第二話 大日本帝國と方向音痴のカワハギと小夜
最初は説明ばっかりでつまらないですね。
それを面白く書くのがたのしいです。
この世界は今、冷戦のさなか。
大日本帝國が全世界を敵に回して、今もどこかで誰かが死んでいることが当たり前になるほどに長く続いている戦争の真っ只中。
そんなに長く続けば勿論国の中も荒れるに荒れるわけであって
この国も例外ではない。
疾うの昔に戦争反対派の思想を持つものなどは消されてそれがたとえ富裕層であったとしても金を取られるだけ取られて没落貴族のようになり、貧困層のなかの金持ちに差別的な考えを持っていたものの暴力の掃き溜めになるのがオチだ。
そんな中でも富裕層のための国造りをし続け、挙句の果てには貧困層の者たちがデモを起こし軍隊が出る羽目になった。
もちろん剣にならまだしも、銃にペンが叶うはずもなく皮肉にも最も富裕層の多い国になりかけてしまった。
そうして富裕層を関東地区に集めさせて貧困層の下賤な民を視界に入れないように壁を築き上げることとなり、完全隔離の状態が今も続いている。
だが、その実態は富裕層を日本の外に出さないようにするためだ。
軍事活動を支援してくれる金づるが外にへと羽ばたいて敵国に亡命してしまうことを恐れた日本はどうにかして鳥籠を作る理由を作りたかったのだろう。
それに彼らは利用されてしまった。
不自由な自由か自由な不自由か、
どちらに転んでも人生が解決することはない。
鳥籠の外はこの村のように誰かが取り仕切ったり、完全な無法地帯など色々とある。
ここがまだ治安の良いところで助かった。
どうしてレイがこんな事を考えたのかはレイナが見せてくれたこの景色のせいである。
この絵画には、この世界の現状のすべてがジャムのように詰まっている。
そのジャムに手を付けるものが誰もいないのに作られ続けるせいで品数は飽和してしまった。
ざっと、今の世界はこんな感じだろうか。
相変わらず包帯という鎖から解き放たれることはできず利口にベットに座っている。
これから本当にどうしようか。
とりあえずレイナが呼びに行くといっていた「小夜」という人物のことを待つしかないだろう。一体どんな人なのだろうか。
ーーーレイナ視点ーーー
「やっべーここどこだろ」
頭を掻きながらあたりを見渡す。四方八方白色に包まれた廊下がレイナのことを見守り続けている。
さっきまでちゃんと正しい道を歩いてたつもりなんだけどな〜。まずまず、入り組んでるのが行けない。
それに、まだ慣れてないし仕方ないよね。私に覚えてくれない道順が悪い。
レイナは小夜に会いに行こうと頑張っているが、その努力は実らない。
しばらく歩き続けて壁にもたれかかる。
「あーほんとどうしよう・・・こういうときは」
胸ポケットから小さな黒い円盤のようなものを取り出す。それを軽く2回押して口に当てた。
「もっし〜小夜ちゃん迷子になったから助けて〜〜〜」
ぴーっぴーという一定間隔でなる電子音を耳にしながら応答を待ち続ける。
糸が切れるように電子音が途切れると
「チッ」
舌打ちとともにぶつんと応答が切れる。
「ちょっと小夜ちゃーん!ホントのホントに迷子なんだよ〜〜〜助けてくれないと駄々こねてやる!」
そう言っても向こう側からの返答は来ない。
「さーよーちゃーん!聞こえてるんでしょ!」
「はぁああああああああああああ」
長い溜息にビクッとしてしまう。
「全く持ってあなたは変わりませんねムカつきます。こっちはあなたのせいでいい職場から左遷されたんですからね。」
早口でまくしたてられる。
「いやーそれは神縄弦が決めたことじゃんか。私、大して悪くな「黙りなさいこのカワハギ!いや、方向音痴カワハギ!」
大声で言葉を遮られてる。言葉が真っ白な空間を駆け巡った。
「カワハギて、てか海にいたんだからウミハギなんじゃね?」
「反省ぐらいしなさい!!!!」
流石にやりすぎたか・・・・
素直に反省して謝るための口を準備する。
「ごめんなさい・・・もうカワハギでミスはしないよ。でも助けて欲しいんだよね。レイが待ってるから。」
「レイですか、それが助けた人の名前ですか?」
レイナが謝った事によって怒りが収まったのか声の大きさが通常のものとなった。
そうだよと伝える。
「珍しいですね。」
「・・・なにが」
少し不服そうに答えた。
「いや、貴方が他人に興味のある姿を始めてみましたので。どうして助けたんですか」
心外だなぁおい。と思うも今までの行動を見て彼女がこう思うのも仕方のないことだろう。
「えぇ〜理由かぁ・・・まぁどこかの誰かに影響でもされたんじゃないかな。」
そういってどこかの誰かに話しかける。
「・・・・ほんとに助けなければよかったと思ってますよ。そのせいで私もここに来てしまったんですし」
あるぇえ?褒めたと思ったが相手側はさほど嬉しそうではない。
「というか、他のところにも影響を与えてほしかったですけどね。そのクソみたいな方向音痴とか。」
それどころか集中砲火を食らってしまう。
虎の子を得ようと思ったわけではないのに虎穴に入ってしまったようだ。これ以上いてはだめだと思い、話をずらす。
「それで、結局助けてくれるの?」
「えぇ、まぁ。まずはレイさんが目覚めたようですすので会に行こうかと、どこぞの誰かのせいで不法滞在者の対応雑務は私の仕事になったんですから。」
話をうまくずらせたと思ったがそんなこともなかったらしい。
「それじゃあ、私はどうなるのさ」
本日2度目のため息が響き渡る。
「レイさんとの対談を済ませるまでは諦めずに出口を探してみてください。では」
「ちょ、ちょっとお・・・小夜ちゃーん、いや小夜さーん」
