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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヤニカスとアル中

思いつきで書いてみました。


 とあるコンビニの喫煙スペース。そこには男が2人いた。

 1人はタバコを片手に缶コーヒを煽っている。そしてもう1人は缶チューハイを袋にぶら下げて、何やらスマホをいじっている。


 「はぁ〜…また負けたぁ……」

 「…昨日勝ってたしそんなもんよ?しゃーなしっしょ!」


 そう言ってパチスロで見事に6万ストレート負けした俺を慰めてくれるのは、俺の友人…いや、悪友…なんて大したものでもないし。


 「ぁあーもうめんどくせぇ!お前は今日から"友人(仮)だ!」

 「は?急にどうしたんだよ?わけわからんこと言い出して」

 「そんなことはどうでも良いんだよ!昨日勝ったのが2万5000円!そして今日6万負けた!つまり!差し引き3万5000円負けてんだぞ!?トータルで負けてたら結局負けなんだよぉ!」

 「もっと、熱くなれよ゛ぉ゛ぉぉッ‼︎」

 「今じゃねぇだろ!それぇ!!」


 友人(仮)改め、ゴミカスうんちマンと呼ぼう。

 俺とこのゴミカスうんちマンはともにうだつの上がらない底辺サラリーマンだ。手取り20万そこそこで、家賃5万円の普通のアパートに住んでいる。趣味はパチスロ、彼女はいない。まぁ簡単に言えば、金も、女も、力も、地位も、名誉も、何もないトップオブ底辺ということになるが…


 「ところでよ、トップオブ底辺ってトップなのか底辺なのかどっちなんだろうな、ゴミカスうんちマン?」

「そりゃお前、底辺のトップなんだから逆三角形の頂点なんじゃねぇの?ってゴミカスうんちマン?それってもしかして俺のこと?」

 「おいおい底辺なのか頂点なのかはっきりしてくれよ。ゴミカスうんちマン」

「やっぱり俺のことじゃねぇか!おっ?なんだ?喧嘩か?おい?」


 隣で騒いでいるゴミカスうんちマンを放置して手に持っていた缶コーヒーに口をつける


 「てめぇ、飲んでる場合か!!」

 「っぶねぇな!チューハイ入った袋を振り回すなよ!まったくこれだからアル中は嫌なんだ」

 「そう言うテメェこそ、さっさとそれ辞めちまえよ。くっせぇ臭いが漂ってくるわ」


 ゴミカスうんちマン改め、ゴミカスアル中うんちマンは俺の顔を睨みつける。いや正確には俺の口元、煙を漂わせ儚い至福を懸命に燃やす1本のタバコだ。


 「いーや、()()()だけは辞められねぇな。()()()は荒んで色褪せちまった俺の精神(こころ)を慰めてくれる、この世に残った唯一の救い。つまり精神安定剤(最後の砦)だ」

