地獄道 1
ガラガラガラガラ
そんな音がする。
歩いて一つ、歩いて一つと拾っていく。
鞄に詰め込み歩いていく先では仲間が和気あいあいと話しながら敵を倒している。
それに安心しながらもただ拾っていく。
鞄からもの溢れそうになった。
仲間に声をかける。
仲間のうちの一人が近づいてくる。
その仲間に話しかけようとする。
ザシュッ!
え?
視界が傾く。
声が聞こえる。
笑い声が聞こえる。
何かを言っている?
ま⋯ぬ⋯け⋯?
霞む視界に仲間が映り込む。
その仲間に手を伸ばそうとすると仲間が剣を振り上げ⋯!
*****
***
*
「っ!」
夢から覚める。
周りを見渡す。
寝る前と変わらない赤黒い大地。
そこの岩の陰で寝ていた。
起きてすぐに寝具をしまう。
一緒に起きた赤黒い犬とともにまた歩き出す。
さあ、今日はどこへ行こうか。
ここは地獄道。
悪鬼羅刹が住まう修羅の道。
行きは地獄で帰りも地獄。
けれど歩める道はある。
さあ、征こう。
悪鬼羅刹を乗り越えて。
地獄すらも飲み込もう。
***
そのゲーム『HEROIC TALE FANTASY』は超人気ゲームだ。
一人一人が英雄となり英雄譚を作り上げていくという謳い文句で発売されたそのゲームは発売からたった数年で世界の全ての人物がやっている関わっているというゲームになった。
そのゲームにおいて主人公とは自分自身であり、その道を決めるのもまた自分自身であった。
そんな中、あまりにも世界が熱狂しているからという理由でこのゲームを始めたリュードは現在、地獄にいた。
地獄とは比喩表現ではない。
このゲームにおいてしっかりと存在するフィールドであり数々の廃人が匙を投げた曰く付きの場所だ。
そんな所に始めて数日のリュードが何故いるかは割愛するが簡単に言えば騙されてここにいるといったところだ。
さて地獄というフィールドは廃人すらも匙を投げたと先程も述べたがその理由の一つにフィールド効果として無効化できない継続ダメージという物がある。
これはこの地獄というフィールドにいる状態である限りずっと体力と魔力を削られ続けるという効果だ。
それだけなら廃人ならなんとかするかもしれないがそれに加えてポーション、回復魔法禁止というフィールド効果もあった。
これだけでここがどれほど地獄という名前に相応しい場所であるかわかると思うが更にある。
それは転移禁止だ。
今このゲームには転移結晶や転移魔法、帰還の巻物などといったフィールドやダンジョンから帰還するためのアイテムや魔法がある。
それらが全て無効化された上でランダムに移動する地獄の門から出ないといけない。
前に説明したものも含めてここがどれほど地獄に相応しいか認識した上でいまここにいるリュードを見てみよう。
装備はボロボロの上下の服とフードのみ。
靴すら無くこの赤黒い大地である地獄で素足出歩かなければならない。
勿論、石や枯れ木が転がっているためそれを踏んでしまえば痛い上にボロボロの装備では地獄という環境で過ごすことは出来ないだろう。
ここがフィールドである以上、勿論モンスターは出現する。
リュードはそのモンスターから逃げたり隠れたりそのまま食われたりしながらも地獄で探索を続けていた。
ここ数日の死に戻りの数は数え切れないがそれでも地獄で探索を続けられているのはとあるスキルのお陰(若しくは元凶)だった。
そのスキルとは《放浪者》だ。
このスキルはリスポーンポイントが更新できない変わりに採取能力が上がるという効果を持っている。
そしてリスポーンポイントを更新しなかった場合、行った場所をランダムでリスポーンする。
リスポーンは場所を移動していることから転移だ。
そして地獄は転移無効。
おわかりだろうか?
この地獄に落とされてから何度もリスポーンしたが地獄以外の場所に出ることはなかった。
つまりランダムリスポーンは地獄限定なのである!
そうした要因がありリュードは地獄の探索を続けていた。
何度も死に戻りした影響で持っていたアイテムは全て失い装備の耐久度もなくなったことで初期装備⋯いやそれ以下になっている。
それでもリュードが足を止めないのはもう失うものが何もないからかもしれない。
そんな中リュードは地獄の門を見つけた。
リュードは地獄の門に力なく近づくと触れようとする。
バチィ!
大きな火花がリュードの手と地獄の門の間で起こる。
リュードは地獄の門に近づけた手を庇いながら力なくその場を去った。
さて疑問に思った方もいるだろう。
ランダムリスポーンで出れなくても地獄の門で出れるんじゃないのと。
本来ならその筈だったのだがリュードは違った。
それを説明するにはリュードの状態異常欄を見てもらおう。
リュード(状態異常︰地獄封印)
この状態異常、地獄封印がリュードが地獄の門から出れない理由だ。
この地獄封印はカルマ値の低い⋯つまり罪を犯した人物を地獄に封じ込めるための封印だ。
地獄封印はよっぽどのカルマ値でなければ効果は無いがリュードはそのよっぽどのカルマ値であったため封印が効いてしまった。
何故そんなカルマ値になってしまったのかというとリュードにはあまり非はない⋯いや割とあることをしたからだ。
簡単に言えば教会から封印指定されているものをとある人物に「簡単な配達」と言われ盗んだり教会から見つけ次第に討伐推奨されている種族にとある人物に「これが今のゲームにおいての最強だよ」と言われて封印指定のものを使って転生したり教会が管理している素材をとある人物に「金稼ぎにはちょうどいい」と言われて無断で採取したりということをした。
その上でそのとある人物がリュードのことを教会に通報しカルマ値とここにきて数日という所を教会が確認してしまったため危険人物として封印されたというのがこの状態異常の原因だ。
一応、リュードを擁護するならとある人物は有名人でありこのゲームについて詳しくは知らなくてもこの人物だけは知っているということが起こるぐらいの人物だったため悪い噂も無く信用してしまったのだろう。
とは言え調べずにカルマ値が下がる犯罪をしてしまったのは少しはリュードの責任でもある。
これがあってからリュードは人を信用することは無くなった。
まあ、信用していた相手に裏切られるということが辛かったのだろう。
その話は一旦置いておいてリュードは地獄の門から去ったあとまた歩き始めた。
地獄は殺風景だ。
赤黒い大地に紫の空。
襲いかかってくるか共食いしているモンスター。
それぐらいしかないにも関わらずリュードの足に迷いはない。
もしリュードにそのことについて聞けば行ったことのない場所に向かっていると答えるだろう。
廃人ですら風景の変わらない地獄をマッピングするのを筆を折ったにも関わらずリュードは地獄の変化を理解しているようだ。
そうして地獄をリュードは探索する。