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「おっす、おいら神様」
「…………」
目が覚めてそうそう、そんなことをのたまっているご老人がいた。
見たところ八十代ぐらいのかなりのお年に見えるし、そんな人物がウケ狙いみたいなことをしている時点でかなりドン引きというか、あれだった。
「と、いい感じに滑り出したところで、本題にはいるんじゃがな、お主、死んでしもうたわ!」
俺は現在真っ白な部屋にいた。
天井までの高さや奥行きがどれくらいなのかよく分からない、なんとも不思議な部屋だ。
そしてそんな場所で目覚めたかと思うと、そこにいた人物にいきなりこんなことを言われているのだ。
「色々ツッコみたいところはありますが、全然うまく滑り出せてなかったですよ。滑ってコケてましたよ」
「なんじゃ、開口一番手厳しいのう。若者には鷹揚な心が必要じゃぞ? なにせお主の住んでおったなんじゃったかな、地球の、そうそう日本とかいう国では老人大国化が進んでおるとか言うではないか。もう少し老人を敬う心を持ってじゃなぁ、時代に適応していく必要があるのではないかなあと、おじいちゃん思うんじゃがのう」
「すみません、ついツッコんじゃっただけです。それよりも僕が死んだとかなんとか仰ってませんでしたか?」
「うむ、まさしくその通りじゃな。お主は地球にて大変可愛そうな死に方をしてしもうたからのう。こうして、救済処置として呼び出しておるというわけなのじゃ」
「可愛そうな死に方……?」
そう言われてみても、正直全くピンとくるものがなかった。
俺は単なる普通の高校二年生で、特に起伏のあるわけでもない穏やかな日常を送っていたはずだ。
「うむ、お主毛虫が大の嫌いじゃろう?」
「その名前を出さないでいただきたいのですが」
「毛虫毛虫毛虫。毛虫おいしい、毛虫パクっ、うーんもさもさ」
「…………」
俺には幼少期の頃のトラウマがあった。
毛虫が服の中に入ったまま背もたれに身を委ねてしまい、思いっきり潰してしまったことがあるのだ。
だらりとした液体が皮膚に染み付き、偶然針が刺さってしまったのか、皮膚自体も赤く腫れ上がってしまった。
その時の恐怖が焼き付いて離れないのだ。
「まぁまぁ、そう怒るな。神様ジョークというやつじゃ。して、死んだ理由じゃが、下校途中に暴走したヤンキーのバイクに敷かれてほぼ即死じゃ」
「虫関係ないじゃないですか」
「全く関係ないのう。それでじゃ、そんなお主に今回特別なプロモーションを用意しておってじゃな。なんと、異世界に転生できます」
神様と名乗る奇怪なおじいちゃんは、急にそんなことを告げてきた。
「異世界、ですか? よくあるあの魔法とか剣とかのファンタジーチックな世界だったり?」
「まさしくそのとおーり。ラッキーじゃったのう、この転生権は可愛そうな死に方をした若者の中からさらに抽選で選ばれた者にしか与えられんからのう。まぁお主を見ておるとそんなに生きてても楽しいことなさそうではあるがのう」
すごく余計なお世話なことを言われたが、転生……か。
正直今の状況すら全く呑み込めていないし、たちの悪い夢かなんかだと言われた方がまだ信じれる気もするのだが、案外死というのは唐突に訪れるものなのかもしれないとも思う。
酷くでたらめな状況ではあるが、そういうこともあるのかなぁとぼんやり思っている自分もいた。
「権利ってことは、拒否することもできるんですか?」
「無論そうじゃのう。ただここで断るようなことはまさかせんじゃろうとは思っておるが。異世界と聞けば自然と心が高鳴るのが男というものじゃし、流れ的にもこれを断るのは流石に空気が読めておらんとしか言いようがないからのう。ここで断るようなやつは、世の中とにかく逆張りを突き通すことで他人と違う俺カッコいい、とか痛いことを思うとる勘違い野郎ぐらいなものじゃろうし、異なる世界に挑戦しようという気概のないようなやつはもはや死んどるのと同じじゃ。拒否して普通に死ねばよい」
「転生すればいいんですよね。分かりました。でも転生って言ってもどんなふうに転生するんです?」
「ふむ、まぁ転生というてもまだ若い体じゃからな、身体自体はそのままの状態での転生になる。後はなんといっても能力じゃ。これが所謂異世界転生の本体と呼ばれておる部分じゃな」
「それは初耳ですが……要するに異世界を生きていけるようなチート能力ってことになるんですか?」
「本当にその通りじゃ。儂としては何でもかんでも甘やかすものではないと思うのじゃがのう、可愛そうな者にいい思いをしてもらうというコンセプトになっておるから、仕方がないのじゃよ」
「能力は僕が選べたりするんですか?」
「ある程度の傾向は選べるが、具体的に何の力かというのは申し訳ないがランダムじゃ。細かい要望に沿って作り上げてもキリがないからのう、能力自体を沢山用意して、そこから選んでもらうという感じになる」
「なるほど」
「因みに二百三十六種類用意されておるの。して、お主はどんな能力を好む?」
「うーん、そう言われても……ある程度苦労なく生きれるような能力、ぐらいしか」
まさかこんな状況になるなんて、当然想定したことがない。
いきなり言われても漠然とした答えしか返せなかった。
「そんなのほぼ全部じゃよ。うーむ、まぁお主はそんなにガツガツ行くタイプにも見えんからのう、そんな臆病引きこもり孤独ぼっちのお主にあっておる能力といえば……」
すると次の瞬間、目の前にホログラムの文字が現れた。
『陣地の守りを固める能力』と書かれていた
「思うとったより悪くない能力が出てきたのう」
「これは?」
「お主の性格を考慮してとりあえず一つ選んでみたのじゃ。他にも色々あるが、まぁ守りを固めれば当然身は安全というわけじゃ」
なるほど、どうやら俺に合う能力を選んでくれたらしい。
もしかしたら他にもいい能力があるかもしれないが、聞く限りは無難でいい感じそうだ。
「うーん、じゃあ折角選んでいただきましたし、もうそれでいいです」
「絶対考えるのが面倒くさいだけじゃろう。まぁよい、ならばこの能力にしておくぞ。そうなれば早速転生じゃ」
その言葉とともに俺の視界が暗くなる。
え、もう転生するの?