 「なんだよ、それじゃあお前はクズカスニコ中マンか?」

 「黙れゴミカスアル中うんちマン」

 「さらにひどくなってんじゃねぇか!」


 それからお互い何も喋らず、時間が過ぎていく。会話はないが気まずさもない。それは互いの信頼の証か、過ごした時の長さを物語っていた。

 しばらくした後、ゴミカスアル中うんちマンがため息と共に口を開く。


 「あー、彼女欲しいな…」


 独り言のように呟いた言葉は、確かに俺の耳に届いていた。だが俺は何も言わない。こいつが()()()()()()()()()()を知っているから。

 つい口から漏れそうになった、慰めと同情はタバコの煙と一緒に飲み込んだ。

 その長い前髪に隠した目元は道に迷った副流煙を見つめていた。鋭利な目つきに似合わず、目尻はいつもより萎れている。


 「話題を変えるべく、俺は口を開く」

 「声に出てんぞ?」

 「的確な指摘は体に毒だぜ?」

 「お前のな」


 よしよしこれで良い。ゴミカスアル中うんちマンは笑ってたほうが面白いからな。

 吸い終わったタバコを灰皿に捨てて、俺は立ち上がる。


 「よーっし!それじゃあ、億万長者への第一歩を今ここで踏み出すぞ!」

 「おー!!………で、どこいくんだ?」

 「あ?決まってんだろ?すぐそこにある中古屋だよ」

 「中古屋?何か売って金にするとしても、お前何も持ってないだろ?それとも何か買いに行くのか?」

 「チッチッチ、今の俺には高値で売れそうなものが1つだけある。それは…」

 「それは?」

 「お前だぁ!ゴミカスアル中うんちマン!億万長者へと向かう道標となりやがれぇ!」

 「はぁ!?てめぇ友達を物理的に売る奴がどこにいるんだよ!」

 「さっき煽られたことへの仕返しだぁ!自分は今日勝ったからって調子に乗んなよ!」


 6万負けした友達を先に煽ったのはこのゴミカスアル中うんちマンだ。恩は0.5倍、仇は100倍が俺の心情だからな。

 友達を売って(物理的に)パチンコもう1回打ってくるかな。後ちょっとで出る気がするんだよなー。勝った時のことを考えると笑いが止まらないぜぇ!


 「まーてぇ!ゴミカスアル中うんちマーン!!」

 「とっつぁんみたいなこと言ってんじゃねぇ!あとなんでニヤニヤしてんだよ!気持ち悪りぃ!」


 夜のコンビニで叫びながら追いかけっ子する成人男性2人。側から見たらどうだろうか?怖い。この一言に尽きるだろう。


 現状に不満がありながらも、変える方法を知らない男たちは、騒々しい日々を過ごしていた。





 翌日の夜、24時間営業のコンビニの喫煙スペースには、昨夜と同じような光景が映し出されていた。紫煙を(くゆ)らせる者、その隣には缶ビールを煽っている者。


 「なぁ、なんで俺たちってこんな生活してんだろうな?」


 タバコを片手に持った男(以降ヤニカスとする)は不満を口にする。


 「そりゃお前、普通に生きてきたからだろ?悪いこともせず、日々を真面目に生きてきたからこの生活を手に入れたんだろ?」


 缶ビールを飲む男(以降アル中とする)には少しも酔っている雰囲気はない。おそらくこれは本心からの言葉なのだろう。


 「おいおいそれじゃあ、学校なんて底辺量産施設になっちまうぞ?」

 「バカ言えヤニカス、真っ直ぐ歩いてきたから底辺でいられるんだ。もし踏み外していたらまともな生活すら出来なかったかも知れないぜ?」

 「確かになー」


 確かに真面目に生きてきたからこそ現状にとどまれている。そう言った考えも悪くはない。

 だがそんなことよりも気になることがある。さっきからこのアル中が上機嫌な理由だ。


「で、お前今日いくら勝った?」

 「んー、4万かな?」

 「はぁ!?お前の運はどうなってんだよ!?昨日も勝ってただろ?なんでこの世はこんなに不平等なんだ…」


 俺は今日3万負けた。それなのにこのアル中は昨日に引き続き今日も勝った。この差は一体なんなんだ?

