入学してきた後輩が、俺の黒歴史を抱えてて爆弾すぎる話
中学生時代。
まだ思春期が訪れていなかった俺は、恥じらいというものが微塵も無かった。女子の前で叫ぶことすらなんとも思わないほどの無敵ぶりで、当時の俺は思い出すことすら悍ましい黒歴史を日々量産していった。
そんな俺も中学3年生になる頃には羞恥心というものが芽生えてきた。
そして自分を客観視できるようにもなった。するといかに自分がうるさくて、変人で、不快な人間であるかを嫌というほど思い知った。
しかし行動をわきまえようと考えたところで、すでに周囲からの俺へのイメージは出来上がっていた。
時すでに遅し。
キャラを変えるのも今更だった。
そこで、俺はある一つの決心をした。
高校こそはおとなしく過ごそう、と。そのためには俺の黒歴史を知るやつらがいては困る。そんな理由で、少し遠い場所にある進学校を受験し、見事合格した。
高校では大幅なイメチェンをした。コンタクトをメガネに変え、髪の毛は簾のように伸ばした。でしゃばり癖を治し、不要な会話も控えた。
その甲斐あって、高校に入学して1年。俺は最低限度の友達と優しいクラスメイトに恵まれ、誰よりも穏やかな学校生活を送っていた。
春休みが終わり、2年生になった。クラス替えでは仲が良かった田中と再び同じ組になり、さらには担任も同じであった。幸先の良い始まりに、気分よく帰宅しようとした時だった。
「水戸君と田中君、明日の入学式でビラ配りをお願いできないかな?」
中学とは違い、高校では誠実さを兼ね揃えていた俺は先生に頼られることが多かった。
田中は少し気だるげな表情をしていたが、俺は快く引き受けることにした。
新入生に同中の後輩がいることも有り得なくはないが、下の学年で俺の武勇伝を知っているのはサッカー部の後輩たちくらいだ。
尤も、あやつらは勉強という文字を知らないため、こんな進学校に入ってくる可能性は無いに等しい。
ということで、ビラ配りをしても問題は起きないだろう。
「分かりました。何時に来れば良いですか?」
「ありがとう、本当に助かるよ。詳細は後で連絡するから……」
先生はそこまで言った後、ふと俺たちの身なりに目を向け顔をしかめた。
横目で田中を見てみると確かに酷いもので、天パでぼさぼさの髪に第一ボタンの留まってない学ラン。極め付けは後ろから白いシャツが覗いていた。
「田中君は身だしなみをきっちりね」
「へいへい」
適当な返事をする田中。先輩としての自覚を持ってほしいものだ。
「そして水戸君、君は髪をそろそろ切ったらどうかしら?勉強一筋なのも良いけど、せっかくの高校生なんだからおしゃれも楽しんでみなよ」
おしゃれ……か。
昔の黒歴史を思い出す単語だな。
「先生、勉学にファッションは要りません」
「水戸くんは相変わらず真面目だね。もう少し、はっちゃけても良いのよ?彼女作って、青春しなさいよ」
――先生は俺たちのことを真面目で不器用な残念系男子と思っている節がある。そのせいか何かあればすぐ部活の魅力とか、付き合うことの尊さとかを語ってくる。
余計なお世話だ。やめて欲しい。
まあそんな経緯で、俺と田中は入学式当日、朝からビラ配りをしている。
「はい、これ学校の案内図とか書いた紙です」
わざわざ今日のために髪をストレートにし、身だしなみもばっちり決めてきた田中は、先生に「おお、男前やん」と言われて酷くハイテンションだった。
ビラ配りは何事もなく順調に進み、受付終了の5分前になる頃には人影が大分少なくなっていた。
「うお、JKしてるな」
残りわずかのビラを手の中で丸めながら、田中がそうつぶやいた。視線の先を見てみると、おしゃべりに花を咲かせながら歩いてくる5人グループを見つけた。
その中でも一際目立つ真ん中の女子を見て、俺の思考は停止した。
「なあ水戸、真ん中の子えぐ可愛くね?」
そんな田中の言葉も耳に入らない。5人組が近付いてくるにつれ、懸念が確信へと変わっていく。
その時、突然ポケットに入れいていたスマホが震えた。それは幼馴染である悠太からのメールだった。
『そういや俺の妹、お前と同じ高校行くらしいぞ』
……嫌がらせだろうか?
