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第2話「見た目は少年、中身も少年、だが魔王」

勇者=ブラン・ニシュラム

LV999、HP99999、MP9999、力999、魔力999、防御力999

アビリティ

魔族キラー(対魔族ダメージ+500%、魔族防御+500%)

神族キラー(対神族ダメージ+500%、神族防御+500%)




 もし現在の勇者のステータスをRPG風に数値化するならばこれが最も妥当だろう。

 全てのステータスがチート級に完ストしていた。


 生まれながらにして限界値に近いレベルに、生まれ持った魔族と神族に対する圧倒的な資質。

 普通の人間が勝てるレベルでは無い以前に、魔族や神族ですら太刀打ちが出来ない程の圧倒的な力を有していた。


 同じ種族である人間ですら虐げられていると云う事は、他種族の魔族と神族の扱いはその比では無く。

 僻地に追いやられ、飢饉に喘ぐ生活を強いられていた。

 魔族、神族が勇者へ抱く憎悪は人間達を遥かに凌駕している。


 人間と魔族神族の暮らしに何れ程の差があるのか?


 科学の発展と共に豊かな暮らしを送れるようになった人間。

 王都を見やればコンクリートで出来たビル群が建ち並び、そんな街の中を車や列車が所狭しと往来している。


 そんな王都を一歩離れると往来するのは木製の馬車ばかりで。魔族や神族が暮らす家など昔ながらの木製か煉瓦造りの住居しか無かった。

 どうしてそこまで暮らしの差が出来たのかと言えばそれも又勇者による所業だった。


 下等な魔族と神族には中世の暮らしがお似合い。

 人間の技術をくれてやる道理は無い。

 そう勇者は吐き捨て、人間の技術を魔族と神族に伝来させる事を頑なに拒んでいた。


 その結果生活水準に雲泥の差が生じるようになり。魔族や神族が人間の街を見れば軽く未来へタイムスリップしたような感覚に陥ってしまう。



「わぁ……、見て見てグバハ! 鉄の乗り物が走ってるよ!」



 その少年も例には漏れず、魔族が人間の街に訪れると正にこのような反応をして。

 自分達が暮らす環境との違いに驚嘆してしまう。



「お、お待ち下さいエデル様! 余り目立つような行動は謹んで下さい!」



 グバハと呼ばれ、真っ黒なローブに身を包んだ壮年の男は連れの少年が目を輝かせながら人間の街を見て回る姿をたしなめた。

 ボロボロの麻の生地の服を纏い、如何にも中世の住人と言わんばかりの少年とは対照的に。

 お前の服装が一番目立つわ!

 と突っ込みを入れたくなるような如何にも不審者と言わんばかりの服装だった。



「でもでも……、僕人間の街に来るの初めてだからもっと見て回りたいよ……」



 エデルと呼ばれた少年はグバハにたしなめられるとそう寂しげに呟いた。

 無理も無い、魔族と神族が人間の街に入るには特別な許可が必要なのだ。

 一般人なら先ずもって入国を許される事は無い。人間の街に来る事も無く生涯を終える事がざらだった。



「お気持ちは痛いほど分かります。エデル様はまだ13才、人間の街を見てはしゃぐのも無理もありません。しかし、今日我々が此処へ訪れた真の目的を忘れてはなりません。先代亡き後、エデル様が初めてその任を全うされる今日が記念すべき初めての日なのです。今は我々魔族の国の一大事、はしゃぎたい気持ちをグッと堪えて何卒職務を全うする事を――」



 グバハにたしなめられ、寂しげに呟いたエデルにグバハはそう言葉を続け。今が、今日が如何にエデルにとって大切な日なのか説こうとしたが。



「あの、すいません。それ何を聞いてるんですか?」



 エデルは一切グバハの忠告を聞く事は無く。街行く青年が見慣れぬ物を耳にはめ歩いていた姿に、目を輝かせながら問い掛けた。



「ん、これ? ワイヤレスイヤホンだよ。見たこと無いの……て言うか君凄い格好だな」


「わいや……嫌本? 良く分からないけど格好良いですね!」



 青年からそれが何なのか聞いたエデルだったが、聞きなれぬ言葉に戸惑った後に理解する事を諦めてそのフォルムを称賛した。

 今や人間の世界では無線が主流になっている。有線どころか、科学的な機械すら無い魔族の国で生まれ育ったエデルにイヤホンが理解出来なくとも無理はなかった。


 突然エデルに話し掛けられた青年はと言えば近代的な街に相応しく無いエデルの格好を見て驚いていた。

 手編みで縫った事が分かる荒い目の麻の素材に、しかも泥や小さな穴が空いているボロボロの服なのだ。

 今や人間達が着る服は機械が均一に作り上げる大量生産品ばかり。


 服装からして人間の国出身者では無い事が分かり、若者は思わずエデルに問い掛けた。



「その服装……、君もしかして……」


「おおっとエデル様、こんな事をしている場合では無いですよ! 我々には優先させなければならぬ急務があります! 先を急ぎましょう!」



 青年がそこまで言い掛けるとその先の言葉を先読みしたグバハは慌てた様子で言葉を遮り。エデルの手を引きその場から去って行った。


 君もしかして魔族か神族の子なの――。


 グバハが予測した言葉はそんなものであり、実際青年もそう問い掛けようとしていたのだが。

 今この場でエデルが魔族だと知られれば余計な騒動が起きてしまう。

 そう危惧したからこその判断であった。



「な、何だあのおっさん……」



 突然声を掛けられ、訳も分からぬ内に目の前から去って行った二人に困惑しながら青年はそうポツリと溢した。

 エデルの格好もおかしかったが、真っ黒なローブを羽織り。顔を隠すようにフードを目深に被っていたグバハに青年は不信感を抱いていた。


 兎にも角にもこうしてエデルの人間の街デビューは果たされた。

 後の世で魔王でありながら世界を救った英雄と呼ばれ、人々から崇められるエデル・グエルナークの物語は幕を開けたのだった。

 




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