 そう自問自答する俺に、アル中は満面の笑みで声をかける。


 「よぉ敗北者くん。今月はもう、もやし生活かい?可哀想な事だ、だが己の自業自得だ。恨むなら己の悲運を恨むんだな。本日3万負けの敗北者くん」


 …?俺は今煽られたのか?連敗した俺と連勝したアル中。おいおいそれはライン超えだぜ?俺にはこのゴミカスアル中うんちマンを許せそうにない。


 「はいプッツーン、完全にキレちまったぜ…?俺の堪忍袋の緒がなぁ…」

 「その大層な緒が切れたら、一体どうなっちゃうんだい?」


 このアル中はいまだに俺を煽ってくる。


 「聴こえるぜぇ…」

 「何が?」

 「俺の理性がお前を殺せと叫ぶ声がなぁ!!」

 「そう言うことは本能が叫ぶもんだろ!落ち着け!」


  何やら喚く声が聞こえるが、時すでに遅し。ゴミカスアル中うんちマン絶対殺すマンになった俺は誰にも止められない。クラウチングスタートの準備は出来てる。


 「やめろ、くるなぁ…俺のそばに、近寄るなぁぁー!」


 そしてまた追いかけっ子が始まる…と思われたその時、波一つない水面を揺らす異物が飛び込んできた。石か水滴か墨汁か、はたまた水を掬い上げる手か。


 「シュンくん?」


 声をかけてきたのは髪もボサボサで多分すっぴん。おそらく寝巻きのままコンビニに来たのだろうと思われる、ダボダボのジャージを着た清潔感皆無の女だった。


 にしてもどこかで会ったことがあるような…うーんどこだっけな。と考えているうちに女はだんだんと近づいてくる。

 アル中を見据えたまま、まっすぐと歩みを進める。そう言えばアル中の名前シュンだったなー、と思いながらアル中(以降シュンとする)の方を見ると口をポカンと開けて呆けている。


 「ねぇ、シュンくんなの?」


 女はなおも問いかけるが、シュンは返事をしない。返事どころか、そのまま時が止まったかのように微動だにしない。いや、微かに震えている。


 …ちょっと待てよ、震えている?誰が?俺の友人のシュンが、なぜ?…もしシュンが恐怖で震えているならば、俺の予想が当たっているならば。


 「シュンくん、シュンくん助けてぇ!」


 女がシュンに向かって駆け出した。このままではシュンが危ないかも知れない。俺の予想が当たっているならば、あの女はシュンの()()()だ。


「っちぃ!くそ、間に合えぇ!」


 シュンを助けるべく俺も駆け出す。幸い何故かクラウチングスタートの準備が整っていたので良いスタートダッシュを切ることが出来た。

 何故こんな姿勢を取っていたのかは謎だが、そのおかげでシュンと女の間に体を割り込ませる事に成功した。

 

 自分の体を盾にしながら女に問う。


 「あんたは誰だ!」

 「ミカだけどぉ!!」

 「青鬼かおめぇは!?」

 「は?」

 「え?」

 「…」


 どうやら女は青鬼では無いらしい。

 だが俺の発言が功を奏したのか、取り乱していた女も落ち着いたようだ。シュンも緊張が解けたのか覚悟を決めたのか、俺の肩を掴みながら前へ出てくる。


 「大丈夫なのか?」

 「…あぁ、少し驚いただけだ」


 俺の肩に置かれた手が震えているのが分かる。驚いたと言うのも本当だろうが、おそらくこれは女に対する罪悪感からくるものだろう。

 シュンが女へと声をかける。


 「何か用か、ミカ?」

 「シュンくん、お願い助けて。シュンくんがいないと私、生きていけないの…」


 この女もシュンにダメ人間にされたのだろう。シュンと付き合った女は大体こうなってしまう。シュンは()()()()()()だから。


 「俺たちの関係はもう終わっただろ」

 「どうしてそんなこと言うのよ!私をこんなにしたのはシュンくんでしょ、責任とってよ!」


 こうして言葉だけ聞いてるとシュンがクズみたいに聞こえるな。いやまぁ今のシュンはゴミカスアル中うんちマンだが、クズでは無い。

 それに昔のシュンは高身長でイケメンで性格も良くて、友達も多くて女にモテモテで、非の打ち所がないとはシュンのためにある言葉だと思ったほどだ。


 「〜〜〜!〜〜〜〜、~〜〜~!!」

 「…〜〜、〜〜〜〜」


 それなのに今のシュンは、ギャンブルや酒にハマり、多くの友達と縁を切り、誰もが羨む甘いマスクを前髪で隠している。


 「〜〜?〜〜〜〜〜〜!」

 「〜〜、~_~v〜〜」


 罪悪感のせいだろう。シュンがこんなに変わったのは。

 シュンのスペックは高すぎる。料理や洗濯に掃除まで1人でこなすため、同棲をし始めた彼女はシュンに甘えるようになる。そうしてしばらくすればダメ女の出来上がりってわけだ。