もう少し早く言ってくれれば、ビラ配りなんて絶対にしなかったのに。
手遅れだ。
やばい。ほんとにやばい。
何がやばいのかって言うと、この悠太の妹である神崎結菜は、中学の時俺が所属していたサッカー部のマネージャーだったのだ。つまり彼女は部活上で俺が犯した黒歴史を知り尽くしているわけで、俺の真面目キャラを一気に崩壊させてしまうようなエピソードをいくつも抱えている。
関わるだけでも危険だ。この状況をどうすれば打破できるのか、必死に頭を巡らせる。
……いやでも、冷静に考えれば俺は高校に入って別の意味で垢抜けた。今の姿は、中学の頃とかけ離れている。不審な挙動さえしなければ、バレずにやり過ごせるはずだ!
そうやって自分を勇気づけ、スマホから顔を上げた瞬間だった。
「先輩!お久しぶりですっ!」
目の前に、満面の笑みを浮かべた結菜が立っていた。
ばっちり目が合ってしまった。
もう、逃げようが無い。
――絶望だ。
細やかな目鼻立ちに、サラサラの長い髪。
中学の頃より、さらに可愛いくなっていた。けれどその裏側に、俺の過去という巨大な爆弾を抱えているのだと考えると、引き攣った笑みを浮かべることしかできなかった。
この後田中に「なんでお前なんかがあんな子と知り合いなんだ?」と問い詰められ、ただの後輩だと説明した。「陰キャのお前にあんな距離の詰め方をする後輩がいてたまるか」ってなぜか怒りだして、納得してくれなかったけど。
「せんぱーい。音楽室ってどこですかー?」
ここは2年3組。俺の教室だ。
そのはずなのに、なぜか目の前に神崎結菜が立っていた。
「音楽室?教室でて右の突き当たりだよ。わざわざ俺じゃなくて、先生とか友達に聞いてくれ」
「……わたし、人見知りで。頼れるのが先輩しかいなくて」
あざとポーズをしながら、そんなことをしれっという。入学初日からギャルに囲まれて登校してくる女が、何を言っているのだか。
「上級生の教室にどかどかと入ってくるやつが、人見知りなわけないだろ。へなちょこな言い訳はよせ」
「先輩……。中学の頃は誰それ構わずダル絡みして、お節介焼いてくれたのに、なんか冷たくなっちゃいましたね」
その言葉に、辺りで聞き耳を立てていたクラスメイト共が、ここぞとばかりに突っ込んでくる。
「は?水戸がお節介焼き?」
「ひたすら大人しいこいつが?」
「中学の時はそんなキャラやったんか!?」
結菜が俺の後輩だというのは、すでに田中から知れ渡っているようだ。
それにしても、まずい。このままでは俺のキャラが崩壊してしまう。
「ばっかお前、俺は中学の時からずっと、勉強一筋の真面目な生徒だったろ」
そういうことにしてくれよ、と目で必死に訴えかける。
「真面目な生徒?先輩が?」
結菜はそう言ってニヤッとした。
「あーもう、音楽室まで案内してあげるから、はい行こう」
何を言い出すか分かったものじゃないので、取り敢えずは教室を出ることが先決である。
追い立てるようにして廊下へ連れていく。それから教室を少し離れたところで、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「先輩、高校ではそういうキャラでやってるんですか?」
「ああそうだ。俺は大人になったんだ。だからもう中学の時みたいなノリはやめてれ」
切実な願いである。
「大人になったって、なんですかそれ。あ、もしかして中学のこと後悔してる感じですか?」
「……そうだよ。もうあんな羞恥を作り出すのは2度とごめんだ」
「別に私はあのやんちゃな先輩も好きでしたけどね」
