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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

噂の幽霊

 ねえねえ知ってる?学校にいる幽霊の話。

 この幽霊はね、正体を知ってしまうと死んじゃうんだって。

 だから調べちゃダメなの、だから気をつけないとダメなの。

 噂を忘れて正体を知っちゃうと…死んじゃうんだから。





「え?なんて?」

「だから『正体を知ったら死ぬ幽霊』だって!調べようよ!」


 私の目の前でやる気満々の親友は、オカルト話が大好きだ。

 この間も夜に学校に忍び込んで色々と調査していたらしい。


「あのさ、『正体を知ったら死ぬ幽霊』を調べるって…死ぬよねそれ?」

「大丈夫だよ!多分!」

「多分で死にたくないからパス」

「えええ!?」


 うるさい親友をとりあえず無視して、ノートをまとめる。

 親友も成績危ないはずだからオカルトよりも勉強をした方がいいと思う…


「おい、聞いたか?」

「ああ、行方不明になった生徒の話だろ?」

「そうそう!家にも帰ってないらしいぜ?」

「俺は家出してるって聞いたけど?」


 少し離れた場所で男子たちがわいわいと話をしている。

 なんでも隣のクラスに行方不明者が出たらしい。

 警察も調査をしているらしいけど、手がかりひとつ見つからないらしい。


「幽霊の仕業だよ!」

「うわ!?なんだ!?」

「い、いきなり大声出すなよ!?」

「幽霊の調査をしてて行方不明になったんだよ!」


 親友が突然話に割り込んでいった。あそこまでオカルトを他人に薦めるような子だったっけ?





 放課後、帰宅準備も終えて教室を出ようとしていると親友があの男子二人を連れていた。


「あ!ねえねえ!今日予定ある!?」

「え、ないけど…」

「じゃあ9時に学校の前集合!」

「え?ちょっと?」


 親友はそう叫ぶと男子を放置して去っていった。

 残された男子と目が合う。


「えっと…知り合い?」

「ま、まあ…二人も?」

「いやいや?今日いきなり話しかけられました」


 少し話をすると、あの後「行方不明者を探そう!」と強引に予定を組まれたらしい。

 可愛い女子にグイグイ来られて断れず、そのまま夜の学校探索に付き合うことになったらしい。


「それじゃ、夜にまたな」

「はぁ、母ちゃんにどんな言い訳すれば…」

「あはは…」


 放置すると親友と男子二人が夜の校舎に行くという危ない話になりかねない。

 覚悟を決めて家に帰る、懐中電灯も用意して言い訳も必要だ。


「噂は噂…大丈夫だよね?」


 正体を知ると死んでしまう幽霊、そんな噂で怖がっていはいない。

 単純に夜の学校という場所が怖いだけ、それだけ。





 日が暮れた学校は、見慣れているはずなのに全く知らない場所に見える。


「遅〜い!早く入ろうよ!」


 学校前に到着すると、すでに集まっていた親友と男子二人が立っていた。

 親友は待ちきれないかのように笑顔になっており、男子二人は今にも泣き出しそうになっている。


「よ〜し!早速調査開始だ〜!」

「はぁ、静かにしないと警備員の人に見つかるよ?」

「な、なんでそんなに冷静なんだよ?」

「べ、別に俺怖くねえけど?」


 閉じた門を乗り越えて、敷地内に入る。いつもなら何十人という生徒が走り回るグラウンドもこの時間は誰もいない静かな場所だ。

 人の出入りが激しいはずの出入り口もこの時間は閉まっている。


「ここここ!ここの鍵が開いてるの!」


 閉まっている出入り口を通りすぎて、親友は入り口横の部屋の窓を開けて中に入っていく。

 あまりにも手慣れた様子に男子二人が「マジかよ」と呟いている。

 おそらく、前回もこうやって侵入したんだ。

 放っておくわけにもいかず、同じように窓から校内へと入る。


「いざ!お化け調査!」

「行方不明者の調査ね」


 男子二人は怖いせいか黙ってついてきている。

 なんでこの二人を連れてきたんだろう?





