2. それを秘跡としての悔悛(告解と償罪)であると解することはできない。
御臨終に際しての「終油の秘蹟」は、ご存知の方もあろう。今では「病者の塗油」といい、カトリックと聖公会(英国教会)では普通にやるが、新教徒は認めない。
おそらく起源は「洗礼」に同じく、ハンムラビ法典に出てきたメソポタミア文明一般の風習『河神の審判』であるが、西洋文明の研究者は何故か、東洋文明の影響を受けてギリシャ文明以降が成り立ったものとは頑なに認めようとしない。
マルチン・ルターも「死を前にした懺悔一つで一生の罪が赦される訳がない」と断じ、これではハムレット父王はどの道、救われようがない。お気の毒にも、その息子ハムレット王子は、当のマルチン・ルターが在籍したヴィッテンベルクに留学している。
王:…
そなたの意思にて
ヴィッテンベルクの学校に戻るというは
我等の願い踏みにじるものぞ。
願わくはそなた留まれ、
此処、我等が目の前に、健やかに快適に暮らすがよい、
我が最高の廷臣にして、我が甥、我等が息子よ。
KING: …
For your intent
In going back to school in Wittenberg,
It is most retrograde [contrary] to our desire;
And we beseech you, bend you to remain
Here, in the cheer and comfort of our eye, 120
Our chiefest courtier, cousin, and our son.
女王:ハムレット、そなたが母の祈りを手折る事勿れ。
願わくは、我等と共に居てたもれ、ヴィッテンベルクは行かずして。
QUEEN: Let not thy mother lose her prayers, Hamlet:
I pray thee, stay with us; go not to Wittenberg.
ハムレット:何事も仰せのままに、奥様。
HAMLET: I shall in all my best obey you, madam.
対してハムレット父は明らかにカトリック教徒としての扱いに甘んじているのに、死に際して懺悔の暇もなかった。この役を初演ではシェイクスピア自身が演じたから、誰に何を見せたかったのか、説明するまでもあるまい。
亡霊:…
斯くして我が眠りのうちに、兄弟の手によって、
命も、王冠も、后も、一息に剥ぎ取られ、
罪科までも花開くままに断ち切られ。
聖体の秘蹟もなく、終油の秘蹟もなく、85
秤にかけることもなく、功罪の勘定に送り込まれ。
及ばざるもの全て頭に載せて。
あな恐ろしや、呪わしや!恐るべし!
GHOST: ...
Thus was I, sleeping, by a brother’s hand,
Of life, of crown, of queen, at once dispatch’d [robbed];
Cut off even in the blossoms of my sin,
Unhousel’d, disappointed, unanel’d, 85
[Unhousel'd . . . unanel'd: Unhousel'd: not given the Holy Eucharist. Unanel'd: not given the last rites of the Catholic Church]
No reckoning made, but sent to my account
With all my imperfections on my head:
O, horrible! O, horrible! most horrible!