そんな恥ずかしいことを何食わぬ顔で言ってくる。こいつはそういうやつだ。
「なんだよ告白か?」
ボケて返す。それが最適解なのだ。
「……ご自由に解釈してください。まあ先輩がそんなキャラを演じててしんどくないのなら、それで良いですけど」
結菜はそう言い残して、音楽室へと入っていった。
確かに俺は、素がやかましい人間だからなのか、高校にきた当初は大人しくすることがストレスではあった。ふざけのない会話をするのはつまらなかったし、バカ騒ぎできる友達がいないのも寂しかった。まあそれは慣れの問題で、今ではむしろこれが自然体になっている。
結菜は、俺が無理してこのキャラを演じてるのではと、心配してくれたのだろう。生意気な後輩だが、なんだかんだ気の利くやつなのだ。
――もちろんこの後教室へ戻ると、取り囲まれて質問攻めにされた。
あれから結菜が学校で絡んでくることはなくなり、ひとまずいつも通りの学校生活に戻った。しかし乗車駅は同じなので、そこで出くわした時はそれなりに喋る。
「先輩、おはようございます」
ベンチで電車を待ちながら単語帳を見ていると、隣に結菜が座ってきた。
「おお、おはよ――」
顔を上げて、思わず驚いた。ロングヘアがばっさりと切られ、ボブになっていたのだ。
「これはまたぱっさりしたな」
「ぱっさりてなんすか。ばっさりとさっぱり混ぜないでください」
「これから夏だもんな。髪は少ない方がいい」
「別にそういう理由じゃないですよ。私、高校でサッカーすることに決めたので、そのためです」
「する?マネージャーじゃなくてか?」
「はい」
「そういえば、小さい頃にサッカーやってたんだっけ」
「まあ一応、小3の時から」
「そういえば中学も最初は選手として入部してたな」
「はい、それなのに先輩がマネージャーいないからやってくれとか言い出して」
「うわ、それ覚えてる。確か俺、結菜がずっと練習に入らずにサッカーボールの手入ればっかりしてたから、いっそのこと男子サッカー部のマネージャーになればとか言ったんだ」
「……覚えてたんですね」
当時、レギュラーを取られたくないからと、女子サッカー部の先輩たちが結菜を練習からハブっていたのだ。
そんなシリアスな状況にあった彼女に向かって、俺は無神経に「マネージャーになって」とかほざいていたのだ。
「いやほんとにあの頃の俺はデリカシーなさすぎた。申し訳ない」
「……まあ、あの時は、先輩に嫌われてたし、そのせいで同級生にも距離置かれててかなりしんどかったので、先輩に誘われてありがたかったっていうか、助かったっていうのは、ありますけど」
突然、やけに小さい声でボソボソと喋り出したので、聞き取れなかった。
「――なんて?」
聞き返すと、結菜は若干そっぽを向いて目を逸らした。
「なんでもないです。とにかく、先輩はぐだぐだ過去を気にし過ぎだと思いますよ」
「いやいや気にしちゃうでしょ、それは。――あ、電車きたから、じゃあまた」
流石に電車で隣に座ると噂になってしまうので、一両隔てて乗ることにしている。いつも通り一つ前の車両まで歩こうとすると、結菜が俺のカバンをくいっと引っ張ってきた。
「あの、先輩。今日は学校まで一緒に行きませんか」
振り返ると、結菜が上目遣いでこちらをじっと見てきた。
「魅力的なお誘いだけど、目立ちたくないからやめとくよ。俺は平穏な学校生活を送りたいんだ」
そう言うと彼女は大きくため息をついた。
「……口を開けば平穏なとか、大人になったとか。一体全体、先輩は何をそんなに気取ってるんですか?」
気取ってる……?