「『正体を知ったら死ぬ幽霊』ってどんな噂なの?」

「え?知らないの!?」

「知ってたら聞かないよ」


 すると親友は得意げに教えてくれた


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 その姿は誰も見たことがない。

 その声は誰も聞いたことがない。

 その正体は誰も知ることがない。

 いつ、どこに、どんな条件で出るのかわからない。

 でも、もし姿を見ても理解してはダメ。

 もし、声を聞いても返事をしてはダメ。

 正体を知ってはダメ。

 理解したら、返事をしたら、正体に気づいたら…

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「死んでしまうのです!!!」

「「ぎゃああああああ!?」」

「つまり何もわからないってことね」


 悲鳴を上げている男子を無視して考える。

 明らかにおかしい噂だ。

 噂とは嘘でも真実でもなんらかの惹かれる話題であるはずだ。

 恋バナも怪談も、興味があるから噂になる。

 でも、この噂は内容がない。

 結論が「何もわからない」「わかったら死ぬ」それだけだ。

 理解して被害者が出た、実はその正体は〇〇に関係している?そんなよくある内容もない。

 そもそも、親友以外から聞いたこともない。


「ほ、他の話をしようぜ!?」

「そうそう!楽しい話とかさ!?」

「楽しい話?あるよ!」


 男子がリクエストした結果。

 1、昇り降りするたびに段数が変わる呪いの階段。

 2、理科室を飛び出して踊り狂う白骨標本と人体模型。

 3、真夜中にプールに出てくる謎の人影。

 など次々と怪談話が語られてしまった。


「後ね〜」

「もういいです、僕たちが悪かったです」

「俺、今日帰ったらお母さんと寝るんだ…」

「何その死亡フラグ」


 話しながらも学校内を歩き回り、調査は進んでいる。

 すでに1階と2階は全て見て、あとは3階とそこから出ることのできる屋上だけになった。





「結局、何もなかったね」

「も、もう帰れる?」

「え〜?お化け見つけてないよ!」


 不貞腐れる親友を引っ張り、玄関に向かう。

 屋上は鍵がかかっており、3階にも異常はなかった。

 ならもう帰るだけ、校庭も見渡して異常がない事は把握している。


「見つけたい〜!」

「全部探したんだから終わり」

「な、なあ」


 玄関も見えてきた、横の部屋に入ってさっさと窓から外へ出た。


「一人いない!」

「え?」

「いないって…」


 男子が突然大声を出した、そして言われて気づいた。

 本当に一人いない。


「トイレにでも行ってるとか?」

「ついさっきまで俺の後ろにいたんだよ!?」

「行方不明!?探しにいくよ!!」

「あ!ちょっと!?」


 親友が踵を返して学校内に戻る、慌ててもう一度窓から学校に入る。

 後ろから男子もついてきたが、直後に窓が閉まった。





「何これ…」


 学校内はさっきまでとは違う様子になっていた。

 窓の外は絵の具で潰したかのように真っ暗闇。

 廊下は至る所に赤黒い液体がばら撒かれている。


「さっきまでこんな状態じゃなかった」

「あががががががが」


