第五話 ブラックリストハンター
いつも5000文字前後なのに6000文字近くまで書いてしまいました。
内容がぎゅぎゅっと詰め込まれてますので落ち着きながら読んでください。
「問題はどうやって稼ぐかだが・・・」
神縄弦が言っていた方法を頭の中に思い浮かべる。
お金はもちろんだが、ついでに評価も得たい。
「ところで、レイナはどうやって生きてるんだ?」
自分が割った石たちを元の石に戻そうと集めてパズルのように組み立てているレイナに話しかけた。
「えー私はね、給料もらってる。でもそれじゃあ家買えないし・・・」
「・・・・まず、どんな立場にいるんだよお前」
「神縄村の従業員的な立場かな。表に出してもやってもらえなかったものとか、村の根幹に関わることとかそれは小夜ちゃんのほうが近いけども・・・ま、そういうことをやるね」
一言で言うなら公務員かな。
「なんでそんな立場に・・・・」
レイナはレイの問いへの態度を組み上げた石を足で面倒くさそうに蹴飛ばす行動で示した。
「・・・いくらもらってるんだ?それで」
レイは話を変えようとお金の話に戻る。
「うーん、どうなんだろ。ほら、私最近来たばっかりだからまだ仕事できてないし信用だだ下がりだし。でも、今までやってきたことをここでもするだけかな」
蹴飛ばした石の破片を集めて一からやり直し始める。
「やってきたことって・・・・」
「ブラックリストハンター」
並べていた石の中から一つだけ手に取り握りつぶす。
破片が少しこっちまで飛んできた。
「・・・やっぱりそれが手っ取り早いのか」
「まぁね、えっと、細かいことはたしか・・・」
服のどこかから出した上の方でまとめられている『ブラックリスト』と表紙に書かれた紙の束をレイに渡す。
レイはパラパラとそれをめくってみる。
「こんなに詳しく書かれてるのか」
「逆に読む気が失せちゃうよ」
レイはブラックリストの内容の細かさに感心しているがレイナはそうでもなさそうだ。
内容としては写りの悪い写真と、今までしてきたことの細かい記載、報奨金などが載っている。
様々なやつが記載されていて、一見優しそうにみえる男が犯したことが強姦殺人であったり無駄に派手に着飾った女がしたことは路上喫煙だったり意外に面白い。
中には本当にこれが人の顔を映すために撮られたものだとは思えないほど完全に顔を覆い隠している者の写真もあった。
タバコを吸っているため辛うじて口の場所はわかる。
集団による犯行も最近あったらしく、値段は破格だが必ず5人は殺さなくてはならない。
「どうしてこんなに若い子たちが・・・」
レイはそう呟いてしまう。写真に写っていたのは16歳ぐらいの青年たちだった。
格好と犯したことに目をつぶれば普通の子だ。
犯罪はよりどりみどりだが、罪の大きいとされるもののほうがもらえるお金が多いな。
度々めくっていると大きな赤ばってんがついているものが時々あった。
「これは?」
レイナに赤ばってんを見せると
「それはもうすでに終了したやつ」
「そんなことよく分かるな。」
「だって、私がやったし。それに殺した後は報告しなきゃいけないから。その時にどの仕事が終わってるかとかも教えてくれる。」
朝食の内容を言うように言われてしまったため素通りしそうになったがなかなかに重い内容である。
なにかまずいことを聞いたのかもとレイナの方を見ても相変わらず石いじりをしている。生きるためには仕方がないということだろうか・・・
「ここまで大々的にやったら殺される側も相当な対策をしてくると思うんだが」
一度レイナの方を見る。
「そういうヤツラは村の外部にいるよ」
レイナはそこら辺の石からこすりつけると白い跡を残す石を選んで存在意義のないアスファルトに何かを書き始めた。
ある程度書くとレイナと対面するようになっていたレイのことを手招きして隣にこさせる。
書いていたものを見ると変な形をした図形のようだ。
地図のように見える。
「神縄村はざっくり言って三階層に分かれててさ、まずここが、神縄村の中心地。」
そう言って図形の右側に石の破片を置く。
「ここには普通の人たちが普通に暮らしてる。一番安全だから安全地帯とも呼ばれてるね」
おいた石の破片の周りを図形からはみ出ないように、図形より一回り小さく塗りつぶす。
「この塗りつぶしたところが私達がいるところで、ちょっと普通じゃないヤツラがちょっと普通じゃなく暮らしてる。」
「ちょっと、ってことはちょっとどころじゃないヤツラもいるのか?」
そうレイが言うと図形の残りの部分を指した。
「ここが、神縄村の外側。ここは外と近いせいで統制とかもうまく行ってないし、ルールが守られることもない。出入りは簡単。一応神縄村とは言われてるけどここはそう思われてないし、神縄弦も黙認してる。」
「もしかして不法滞在とされるのってここに入ってきた人だけってことか?」
レイがレイナの言っていた『私達がいるところ』を指差す。
「・・・・そうだね、そうなるね。で、どう?ざっくりとだけど理解できた?」
「まぁ・・・」
お前が助けたのにどうしてそんなにあやふやな言い方なんだと口を突っ込みたくなるが黙った。
「この外側から入ってくる奴らがいるんだ。危険で危険でどうしようもないヤツラがね。その入ってきたヤツラを退治するって感じかな。」