今度こそ本当に切られてしまった。
「方向音痴ってしってるくせに!」
そう断末魔のように言い残して、正しくない道をまた進んでいった。
だが、今回の目的は果たされたのでいいだろう。
ーーレイ視点ーー
目まぐるしく人が蠢く街を眺めていると右手側にある扉が開かれた。
そこから入ってきたのは黒髪短髪頭の女性だった。
黒色のスーツをかっちりと身に着けていて、この非現実的な世界における現実では物珍しく見られそうだ。
レイの方をみて向かってくる。
明らかに彼に対して目的があることがうかがえた。
「ど、どちら様で・・・」
不安な心とスパイス程度にかけられた警戒心を飲み込む。
味はしなかった。
「小夜。と申しいたします。」
これが小夜さんか。
レイナからは
”怒らせると怖いよ〜。毎日怒らせすぎてるから起こってるのがデフォルトになっちゃってずっと怖いままだけどね”
とふわっとした説明を受けたが、そうは見えない。
どちらかといえばおとなしめだ。
「ところで、レイナからは一体どれくらいの説明をお受けになられましたでしょうか。」
堅苦しい差を感じる敬語だが逆にこれくらいの距離感のほうが正しいのだろう。
「あまりされていないです。」
その一言で眉間にシワが寄る。
「具体的には?」
「そうですね・・・」
今まで聞かせてもらったことを伝える。
伝えていくうちにどんどん顔が不機嫌になっていくせいで正しく伝えられているのかどうかがわからない。
「わかりました。その前に」
紙を一枚取り出す。
蛍光灯の光で少し透けて見えた。
「不法滞在者だったときに肉体がぼろぼろでしたので色々と検診させていただきました。その結果です。」
覗き見ようとしていたからか説明してくれた。
なんともまぁご丁寧な扱いだろうか。
カワハギで失敗したやつに助けられたときはどうなることかと思ったが、この自治区は今までに見た中で最もちゃんとした制度が取られていそうだ。
「漢字読めますか?」
「はい。」
ならば、という感じで紙を手渡される。
”肉体的疲労による過労”とでかでかと書かれておりこいつが原因であそこまでへばっていたことがわかる。
これだけを書くために質のいい紙をいちいち使っていて大丈夫なのだろうか。
「レイさんがきたときあんなに血まみれだったのでてっきり銃にでも打たれたかと思いましたけど何もなくてびっくりです。」
何もなかったわけではないし、返り血でもない。
ただ、あった傷が全て痕もなく再生してしまっただけの話だ。
「これぐらいですねでは、」
と、レイの手から紙を取り、手に持っていたバインダーとレイとを見比べた。
「あなたのことを聞かせてください。質問に答えるだけで構いませんので。」
なかなかに厳重な仕組みが取られている。
しっかりしているのは彼にとって最上以外の何者でもない。
「まずは、お名前から」
「えっと、レイです」
小夜は名前をを知っていたがこの業務の一連作業に入っていることは一つたりとも抜かしてはいけないためちゃんと聞く。
この真面目さはレイナにはない。
「次にどこから来られましたか。」
「どこからと言われても・・・」
神縄村の外からとしか言いようがないがそれではあまりにも抽象的すぎる。
「そりゃそうですよね。大丈夫です。答えられないものは答えられなくても。」
案外プライベートなことには突っ込まないんだな。
こういうゆとりがあって助かった。
「では次に何かなされたていたことがありますか」
「とくには」
レイの言ったことをバインダーにある紙の上にまとめておく。
一拍おいてまた質問を投げかけた。
「特異点は持っているでしょうか」
「と、特異点?とは」
急に知らない言葉で殴られてしまった。
「直訳ですよ。ここでしか使われていない言葉なので知らなくて当たり前ですよ。安心してください。」
となると、通常とは違った性質を持つ点のことか、何においてだよ。原点Oがわからないのに答えなど出せるか。
「もう少し具体的に・・・」
「わかりました。」
特異点とはですね普通の人とは異なる力ですね。
持ってる人も持っていない人もいるらしいですが、よくわかりません。
なにせ自分にしかわからないらしいですから。
「よくわからない?」
「はい。来たばっかなので」
はっきりと断言されてしまう。
これでこの仕事を任せても大丈夫なのか?
レイナと同じ既視感を覚える。
「なんで私この仕事につかされたんでしょうかね。意味がわかんないです。意味はあるんですけど」
バインダーを持っているのがいやになったのかベッドに置いた。
「・・・わからないな」
「ですよね〜〜ここはもういっそのことあの元凶にでも会いに行きましょうか。あの人なんでも知ってますし。てか知ってなきゃ困る」
レイナが諦めたことを小夜も諦めて別の誰かに任せようとしている。
その誰かは3度目の正直になってくれるだろうか。
「どうせあわなくてはいけないのでメンドイことは先にちゃっちゃと終わらせるのが吉です。」
もう立ち上がれるでしょうし。そう言ってレイの左腕側に回り太ももに隠していたナイフで包帯を切っていく。
ようやく解放されて嬉しいが時はすでに遅い。
勝手に話を進められているし・・・
この村の人達はみんなこんな感じなのだろうか。先が思いやられる。
腕を自分のものにするために軽く振った。
「誰に合うのかだけは教えてくれ。」
「神縄弦です。レイナから聞いたでしょう?自由奔放でマイペースで楽観的なクソ雑魚ナメクジジィです。」
退治に大量の塩が必要そうなやつに今から会うらしい。でもまぁカワハギで失敗したやつよりかはマシだろう。
・・・にしてもこんな言われようでいいのだろうか。
図に乗りましたね。