そんな気は毛頭ないのだが。
「だから、身の程をわきまえたんだって。俺は人の輪の中心になって騒ぐよりも、隅っこでそれを眺めている方が向いているんだ」
「なんですかそれ。ぽんこつな自己分析ですね。少なくとも私から見る先輩は、周りにいる人を笑顔にする人間ですよ」
「きっとそれは愛想笑いしてくれてたんだよ。何よりそれ以上に俺はいろんな人を不快にさせたと思う」
「かたくなだなぁ。じゃあ具体的に何をして不快にさせたんですか?あぶれて1人になった子へだる絡みしに行ったことですか?落ち込んでいる子の前でアホみたいな一発ギャグやったことですか?――この際客観的な意見としてはっきり言いますけど、先輩は周りからめちゃくちゃ好かれてましたよ」
お世辞でも嬉しいことを言ってくれる。
「……なんだよ、照れるちゃうじゃん」
「勝手に照れててください!私は、悔しかったんです。頑張って勉強して、この学校にきて。そして先輩に会ってみたら、人が変わったように冷たくあしらってくるじゃないですか。どうせ、『入学してきた後輩が俺の黒歴史を抱えてて爆弾すぎる』とか、浅いこと考えたんですよね?新手の中二病ですか?憧れの先輩だったのに、残念でたまらないです」
すごい剣幕でそう言い放ってくる。
……中二病か。
確かに、言われてみればその通りだ。
喋らないのがかっこいいだとか、冷めた人間がかっこいいだとか。
俺はいつのまにか過去を拗らせて、価値観まで歪んでいたようだ。
「言う通りだわ、ほんと。自分が情けない」
そう言うと、結菜はハッと我に返ったように頭をふるふるとした。
「いや、その、貶めようとかそういうつもりじゃなくて。先輩がへんてこだったから、つい」
「いや、おかげでなんか目が覚めた気がするわ。ありがとな」
「……それなら良かったです。あ、そういえばもう電車行っちゃいましたね。すいません、私が突然話し始めちゃったから」
「一緒に遅刻すっかぁー」
そう言うと結菜は「はいっ!」と嬉しそうに返事をして、思いっきりはにかんだ。
あれから色々考えた。きっと俺は黒歴史という羞恥を反省する中で、必要以上の自己嫌悪をしてしまったのだと思う。
自分は黒歴史を量産するだけのイタいやつだから、真面目でいた方がいいとか。
自分は好かれるような人間じゃないから、目立ったら誰かに嫌われるかもしれないとか。
そんなしょうもない考えに至ったせいで、わざわざ本性と反対のキャラを演じて、行きたい遊びも断って、好きだったサッカーもやめて。挙げ句の果てには、後輩まで傷付けてしまっていた。
後悔しても仕切れないが、幸運なことにまだ2年生になったばかりである。今からでも遅くない。ちゃんと自分らしく生きようと、そう思った。
もちろん、黒歴史になりかねない行動をしないのう細心の注意が必要である。
「よ、おはよう」
ベンチで電車を待ちながらスマホをいじる結菜にそう挨拶をして、隣に座る。
「あ、おはようござ―」
スマホから顔を上げた結菜が、少し驚いた顔をする。
「これはまたぱっさりしましたね」
「ぱっさりてなんだよ。ばっさりとさっぱり混ざってんぞ」
「これから夏ですもんね。髪は少ない方がいいです」
「別にそういう理由じゃないけどな。サッカー部入ることにしたから、そのためだ」
「サッカー部?今更ですか?」
そう言って、ぷっと吹き出す結菜。俺もつられて笑ってしまう。
やっぱりこうやってボケた会話をする方が楽しい。
俺はこの日から、意識改革を始めた。
癖になっていた猫背を治した。
メガネをコンタクトにした。
ちゃんと笑って喋るようにした。
すると驚くほど毎日が充実し始めた。
クラスでは田中以外との絡みが増えて、遊びにも誘われるようになった。寝ているか勉強しているかのどちらかだった休み時間も、誰かと笑いながら喋るようになった。
サッカー部へは、途中入部にも関わらずすぐ馴染むことができた。朝練から放課後練まで、ひたむきに頑張った。
「やべぇ、水戸普通にサッカーうまいな。ブランク治ったら、俺のフォワードのポジション取られるかも」
2年生で唯一レギュラーに入っている亀山が、部室で服を脱ぎながらそう言う。
「んなわけ。俺亀山ほどのエゴイストにはなれんわ」
「そうか?お前ボールのコントロールセンスばちくそあるから、向いてると思うけど」
「まあなんにせよ3年引退するまでは下積みするよ」