なるほど、内部に入ってくるからこうして存在が知らされているだけで他にもやばいヤツラはいるってことか。
「よし、じゃあ早速退治にでも行こっか!」
「え?ちょ、まってって。どこにいるかもわからんやつをどうやって、」
「だいじょーぶ目星付いてるやついるから」
レイナはレイからブラックリストをサラッと返してもらい、ブラックリストの中で角が折られているページを開いた。
レイナはブラックリストを確認しながら余っている手でレイの腕をつかみ、すごいスピードで走り始める。
レイは足が追いつかず、走っている最中に何回か足が浮いた。
これじゃあまるで大型犬の散歩に引きずり回される飼い主のようだ。
景色が次から次に移り変わっていき、治安の悪いと思った風景がさらに治安が悪くなっていく。
ここが、外側か。
しかし、いつからか景色が変化しなくなる。
というか、同じところをぐるぐると回っている気がして徐々に気持ち悪くなってきた。
「あれぇ?おかしいな、永遠に同じ景色だ」
「おかしいなじゃねぇ!」
レイの全体重をかけて止まることのないレイナを止めようとする。
「あれ、どしたの?」
止まってはくれたが、重しによって止まってくれたわけではないようだ。
「こんのやろ・・・今のやつで何人の俺が死にかけたか・・・」
「死んでないからおっけ」
「もう二度と、お前に、道案内は・・・はぁはぁ・・・させない!」
バッとレイナからブラックリスト奪い返し、レイナが見ていたページを見る。
書かれていたのはひょろっとした目張りの男で、神縄村で禁止されている危険薬物を売っていたらしい。
報奨金は高いが、集団犯罪を起こした奴らには劣る。
「こいつ、見かけたことあるんだよね〜ここらへんで。多分」
いや〜迷子になったわ、と言われる
「お、まえなぁ」
出会ってから日にちが経っていないにも関わらず、レイナに対する小夜の気持ちがわかってきた。
「しっかし、俺もここに来て1日も経っていないんだぞ。地形もよくわからんしそれにここまで来て何も収穫なく終わるのも癪だし、とにかく思い出してくれ」
う〜ん、とレイナは顎に手を当てて考え始める。レイナの返答を待ち続ける。
「ねぇレイ」
「・・・思い出したか」
「今すごく私頭良さそうに見えない?」
「上から見ても下から見てもどこから見ても見えない」
うむむむ・・・と今度はどうして自分が頭良さそうに見えないのかを考え始めた。
レイは暇なのであたりを見渡す。
先程までいたところは商店街という感じだったが、こちらはビル群の集合体だ。
しかし、ちゃんと立っているビルはなく大抵が折れたり崩れたりしている。そのおかげで遠くの廃工場まで見ることができる。
そう視線を動かしていると目の端に動くものが写った。
「レイナ、なにかあそこに動いていたものが」
レイナの服を引っ張り、レイナの意識を向かせる。
「何があるのさ」
そういうレイナをおいて、レイはビルとビルの間の路地裏に向かっていく。
路地裏の狭い壁には風化しきったチラシが壁の一部分になっておりその部分だけ明るく見える。
「あれ、」
路地裏を見回して下を見ると地面に男性が口を震える手で抑えながらしゃがみ込んでいた。
レイの声が聞こえたのか青ざめている顔を上げ、かなり焦燥していて髪の毛が荒れに荒れているのがわかり、しかも上から眺めているため目張りなのがよくわかる。
「うわぁあああああ!!!」
「うぐっ、」
情けなく叫ぶと同時に手に持っていたらしい煙幕弾をレイに投げつけた。
煙が口の中に入らないように手で抑える。
「レイ、もしかして・・・」
いつの間にか後ろに来ていたレイナの声で視界が真っ白になりながらも、どことなく嬉しそうなのがわかる。
「おい、レイナいまのって・・・・」
「私が探してたやつ!うそ、小夜ちゃんに伝えないと!」
そう、レイナは元気ながらもちゃんと殺意を帯びて走っていく。
「俺も追いかけないと」
レイナに追いつくなら路地裏よりも障害物のないところを走ったほうがいい。
そう考えてレイはビルの屋上に出ようと路地裏の狭さを利用してうまく壁を登った。
屋上に出てレイナが走っていった方向にビルとビルの上を飛ぶように進んでいくと何個かまた煙幕弾が使われたのが見えたのでそれを目印にして追いかけていく。
たとえさっきまで病院にいたとしても今までしてきたことはなかなか無くならないことに気付けた。
煙幕弾の使われる間隔がどんどん狭くなっていき、ついには使われなくなった。
煙幕弾を使い切ったというよりは使えなくなったと言ったほうが正しそうだ。
レイの勘は当たっており、最後に煙の上がったところを見るとレイナが目張りの男の胸ぐらをつかみ持ち上げていた。
少しだけだが会話が聞こえる。
「ま、まってくれ。別になにも、したくてしたわけじゃ・・・」
「だからなんだっての、ああいう事するぐらいなら死ぬことを覚悟して遺言くらい考えとけばよかったのに。」
「ち、違うんだよしてくれ、私には家族が・・・!」
「嘘つかないでよ〜」
ちゃんと話を聞くのがレイナの礼儀なのだろうか。
律儀なものである。てっきり彼女の行動のことだからサクッと終わらせるもんだと思った。
人が今から殺されるというのに、風が清々しくなびく。
なんだか少しタバコ臭いような?
