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【書籍化・コミカライズ】美大生・月浪縁の怪談  作者: 白目黒
【第三章】百鬼夜行・虎
48/92

13:00 鳳アンナ、皮肉を言う/泥亀伊吹、怒る(二回目)

 ※13:00(鳳アンナ)


 前回のループ同様、シフトでもないのに作業を手伝う(よすが)のことを誰も気にはしていない。

 人を捌くのにそこそこ忙しく、猫の手もかりたい状況であることにも変わりはない。縁の手が増えたおかげで、雑談していてもそれなりに見逃される環境になることも。


「どうして東美怪奇会に入ったのか、ですか?」


 (おおとり)は縁が尋ねた質問をオウム返しに聞き返した。


「うん。鳳さんなら、漫研も選択肢に入ったんじゃないかと思ってね」

 縁の言葉に、芦屋(あしや)は「そういえばそうだな」と思う。漫画家志望で、実際投稿もやっていたのだし、オカルト制作サークルに入るより漫研に入った方がずっと実践的なのではなかろうか。


 だが鳳は苦笑して言った。


「漫画家志望者が、漫画しかやってないって言うのは、私としてはあんまりいいことでもないなって思いまして……」

「そういうものなのか?」


 鳳は「ホラー漫画も好きですし」ととってつけたように言ったあと、声を沈めて言った。


「そして、やっぱり東美怪奇会といえば、……(リャン)会長ですよ」

「え?」


 芦屋と縁が目を丸くしているのに気づかなかったらしい、鳳はメガネのブリッジを抑えて熱弁を振るう。


「活躍ぶりは音に聞いていましたからね。噂からしてすごかったです。初めて聞いた時は『嘘だろ?』って思いましたもん。『古今東西の美術とオカルトに詳しく、サークル運営者として抜群に有能。ギャラリー関係やマスコミにもコネと伝手があって学校内のことは大体把握している辣腕の留学生、しかもすこぶる美形』ってなんですか? 完璧超人? 二次元(フィクション)の男?」


 言われてみれば、梁飛龍という人物はあんまり現実味のないスペックをしている。だがしかし、実際そういう人物が三次元に存在しているわけなのだ。

 鳳は遠い目をして続ける。


「話してみると噂のほとんどが本当なんですから驚きましたよ。ええ。といいますか、東美怪奇会に入ってみるとフィクションみたいな人たちが多いので、これはネタに……」


 さすがに人聞きが悪いと思ったのか鳳は言い直した。


「もとい、参考になるかと思いまして」


 穏当に言い換えたつもりだろうが、正直手遅れだろう。つまり実在人物を漫画のネタにしようと企んでいたわけである。

 芦屋はわかっていると思うが、と前置きして忠告した。


「描くときはちゃんと許可をとれよな」

「わかっていますよ。さすがに黙って描いたりしませんったら」


 鳳は普段自信なさげな言動をする割に、妙に大胆なところがある。


「佇まいが特徴的な人というと……酒巻さんとかもフィクションっぽい、ってことになるのかな?」


 縁が尋ねると、鳳はこくりと頷いた。


「ああ、そうですね。酒巻さんもビジュアル、口調からしてキャラが立っていますよね。いつも和服で、時々出る関西弁もポイントが高いですよ」

「なんのポイントなんだよ」


 芦屋が思わず口を挟んだが、鳳は軽くスルーした。ふと、なにかに気づいた様子で口元に手を置く。


「でも、酒巻さんは普段、なるべく標準語を心がけているみたいですね」


 言われてみれば、関西弁が強く出たあとの酒巻はどうもバツが悪そうな表情をしていることが多い。


「気持ちはわからなくもないですけどね。どうしても関東で関西弁は目立ちますから」


 そこまで言うと、鳳の目がスッと冷ややかにすがめられた。


「……方言が出るたび、あんなふうに気まずそうな顔をするなら、京都の芸大に行った方がよかったんじゃないですかね。そもそも関西にある芸術系の大学は受けなかった、と言ってましたけど」

