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【書籍化・コミカライズ】美大生・月浪縁の怪談  作者: 白目黒
【第四章】百鬼夜行・鳳凰
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Eyes on you/瑞獣の疑念

【怪異・瑞獣の一つ】


 私が思った通り、(よすが)は『厄払いの絵画』を活用した。母の(みそぎ)の助けを借りたり、『怪談による除霊』の方法を教わったりして、自ら怪異を祓うことも厭わなくなっていた。


 いつの時代も、才能を十全に発揮しようと努める人間は、大変に好ましい。


 縁はいつも懸命だった。私が描いた赤いテクスチャを読解しようとする時は真剣そのもので、私はかつて恩寵を与えた芸術家たちはこのような喜びを感じたのだろうかと思いを馳せるようになった。たとえ仮初の作家の真似事とはいえ、私が描いた赤いテクスチャを読解しようとする受け手がいる。この喜びは、感じたことのない新鮮なものだった。


 禊は『厄払いの絵画の性質』に文句があったようだが「問答無用で怪異を祓う力、あらゆるものの上に立つ力を与えたとして、その力が縁を幸福にするのか」と問えば、黙った。

 月浪禊の業は月浪禊であるから耐えられるのであって、娘だからと言って縁が禊と同じ業を耐えられるとは限らない。少なくとも、私は縁に禊と似た力を与えるのは不適格だろうと思っていた。せっかく縁に備わっていた芸術の才を無碍にするのも嫌だった。


 瑞獣の天命は人の才覚を伸ばすことだけ。与えられた才能を活かすも殺すも、もしくは才能に殺されるのかも、結局は人間本人次第なところもあるのだが、私は、私が恩寵を与えるからにはその人を幸福にしたいのだ。


 禊に半ば無理やり恩寵を与える契約をさせられたとはいえ、縁に対してもその思いは変わらない。私は縁を幸せにしたい。縁が幸せに足る人物に成長したと知っているなら、なおさらだ。

 けれど――。


 中学校から帰ってきた縁はセーラー服のまま自室にある絵を確認し、一枚の絵を引っ張り出した。

 浮かんだ赤いテクスチャを指でなぞってため息をこぼす。

 近頃はいつもこうだ。作品に赤いテクスチャが浮かぶと、縁はとても、悲しそうな顔をする。


 確かに、私は縁が厄払いの絵画に全力で取り組むよう絵が変化するギミックを用意した。

 怪異の性質を赤いテクスチャの形で表し、濃度で怪異の被害の度合いを表現する。私はこれを作品読解の力もつくから一石二鳥と思っていた。また、怪異から受けた被害度合いを絵に反映させた。これで絵を変化させまいと本気で怪異を祓おうとするだろう、とも。


 そうすることで経験値が上がる、描く枚数を重ねるごとに縁は霊能力者としても作家としても円熟する。必要なことだ。厳しいかもしれないが成長のための重要な試練であると思っていた。……のだが、苦しげな縁の顔を見るとどうも胸が痛んだ。


 縁の働き次第で赤いテクスチャは剥がれる。絵を元に戻すことも可能だ。救済措置は用意している。


(とはいえ、厳しくしすぎただろうか?)


 私は少々後悔していた。縁を必要以上に苦しめる気はなかったのだが、もしかすると私はとても残酷なことを縁にさせてしまっているのかもしれないと思うようになった。


 言い訳にはなるが、私は一人の芸術家を除いて、恩寵を与えた人間とはそれぞれ三〜五年を目処に関わりを断つようにしていたのだ。だから、……こうも作家が作品を守りたいと思うものだと知らなかった。


 なんとなく面映い気持ちになると同時に、縁は特別作品にかける情が深いのか、これが作家としては一般的な態度なのかが気になった。だが、まさか縁に直接尋ねるわけにもいかないので私の疑問が解消されることはないのだろう。


(それがどうしてか、ほんの少しばかり、歯痒い)


 私が、これまで覚えたことのなかった感覚に悩まされていた頃、縁の方にも転機が訪れていた。縁を狙った怪異の一つが、縁の友人を害したのである。



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