だが、俺としては早く終わらせてほしい。
捕まえてくれたのだから殺すのは、俺がやろう。
そう決心してレイは鉄パイプを伝った。
地面と少し離れたところで鉄パイプから飛び降り、レイナの近くに降り立った。
「レイナ、俺がー」
そう言いかけたとき、まるでレイとレイナが一つの場所に集まるのを狙っていたかのように
ピンの外された手榴弾が空から降ってきた。
レイは一瞬の間に壁を蹴って手榴弾を後ろに投げ飛ばし、すぐ地面に降りたが無傷でいられる距離ができるよりも
レバーが完全に解放されるほうが早かった。
2つ目の太陽ができ、暴風と手榴弾の中に入っていた破片がこれの持ち主の殺意の大きさを示している。
大きな爆発音で、耳鳴りが聞こえ続けた。
レイナは咄嗟に目張りの男を盾にして重症を防いだ。
目張りの男は運悪く破片が急所に当たっており、レイナが間接的に殺すことになる。
こういうことは別によくあること。自分が誰かを殺そうとしているときまた別の誰かも自分を殺そうとしていることなんて。
だけど、少し自分が油断していたことを恥じる。
が、その前にレイだ。
「レイ!」
レイは背中から暴風を受けたことと、手榴弾をなるべく後ろに投げてたことで意識はあるが、背中は爛れ血の赤色なのかやけどの赤色なのかがわからない。
「だい、じょう、ぶだ」
レイは壁を伝いながらゆっくりと立ち上がり、レイナの方をまっすぐ見据える。
「逃げるよ」
レイナは、レイのことを片腕に座らせるようにヒョイと担ぎ上げた。
ビルは先程の爆撃によって人を殺せるほどの破片が
バラバラと降ってくる殺人兵器となってしまう。
そのことを恐れてレイナはレイと目張りの男を探すときよりも早く走っていく。
途中レイナに破片が降り落ちそうになるが、余っている方の手でことごとく粉砕していく。
もう破片の飛び散る心配がないくらいまで逃げてきてレイナはレイの状態を確認する。
・・・・よかった、意識はある。
「一旦病院まで行くね」
「い、やレイナもう大丈夫だ」
「どこが・・・」
そう言ってレイはレイナから降りると背中の部分が焦げ焦げになってしまった上を脱いだ。
「これもらったばっかなのに・・・」
レイナは自分のことよりも服の心配のほうが先なことに違和感を覚えたが、レイの背中を見てすぐに理解した。
レイの背中はもう出血が止まり、古くなった皮膚がボロボロと落ち少しずつ新しい皮膚が生まれつつある。
レイは唖然としているレイナの方に振り向きなんでそんな顔をしているのかを考える
そういや特異点いってなかったな。と自分で納得した。
「レイナ、ひとまずここから離れよう。敵がどこにいるのかがわからない」
「え、あぁ、うん。そうだね」
レイナは歯切れ悪くレイの不気味さを見つめ続けた。
「は?」
レイたちの様子を屋上から見つめているものがいた。
長いマフラーで首と顔を完全に覆い隠し、パーカーを着ているが袖が広がらないように包帯をゲートル代わりにしている。
足の方は本物のゲートルがちゃんと使われており、地下足袋を履いていた。
隙間から出てくるタバコの煙だけが人間であることを証明している。
嘘だろう。そんなはずは、見間違いでないことを確認するために顔を覆っているマフラーを脱ぐ。
写真でも映らなかったセンターわけされた灰色の髪と、茶色い瞳が二人を見る。
「・・・・・・」
今ここで仕留めそこねて逆に良かったかもしれない。
と、手に持っていたピンを投げ捨ててタバコを吹かし、気分よく煙を吐く。
ビルの屋上であぐらをかいてスモークはこれからの行動を考え始めた。
次の話は最後に出てきた人物の視点から始まるので少々驚くこともあると思います。
彼氏視点の神縄村を書くのが楽しみです。