第七話 診療
いつもより文字数少ないですし、二ヶ月ぶりくらいの更新ですし。
時間の流れって怖いですね。
「・・・ここであってるかな」
小夜の言われた通りの道順をそのまま歩いてきて、正しそうな扉の前に立つ。
ノックをしないとな、
「四回だっけか」
リズムは気にせずにとりあえず四回、人差し指を折り曲げて無機質にもほどがある扉を叩く。
「どちら様、うわあ!」
待つことなく扉が開き、開けた人物はレイと目があった瞬間に驚きの声を上げて暫くレイのことをジロジロと眺め始めた。
そちらが見るならこちらもと、レイも目の前の人物を観察し始める。
レイより身長は低く160前半だと感じる。
また耳が見えるほど短く整えられている黒髪で、丸いサングラスを掛けていた。
白衣と、その下には中華系を思わせる服を着ている。
「えっと・・・」
困惑が移されて何を言ったらいいのかわからなくなっていると、突然目の前の男がレイの後ろに回る。
「これは!」
そういうと後ろで何やらぶつぶつと言い始める。
「なかなかに大きいやけどだ、もうすでに出血は止まっているし傷も・・・さほどない。どうしてこんなものを。でもどこかで見たことある傷跡なんだよなぁ「あの!」
ブツブツと後ろで話しているのに耐えられなくなってレイは言葉を遮る。
「あぁあ!ご、ごめんよ、気になっちゃってね。ところで、なんできたんだい?」
なかなかにフレンドリーで、ここでなければすぐに死んでしまいそうな人である。
レイナとはまた別の意味で危惧すべき人だ。
このフレンドリーさは確かに信頼はされないが信用はしやすいだろう。
「この傷を見てほしい」
医者のもとに来るのが病人と怪我人以外にいてたまるか。
「そ、そりゃそうだよね!ささ、入って入って、」
むず痒そうに言われて部屋の中に入ることになった。
部屋の中にはもはや紙の束置き場となった机と回る椅子、その手前に木で作られた丸椅子のみおいてあり、部屋の右側がカーテンで遮られていた。
医療器具は見当たらないが、万が一盗まれないよう、見えないところにあるのかもしれない。
「よし、じゃあここに座って背中を見せてくれ」
言われたとおりにし、彼が回る椅子に座る。
そして診療が始まった。
はじめにあったときはどうしようかと思ったが小夜さんのいった通り医療の技術は一流に近いと思う。
少なくとも今まであった、医者を名乗っていたものの中でもっとも医者らしい人である。
「この感じだと、すぐに治ると思う。でも一応火傷に効く塗り薬と包帯を巻いてもいいかな」
もちろん。という代わりに背中を差し出した。
後ろで椅子がなる音がして男が立ち上がったことがわかる。そうしてカーテンを開けて奥の方へと薬を取りに行った。
というか、あの人名前なんなんだろう・・・
先程までずっと握りしめていた斧の刃を持って自分の顔を照らし、一息ついて足を伸ばす。
というか、斧持ってたのにあの人、何も言わずに入れてくれたな。
肝が座っているのか、もしくは危機感がないのか・・・
不思議な人だ。
なんだかとっても時間が経っているような気がする。
探すのに手間取っているのかもしくは遠いところで管理しているのか。
そんな考えでは退屈はやまなかったため、机の上の紙の束を見はじめた。
視力には結構自信があるため、近づかずに遠目から見る。
日本語、英語、ドイツ語、イタリア語・・・・・・
様々な言葉で書かれている紙が乱雑に置かれているのに理路整然と保たれている。
体操選手でも唖然としそうなバランス感覚だ。
だが、書かれている内容はすべて同じ医療に関するものだった。
「すごいな・・・」
自然とそんな言葉が出てきてしまった。目を滑らせながら軽く読んでいく。
突然、どこからものが強く床に落ちる音がした。
人が倒れたようにも聞こえる。
「・・・びっくりしたぁ」
くぐもって聞こえたから壁を二枚ぐらい挟んでいそうだ。
あの医者が出したものじゃないといいけど。
ーーーー医者視点ーーーー
「あれ、ここにおいておいたはず・・・」
彼しか使っていないのにもかかわらず、強盗に押し入られたといったほうがまだ安心するほどごっちゃりとした棚の中をまさぐる。
ここは、神縄弦からもらった医療品や医薬品を置き続けている場所だ。
最初はがらんどうにすぎなかったが、今では洗濯物を畳んだあと片付けなかったタンスの中に似ている。
医療に詳しくない人にとってはただのガラクタ溜まりでしかない。
「本当はもっと丁重に扱ったほうがいいんだけどね・・・」
あいにく、僕には時間がない。
たまに安全地区から緊急患者が来るし、安全地区以外からは戦闘とか爆弾とか薬物とかに当てられた神縄村職員たちに薬を処方したり塗ったり縫ったり・・・
しかも、僕以外には村医者がいないと来たもんだ。
「はぁ・・・」
本当はもっと人手が欲しいところだけど、ちゃんとした人がいないからなぁ・・・
近くの椅子を引き出して全体重をかけるように座り、うなだれる。
医療を志すものとしては恥ずかしい生活を行わざる負えないが、助けられる人はなるだけ助けたい。
というか、来たばかりの頃はここまで大変になるとは思わなかった。
「ま、仕方がないか」
席に座って一息つき、患者を待たせないために膝に手をおいて勢いで立ち上がった