そう答えて、俺も着替えようと服を脱いだ。
「そう言えば、お前女子サカの神崎結菜と仲良いんか?」
「ああ、同中だからな」
「まじか。あの子ガチ可愛くね?」
「まあ、可愛くはある」
が。
やはりあまり触れたくない話題である。
いくらポジティブに考えても、それでも黒歴史は黒歴史だ。人前で結菜と関わって、碌なことが起きないのは目に見えている。
そんなことを思っていると、聞き慣れた例の声が聞こえた。
「可愛く『は』あるってなんですか!なんか失礼ですね」
突如部室の扉が開け放たれ、そこに現れたのは結菜であった。
「ばっか、突然男子部室に入ってくるなよっ!」
裸だったので、思わずそう叫んでしまう。
俺はそそくさと服を着たのだが、亀山は結菜に気を取られてじっと固まったままである。
「あ……これは失礼しました。女子の先輩に、男子部室にしまってるボールを3球持ってこいって言われたので」
少し顔を赤くして言う結菜の言葉に、やや興奮気味な亀山が棚の下にあったボールを手に取った。
「3球ね、はい」
そして上半身裸のまま結菜にボールを渡す。
「ありがとうございます」
そんなセクハラにも動揺せず笑顔で受け取る結菜。
亀山はなんとか喋りたいという魂胆なのか、俺を話題にしてくる。
「あ、そう言えば水戸の後輩なんだって?」
「はい、そうですけど」
「こいつ中学でどんなだったん?」
話が嫌な方向に向いたので、慌てて遮る。
「亀山とりあえず服着ろよ」
しかし亀山の問いに結菜は答えようとする。
「中学の時ですか?いやあ、ほんとおもしろ――」
「――っと、はやく部室から出ていってくれ。ズボンも着替えたいから」
結菜の言葉を掻き消すように大声で被せる。それでも出ようとしないので、追い立てるようにして部室の外へ連れて行った。
「中学の話になるとやっぱり面白いほど動揺しますね、先輩」
くすくすと笑う結菜。
良い性格してやがる。
「余計なことは言わんでよろしい。はよボール持ってけ」
結菜は「はーい」と適当な返事をする。そして急に真面目な表情でこちらを見てきた。
「で、どうですか?サッカー部入って」
「ん?まあ充実してるよ。ってかそっちこそ上手くやってるか?」
中学の時みたく、誰かに練習を邪魔されるなんてことが無ければ良いのだが。
「はい、すごく楽しいですよ。ガッツある先輩ばかりで、ビシバシ鍛えられてます」
「それは良かった。じゃあ、頑張れよ」
そう言って手一杯にボールを抱えた結菜を見送る。グラウンドに向かって歩いて行く彼女の後ろ姿に、俺は深くため息をついた。
一体どうすれば、結菜の記憶から黒歴史を抹消できるだろうか。
それからも結菜は黒歴史をチラつかせては、俺をからかってきた。その度にその場から連れ出して、精一杯圧を掛けて黙らせるのだが、多分全く効いていない。
けれど嫌いではないから、突き放すことも出来ないのが悔しい。
なかなかに大きな悩みの種である。
⭐︎
私は、水戸先輩が好きだ。
中1のはじめ、マネージャーの勧誘で声をかけて来てくれた時から、ずっと好きだ。
少なくとも、同じ高校へ行くためだけに苦手だった勉強を死ぬ気で頑張れるくらいには、好きだ。
けれど普段ふざけてばかりいるから、いざ本当にこの気持ちを伝えようとした時に、なんて言えば良いか分からない。
結構頑張ってアピールしているつもりだけど、先輩は全く気付いてくれない。鈍いのだと思う。
だからそんな先輩の注意を惹くために、私は先輩の黒歴史を悪どく利用してしまっている。それで嫌われてしまうかもしれないと思いつつも、その後2人きりになって叱られる時間が好きでたまらない。正直、癖になってしまっている。
……あれ、これって私は私でかなり不器用なのでは?
だめだ、こんなことをしていると、きっと手遅れになってしまう。メガネを外して髪を切った先輩は、正直かっこいい。加えて中学の時のようなやんちゃな行動もしなくなったから、多分これから先輩はかなりモテ始めると思う。油断していると、誰かに先を越されてしまう。
いっそのこと、メガネのままでいてくれた方が安心できた。
要らないことを言ってしまったかもと、少しだけ後悔した。
なんにせよ、一度ちゃんと伝えなきゃ。
でもやっぱりどうすれば良いのか分からなくて、私は今日も黒歴史で先輩をからかう。