 後ろで男子がうるさいが、先の方を走っていった親友を探すために歩き出す。

 赤黒い液体の近くを通る時、どこか鉄臭さも感じる。


「闇校舎だ…絶対これ闇校舎じゃん…」

「闇校舎?」


 後ろの男子が歩きながら軽く教えてくれた。

 闇校舎、午前4時44分に学校に入ると迷い込んでしまう呪われた校舎。

 一度迷い込むと2度と帰ることのできない死の校舎。


「聞いた話と同じだし、絶対闇校舎に入っちゃったんだ…」

「そう言う話は帰ってきた人がいないと語られないから矛盾してるよ」

「え?」

「誰も帰らないなら、誰がこの闇校舎に気付くの?どうしてそんなルールが噂されてるの?」


 普通なら、作り話で終わる。けれど現に闇校舎が実在している。

 なら結論はおそらく、帰ってきた人がいたのだろう。


「噂があるなら生きて帰れるはず、今は二人を探すよ」

「う、うん…」





 見た目だけでなく広さや構造もおかしくなっていたらしい。

 先があるはずの廊下は行き止まりになり、教室の扉の先に別の廊下が伸びている。

 階段が見当たらず、職員室にはなぜか噴水が鎮座していた。


「床に水が落ちてない…」

「そこじゃないよね!?」


 おかしな場所を見ながら歩いていると、バタバタと足音のようなものが聞こえてきた。

 近づいてきてるのではなく、その場で足踏みをしているみたい。


「誰かいるのかな?」

「お、俺は後ろを見てるから!」


 男子が後ろを見ながらついてくる。

 そして足音のする場所まで辿り着いた。

 そこにあったのは3つの人影。

 一人は廊下に倒れているいなくなったもう一人の男子。

 一人は男子の周りを回りながら踊っている白骨標本。

 一人は足踏みでリズムを作っている人体模型。

 どう考えても何かの儀式だった。


「うわああああああ!!!!?」


 突然後ろにいた男子が絶叫しながら走り出した。

 その音を聞いた2体が動きを止めてこっちを見てきた。

 流石に危険だと判断し、男子の後ろを追いかける形で逃げる。

 後ろからバタバタバタと足音が聞こえ、追いかけていると判断できる。


「なんで叫んだの!?」

「いやだあああああ殺されるうううううう!!!!!」


 絶叫しながら走る男子はそのまま階段を駆け上り始めた。

 他の逃げ場がないから同じように階段を駆け上る。

 すると、別の階に移動すると同時に静かになった。


「に、逃げ切れた?」


 階段の下を覗くと、そこには何もいなかった。





「あれ?」


 一息ついて周りを見ると、おかしなことに気が付く。

 階段横には何階であるかが表記されている。

 1階なら「1F」2階なら「2F」となる。


「5F?」


 そこには「5F」つまり5階であると書かれていた。

 3階までしかないはずの学校…いや、ここは闇校舎だ。

 おそらく元いた学校とは違うのかもしれない。


「それでも1階から5階まで走った覚えないけど…」


 とりあえず先を走っていた男子を探そうと廊下を見る。

 床が木造になっており、至る所に穴が空いている。

 教室も木造で、どこからともなくギシギシという音も聞こえてくる


「うわぁ…」


 もし廊下を歩いて穴に落ちたら、4階に行くのだろうか?