は、いいものの急に鳴り響いた振動音に驚いて無言で転がり倒れる。
『おい雨来、すごい音が聞こえたんだが気のせいか?』
機械を通して聞こえる特有のモザイクがかった声の発信源を探す。
見渡してもそれらしいものがなく、雨来はふと思い出したかのように白衣のポケットを急いでまさぐる。
出てきたのは昔ながらのトランシーバーだった。
『あることを聞きたいんだがいいか』
いつもならこんなことを聞かずに質問をしてくるはずだ。
なにか違和感を感じ取って話を聞く姿勢になろうと、床から立ち上がって先程の椅子を引き寄せた。
「なにかあったのか?」
『背中に火傷の跡を負った白髪の男が来ていないだろうか』
「・・・・・」
医者としては、患者の情報をおいそれと明け渡せるものではない。
けれど、同じ志を持つものとしては協力をすべきだ。
「あの傷に見覚えがあったのは君がやったからだね?スモーク」
『その言い振りだと来ているんだな』
彼がトランシーバーから離れたのか、言葉が切れた。
こういうときに細かいことを言わず物事を理解してくれるのはとてもありがたい。
そのありがたさが今は癪だ。
「理由を教えてくれ。僕は簡単に患者を危険に晒すことはできない」
少しの間空白が生まれる。
スモークの言葉を待つ間、
『・・・ちゃんと医者としてやっているようで良かったが、本末転倒はしないようにな』
「わかっている。それで?」
『敵かもしれない』
僕達にとってそれは、農家の畑を荒らすイノシシのような存在。
襲撃者という名称で呼んでいる。
「またなのかい?でも、そうは見えなかった.」
『そうは見えなくても本意はわかんねーぞ。以前それで見逃してお前が散々な目にあったこと、忘れたわけじゃないだろ』
奥からスモークの煙混じりのため息が聞こえてきた。
「・・・医者として他者を傷つける行為は許せるものではない。これが君の思い過ごしかどうかはわからないけれど、もし間違っていたちゃんと謝りなよ。」
この決断で人が死ぬ、かもしれない。心做しか口の中が乾いたような気がする。
『・・・じゃああと3分ちょいで着くから』
スモークが理解してくれたかどうかはわからないが、少なくとも言いたいことは言えた。
あぁ。
そう答えて通信を絶とうとしたその時、あることを思い出した。
「まってスモーク!もしかして君、あの子に相談してないん」
そこで通信は途切れ、無音が広がった。
ーーーーレイ視点ーーーー
「・・・それにしても遅いな」
あれだけちゃんとしている人がどうして人を待たせるんだ?
ましてや患者だぞ。傷治ったけど
「これからどうなるかね」「今からこれを塗るね」
ちょうどレイの言葉に答えるように医者が入ってきた。
相変わらずの安全牌医者だが、手には軟膏らしき容器と腕にかけるように清潔なシャツがかけられていた。
後ろ向きでちらりと彼を見ると、腰に手を当てていた。
ぶつけたのはあんたか。
彼はそれを机の上に置き、軟膏を手に取った。
レイは前に向き直る。椅子の軋む音がしなかったからきっと立って行っているのだろう。
「ちょっとひんやりするよ〜」
そう言われ塗りやすいように背中を伸ばした。
指で背中を塗られ始め、背中に絵を書かれている感じを我慢する。
「よし」
塗り終わったのかそう言って引き出しから何かを出し始めた。
「えっと、今から何をするんだ?」
「包帯を巻くんだよ。うちは患者に備品を惜しむようなクソ医者じゃないからね」
そこまでする必要はないのに、なるほど。これは小夜にあそこまで信頼を寄せられる理由もわかる気がする。
彼は傷の処置が医者以上に詳しいという自信がなかったため、素直に預けることにした。
包帯が火傷の跡を覆い隠すようにぐるぐると丁寧に、素早く巻かれる。
「これでおしまい.」
包帯を触ってみたがかなりちゃんとつけられており、かなり硬い。
かといって体が動かしにくいわけでもない。機能性抜群の鎧にでもなれるだろう。
「ありがとうございました」
医者の方を向いてお礼を言う。
「あと、はいこれ」
机の上にあった謎のシャツをレイに渡す。
「これは・・・?」
「だって、その格好で村を歩くのはちょっと恥ずかしいでしょ?しかも目立つしね。だからさ」
「いやいやいやいや」
レイはそう医者の手を押し返す。
「ご遠慮します」
「僕、上に服をくれって言ったらいくらでもくれるし。というかいつの間にか補充されてるしね。だから新品同然のものが多くって。せっかくきれいなのに着てもらえないのは悲しいと思わない?」
と球体よりも裏表のない表情で言われ、おずおずとシャツを受け取り袖を通した。
やはり服というものは素晴らしい。
人に生きる気力と活力と人間らしさを与え、羞恥心と無防備感を取り去ってくれる。
「良かった. 受け取ってくれて。じゃあ来たときとは別の方向に帰りなよ。また患者が来るからね.」
すれ違わないようにする配慮か。
レイはそれに何も疑問を持たず、お礼をもう一度言って部屋から出ていった。
焦げてはしまったがまだ使えるホルダーに斧をしまい直し、ついでに曰く付きの銃があるかどうか確認して来たときとは反対方向へと進んでいった。
次からはようやく戦闘シーンが入ります。
はい、頑張ります。




