遥はよく喋った。


子どもの頃に来たきりらしい。


温室があって、熱帯の植物が見られる、と。


楽しみ、という言葉を何回か聞いた。


遥の横顔が、少し明るかった。


それだけで、来て良かったと思った。




遥がこちらを向きながら喋り続けた。


向かいから人が来ていた。


考えるより先に、手を引いていた。


遥が立ち止まった。


「ありがとう」


一瞬だけ、視線が下に落ちた。


手を離すタイミングが、少し遅れた。


手が、まだ温かかった。




歩きながら、遥が言った。


「ねえ、さっきからさ、ずっと星野くんって呼んでるけど」


「うん」


「亮くん、でいい?」


一拍遅れて、頷いた。




「……俺さ。今さらだけど、下の名前ちゃんと知らない」


遥が笑った。


「遥。今さらだね」


「遥」


口に出すと、少しだけ距離が変わった。


「じゃあ、亮くん」


「うん」




植物園に入ると、遥の歩き方がゆっくりになった。


それぞれの植物の前で止まる。


名前を読んで止まる。


「このパキラ。ものすごく大きいね、55年だって」


「そんなに生きるのか」


最初は、木だな、くらいにしか見えなかった。


でも五十五年という数字だけは、変に残った。


「このモンステラってやつも葉っぱ大きいね。穴開いてるし」


「風を通すためって聞いたことある」


「詳しいね」


「そんなこともないけど」


遥は嬉しそうだった。


僕には、遥がなぜそんなに嬉しそうなのかわからなかった。


でも、嬉しそうな顔を見れて嬉しかった。




遥が大きな木の前で止まった。


幹から細い根がたくさん垂れていた。




しばらく見ていた。


遥が振り返った。 少し間があった。


「ガジュマルよ、お家に迎えたいの」


「こんなに大きいのを」


「そんなわけないでしょ」


笑っていた。


「ガジュマルはね、気根っていって、空気中から水分を取るの。根っこが上から垂れてくる」


「じゃあ、上に向かって育つんじゃなくて」


「うん、上からも下からも」


僕はその木をしばらく見ていた。


遥も隣で見ていた。


何も言わなかった。


それで良かった。


胸の奥が、軽く痒くなった。


触ると壊れそうで、そのままにした。




出口近くのショップで、遥が小さな鉢を手に取った。


盆栽だと思った。


「欲しいの?盆栽」


「ガジュマルよ、さっき見たやつ」

「盆栽なんて言う人はじめて」


可笑しそうにしている。


「でもちょっと迷う、もっと大きいお店で見たいかも」


「じゃあ今度行こう、僕も興味出てきた」


「うん、後で決めよ」


遥が鉢を棚に戻した。






帰り道、駅の手前で遥が言った。


「今日のお店も美味しかったね、亮くんいいお店知っているね」


僕はなんだかバツが悪い気がした。


以前、別の誰かと来た店だった。


「今度、植物屋行こう」


遥が少し間を置いた。


「欲しいの見つかるまで付き合って」


改札で別れた。

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