地獄道 2
リュードは地獄を探索する時に必ず気をつけていることがある。
それはモンスターには近づかないということだ。
それは今の身の丈に合わないフィールドにいるリュードを見ると当然と思うかもしれないがちゃんとした理由がある。
それは地獄のモンスターに関わらず全てのモンスターの持っている能力に由来する。
それはプレイヤーを殺したモンスターは無条件で種族が進化するという能力だ。
何を言ってるんだと思う方もいるだろう。
では詳細を説明しよう。
まずこのゲームはプレイヤーが英雄になることが目標だ。
言い換えればプレイヤーは英雄という人間の強き者であり、モンスターの天敵と成り得る素質を持っているということだ。
そんな存在をモンスターが殺すことができたならば、それはモンスターにとってその種族の壁を超えるほどの経験となる。
そして、その経験を糧にして進化するのだ。
そしてプレイヤーを殺し進化したモンスターはプレイヤー殺しに積極的になり人間に仇なす。
故にプレイヤーは基本、格上に挑まず、挑むとしても逃走手段を複数持っている。
とはいえ、それのなにがリュードに関わりがあるかと言うと⋯。
ああ、話している間にリュードがモンスター食われてしまった。
そしてモンスターは先程の説明通りに進化する。
進化が終わると何故だろうか?
一方向に向かってモンスターが移動をし始めた。
まるでそこになにか獲物が居るような笑顔を浮かべて⋯。
その先を見てみると先程死んだリュードの姿が!
⋯想像はついてると思うがモンスターがプレイヤーを殺し、進化するとその殺したプレイヤーの場所が分かるようになる。
これはフィールド内限定の能力であり、モンスターは基本的に違うフィールドに行けないためそこに近づかなければ大丈夫だ。
察するにこの能力はゾンビアタックや無理なフィールドでの狩りを抑制するための能力だろう。
そのため、そのフィールド内限定という制限があり、プレイヤーはフィールドから離れたリスポーン地点に戻るため事故も起こらない。
だがここに例外がいる。
そう!
モンスターに殺されても同じフィールドに出現し、殺したモンスターにとっては苦労しない獲物であるリュードという例外が!
リュードはそのことに気づいたときから全力でモンスター殺されないよう隠れて探索している。
けれど殺風景であるこの地獄では、どう頑張っても見つかったしまうことがある。
そうしてモンスターに見つかり、殺され、標的にされた場合、リュードはとある行動をする。
リュードはリスポーンするとため息をつきながら初期武器を取り出す。
初期武器は何回死んでも無くならないが地獄では使えないために仕舞っていた武器だ。
それ即ち向かってきているであろうモンスターには全く役に立たないということでもある。
それを取り出しどうするのか⋯?
リュードはその初期武器を持つとそれを慣れた手つきで首へと持ってくと首を断ち切った。
なるほど!
この地獄のモンスターには使えない初期武器でもボロボロの装備しかしていないリュードには使えるというわけだ。
何もリュードが血迷ったわけではない。
リュードはモンスターのプレイヤー殺しの能力を知ってから、モンスターに見つかってもできる時には自殺をしている。
それが今回は急にモンスターが現れたため自殺が間に合わなかったわけだ。
え?
それは今、自殺する理由にはならないって?
それはそう。
ならリュードが自殺する理由を教えよう。
ああ。
またリュードが自殺した。
どうやらまだ目的を達成してないらしい。
⋯さて、なぜリュードは自殺したのだろうか?
どうやらリュードは目的を持って自殺しているようだ。
リスポーンした後に周りを見渡し目的のものが見つからないと自殺する。
それを繰り返しているのは先程リュードを殺したモンスターに対処するためだ。
先程、言ったようにモンスターは殺したプレイヤーが同じフィールドに来るとそのプレイヤーに向かってくる。
それこそ、進化した能力全部を使って追ってくるわけで普通プレイヤーがフィールドに来て追いかけられると逃げ切れない。
しかし、リュードは違う。
リュードは《放浪者》によるランダムリスポーンと地獄の転移無効によって地獄内をランダムに移動する。
それは言い換えれば地獄限定とはいえ様々な場所に一瞬で移動できるということ。
これによってリュードを殺したモンスターは高速移動するリュードの場所を掴みきれない。
⋯だがモンスターは自然に消えることはない。
そしてリュードがプレイヤーである以上ずっとリスポーンし続けることはできないだろう。
これではただの時間稼ぎにしかならない。
そこで重要なのがリュードの目的のものだ。
リュードは地獄のとある場所へのリスポーンを狙っている。
その場所に行ければモンスターは対処できる。
そのために自殺を繰り返す。
そうしていると目的のものがある場所へとリスポーンすることができたようだ。
リュードは周りを見渡すと素早く移動を開始する。
そうして移動しているとリュードを殺したモンスターが叫び声を上げながら近づいてきた。
その叫び声を聞いたリュードは慌てるでもなく目的地で位置についた。
するとリュードを狙って走ってきていたモンスターが急に立ち止まった。
モンスターは辺りの様子を見ると何かに怯えてだした。
モンスターはリュードを追いかけるのを辞めるとすぐに元の場所に引き返そうとする。
だがもうここは“あいつ”の縄張りだ。
あのリュードを狙っていたモンスターが逃げようとすると一瞬で頭が無くなった。
リュードを狙っていたモンスターの近くを見るといつの間にか黒い騎士のような存在が現れていた。
その黒い騎士は縄張りに入った侵入者を必ず殺す。
そう。
こういうゲームをしたことがあるものにとって全く歯が立たないモンスターをどうにかしたいときにやる手段の一つ。
それをリュードは狙っていた。
ステータスでも地の利でも負けている相手をいなくならせるにはどうするか?
化け物には化け物をぶつける作戦だ。
これによりリュードを狙ったモンスターはいなくなった。
リュードは大丈夫なのかって?
大丈夫さ!
何百回も探索中にこの黒い騎士の縄張りに入ったせいで殺されている。
黒い騎士の縄張りは完璧に理解しているのだ。
え?
黒い騎士はモンスターみたいに同じフィールドに入ったら襲いかかってこないのかって?
どうやらこの黒い騎士は縄張りに入った存在しか狩ることはないようなのだ。
そうしてリュードは危機を乗り越え探索を続ける。
モンスターに見つかれば自殺し、自殺が間に合わなくてモンスターに殺されれば自殺を何度も繰り返し黒い騎士に擦り付ける。
そうまでしてリュードは何を求めているのだろうか?
足取りは重く、進みが遅く。
けれども止まることはない。
歩いて歩いて歩いて。
どこに行くのだろうか。