 「〜〜〜、〜〜〜」

 「〜〜〜〜」

 「だぁ!うるせぇ!今シュンの過去回想シーンなんだから黙っとけ!」

 「「はぁ?」」

 「え?」


 俺が急に叫ぶからシュンはキョトンとした顔で首を傾げていた。まるでパーフェクトヒューマンのようだ。


 …ダメ人間になった彼女達はそれが当たり前となり、最初こそ感謝していたが、時間と共に感謝の言葉は減っていった。

 そうしてダメ人間になった彼女に愛想をつかし別れを告げるが、過去の彼女達はシュンを手放そうとしなかった。


 当然だろう。寝ているだけでご飯が出てきて、その辺に服を脱ぎ散らかしても、気づいたら畳まれてタンスの中にある。部屋の中には埃も積もっていないし、何よりシュンからの愛が彼女達を増長させる。このイケメンは自分の言いなりだと。


 シュンが彼女達から離れると、彼女達は生活力を失う。生活の全てをシュンに依存していたからだ。そんな彼女達は元の生活に、シュンがいない生活に戻れない。


 酷く甘い誘惑の蜜は、人を狂わせる。

 シュンは罪悪感を抱えているのだ。自分が彼女達を狂わせてしまったのでは無いかと。彼女達の人生を壊してしまったのでは無いかと。


 俺から言わせてもらうと、悪いのは彼女達だ。誘惑に負けて勝手に狂ったのは彼女達だ。だが心優しきハイスペックパーフェクトヒューマンシュンは、その罪悪感からいつしか彼女と言う存在を己の人生から排除した。誰とも付き合わなければ、これ以上狂ってしまう人も出ないと。


 「…ところであんたは何しに来たんだ?もしシュンを害しようとしているなら容赦しないぞ」


 シュンの過去回想が終わったから、俺は女に声をかける。

 女は俺をキツく睨むと口を開く。


 「あなたがシュンくんをこんなふうにしたのね。昔のシュンくんはこんなじゃ無かった!」


 どうやら女は変わってしまったシュンを見て、その原因だと思われる俺を非難した。


 「おいおい、シュンが変わったのはお前ら元カノ達のせいだろう?俺のせいにしてもらっちゃ困るね」

 「何言ってるのよ!私は何もしてないわ!」

 「何もしないからこうなったんだろ!生活の全てをシュンに依存しやがって!このゴミクズ乞食女が!!」

 「ゴミクズ乞食女……」

 「お前たちゴミクズ乞食女どものせいで、ハイスペックパーフェクトヒューマンシュンはこうなったんだ!てめぇらが勝手に堕落したくせに、狂わされただの壊されただの吠えやがって!」

 「キョウヤ流石に言い過ぎだ」

 

 シュンが俺を諌めるがヒートアップした俺は止まらない。

 シュンを押し退け、言い(つの)る。


「てめぇがシュンに会って最初にすることは、助けて欲しいと詰め寄ることじゃねぇ!土下座しての謝罪だ!堕落してごめんなさい、わがまま言ってごめんなさい、依存してごめんなさいってな!そして次に感謝だ!甘いひと時をありがとう、夢を見せてくれてありがとう、あの時生活を支えてくれてありがとうってな!そして誓え!もう関わらないと!これからは自分の力で生きていくと!!じゃなきゃ…」


 なおも非難しようとする俺に、シュンが後ろから抱きついてきた。

 

 「もう良いんだ、キョウヤ」

 「でも…!」

 「終わった過去よりも、これからの未来の方が大事だろ?」

 「それは…そうだけどよ」

 「それに俺が変わったのは誰のせいでも無いんだ」

 「いや、お前が変わったのは…」

 「お前のおかげだ」

 「は?それって俺のせい…」

 「好きだ。キョウヤ」

 「…」

 「…」

 「ん?」

 「どうした?」

 「いや、俺の耳がいつの間にか腐っていて、ありえない言葉が聞こえたんだ」

 「キョウヤの耳は正常だよ。()()()()のは、俺自身だ」

 「は?」


 もぉまぢむり


 「何イチャイチャしてんのよ…」


おしまい

本当は主人公の暗い部分も書こうと思ったんですが、この方が綺麗に終われそうだったのでこの終わり方にしました。

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