 それでも怪我をすると思う。だから一旦階段を降りることにした。

 仮に男子が穴に落ちていたら下にいると思うし。


「…え?」


 階段を降りて階層を見ると「2F」と書かれている。

 つまり、5階を降りると2階についたらしい。

 1階分しか降りていないはずなのに。


「ひょっとして、これが呪いの階段?」


 さっき聞いた話だと段数が狂っているという話だった。

 でもこれでは段数じゃなくて階層が狂ってる。


「噂は噂だし、これが真相ってことかな」


 とりあえず何度も階段を上り下りして何階まであるのか確認することにした。

 何度も登り降りを繰り返し、おおよそ理解できた。


「上は8階、下は地下1階…明らかに異常だね」


 上に行けば行くほど内装が古くボロボロになり、下は逆に現代的かつ綺麗になっていく。

 これなら廊下を見るだけでどの階層か判断できそうだ。


「とりあえず、今いる7階から調査しよう」


 逸れている2人とおそらく死んでいる1人を探し、白骨標本と人体模型に気をつけながら調査を開始する。





 階層ごとに時代、劣化具合、建物の構造などが違うことがわかったが、肝心の人探しはうまくいかなかった。

 1階の廊下にたどり着いた時、倒れていた男子の場所にいってみたけど何もいなかった。

 近くの教室、職員室、倉庫やトイレにも何もなかった。

 別の階でも同じように注意しながら調査したが、何もなく誰とも出会わなかった。


「まさか全員、外に出たとか?」


 それならそれで脱出すればいいから問題はない、そう考えて外に出る方法を探すことにした。

 仮に誰も外に出てなかったとしても、外に出る方法がわかっていれば後が楽になる。

 今いるのは3階、階段を利用して1階へ移動する。

 5F、2F、3F、8F…なかなか1階に移動できない。

 そして、その階層に来てしまった





「え?何これ?」


 階段を上がり階層を確認すると「チカニカイ」と血文字で書かれていた。

 廊下は床も壁も天井もコンクリートで作られたドア一つない真っ直ぐな通路だ。

 今までとはあまりにも作りも空気も違う。


「まだここは調査してない…みんなここにいる?」


 何かあったら逃げれるように細心の注意をしながら廊下を進む。

 曲がることもなく途中に教室もなく、明かりもうっすらと光る電球が等間隔にぶら下がるだけ。

 しばらく進むと、壁が見えてきた。

 その壁は見覚えのある元の学校の壁で、教室の扉もついていた。


「元の世界に戻れる…の?」


 近づき耳をすませる、中からは何かの物音がしている。

 扉をほんの少しだけ開き、中を覗く。

 中も見覚えのある教室だった。

 ほぼ毎日通っている学校の教室だ。

 違いは机が片付けられて教室の奥に集められていること。

 そして中央に叫びながら逃げていたはずの男子が宙吊りになってることだ。


「どうなってるの…」


 宙吊りの男子は気を失っているのか身動き一つしない、けれど呼吸はしているようだ。

 中に入って助けるべきだろう、けれど罠の可能性が高い。

 色々と考えながら覗いていると、影から誰かが出てきた。

 それは親友だった、後ろ姿で表情はわからないが宙吊りの男子に近づいている。


『もういいかな?』


 親友の、けれどどこかおかしい声が聞こえると同時に異変が起きた。

 親友から半透明の何かが出てきて、それは宙吊りの男子に入っていった。

 そして宙吊りの男子が痙攣し始めたかと思うと、爆発した。

 部屋の中が血や臓物で彩られ、近くに立っていた親友は壁に叩きつけられて動かなくなっている。

 非現実的、それも想像を遥かに超える光景に腰が抜けてしまった。

 親友が動かない、さっきまで一緒だった男子が爆発した、真っ赤に染まった教室…

 そして、いつの間にか目の前に来ていた半透明の…





 気がつくと、私は警察に保護されていた。

 学校の門の前で血まみれになって倒れていたらしい。

 胸元に切り傷があり、発見が遅れていたらそのまま死んでいた可能性があった、らしい。

 なぜ真夜中に学校の前にいたのか?他に誰かいなかったか?犯人は見ていないか?

 記憶が曖昧な私はその日に何があったのか、なに一つ説明できさせてもらえなかった。


「本当に、何も覚えていないんだね?」

はいいいえ、学校から帰った後は何も覚えていません…」

「わかった、何か思い出したら警察に話してくれ」

「はい、わかりました」


 家に帰してもらった後、私は学校に行きたくてをやすみたくてたまらなかった。

 そして翌日の学校で質問攻めにあっていた。


「ねえねえ!!一体何があったの!?」

「先生が引っ越したとか転校した時言ってるけど違うよね!」


 どこで誰に聞いたのか、それに対して私は笑顔で答えたむしをしたい


『実はね、「正体を知ると死んでしまう幽霊」に殺されたんだよね』

「何それ!?」

『正体を知ってしまったらしいの、私は学校の外にいたから助かっただけなの』


 口が動く、顔が笑う、心が澱んで意識が奪われる。

 噂に生きる幽霊は、死なないために噂を広める。

 どんな形でも大丈夫、噂されるなら。


『ねえ、興味があるなら調べてみる?』

誰も語らず誰も知らなくなれば消えてしまう「かよわい幽霊」の話でした

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