「そう、なんだ」


 あまりにも冷たい鳳の声色に、縁は面食らった様子で相槌を打った。


「ええ……なんでも『京都から出たかった』『一生関西から出られなくなるような気がしたから』とか。よほど郷里が肌に合わなかったんでしょうか」


 鳳は皮肉めいた笑みを浮かべる。


「そういうことは、ありますものね」


 その目が金色に輝いて見えたのはおそらく芦屋の目の錯覚ではなかった。


 ※14:00


 お化け屋敷中華・百鬼夜行の楽屋は前回のループと同様、中華風の小道具が積み重なって雑多な雰囲気を醸し出している。


 泥亀伊吹は飲み干したカップスープの残骸を脇に退けると、縁と芦屋に気がついたらしく、顔をこちらに向けた。

 相変わらず居住まいが美しく、画が決まっている。

 縁がヒラヒラと手を上げて泥亀に挨拶した。


「やあ泥亀さん。ちょっと聞きたいんだけど、中華・百鬼夜行のアイディアを出した酒巻さんのことを、泥亀さんはどう思っている?」


 あまりにも直球な質問の仕方に、芦屋はギョッと縁を見遣った。

 案の定、泥亀も不思議そうに首を傾げているではないか。


「……なんでそんなことを聞くんですか?」

「泥亀さんは大道具をよく観察して演技をしているでしょう? 私も大道具班だからありがたいと思っているんだけど、演じている人からの視点で中華・百鬼夜行ってどう見えるんだろうと思って」


 息をするようにそれらしいことを述べる縁に、芦屋は感心を通り越して呆れていた。余計なことを顔に出したり口にするとまた縁に足を踏まれかねないので、なんとなく明後日の方向に目を向ける。


「酒巻さんのアイディアを主に、鹿苑くん主導で大道具を作っていったわけだけど」

「……酒巻さんは、大人ですよね」


 泥亀はふっと目を伏せて呟く。

 たしか酒巻は浪人しているので、年齢で見れば一つ上だが、芦屋や縁と同じく二年生である。


「判断に私情を挟まない、という意味です」


 芦屋の考えていることを見透かしたように、泥亀は淡々と言った。


「でも、演技はあんまり上手じゃないと思います。俳優班じゃなくてよかったです」

「どういう意味だ……?」

「わからないのなら、別に」


 泥亀はこちらを突き放した。それ以上のことは聞けなくなった芦屋は思わず黙り込む。


「なるほど。じゃあ、泥亀さんはどうして東美怪奇会に、」


 縁がにこやかに尋ねる途中、泥亀はふわりと軽やかに席を立った。

 泥亀は縁と距離を詰めた。抱きつくように細い腕を縁の首と肩に回して、耳元で囁く。


「教えません。月浪先輩には関係のないことでしょう?」


 恐ろしく冷たい声色だったが、芦屋から見えた泥亀の顔は、笑っていた。


「不思議ですよね。私がこうすると、大体の人が黙ります」


 泥亀は縁から体を離すと、明らかに演技だとこちらに悟らせる笑みを浮かべる。


「失礼。少々席を外しますので、さようなら」


 固まっている縁を置いて楽屋を出ていく泥亀の腕に何か光るものが見えた気がした。……芦屋には、鱗のように思えてならなかった。


 それにしてもなにかすごい光景を見せられたような気がする。芦屋が呆然と縁と目を合わせると、縁は両手をあげて半分フリーズしながら呟く。


「怒らせちゃったみたい……」


 縁の言うとおり、 なにが琴線に触れたのかは正直よくわからなかったが、確かに、泥亀は怒っていた。


 ※17:00


 梁飛龍、酒巻虎徹、鳳アンナ、泥亀伊吹――。調査すればするほど怪異の影が見え隠れする四人だったが、最後の一人、鹿苑旭に比べればさほどの変化は見受けられなかった。


 前回のループでは十六時のシフトにきちんと来ていたはずの鹿苑が姿を見せることはなかった。つまり鹿苑だけが、前回のループとは違う行動をとった、というわけである。


 縁が酒巻とシフトを交代したところを見計らって、芦屋は縁に声をかけた。


「鹿苑が来なかったのは、一体どういう……」

「わからない。けど、今回は多分、大丈夫だ。語らせるだけの材料も、ある」


 芦屋にはどうしてそこまで自信を持てるのかわからなかったが、少なくとも縁には確信めいたものがあるようだった。


「乗り込むぞ、百鬼夜行へ」



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