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オススメ作品(コミカル系、シュール系)

夏が来た!

 あたしの心に夏が来た。

 外は寒風の吹く2月のままだ。



 恋をしたのなら来るのは春だ。終わったのならもちろん秋だ。


 真っ盛りなのである。


 暑苦しいまでに燃えているのだ。湿度も凄い。


大成(たいせい)~!」

 あたしは砂浜を駆けながら、手を大きく振った。


 2月の海辺はもちろん凍えるようだ。雪もちらついている。でもあたしは薄手のグリーンのサマーセーターに短めの赤いスカートなびかせて、燃えるように顔を輝かせて、あたしの名前は里美だが、今だけは夏美に改名してもいいようなエネルギッシュな感じで、大成(たいせい)はそんなあたしに引いているようだった。



 ゴール! あたしは彼に思いっきり抱きつくと、身体に腕を回してぎゅー!としてやった。



「やめてよ、里美ちゃん」

 冷めた声で大成(たいせい)が言った。

「誰もいないからいいけど、誰かが見てたらとても恥ずかしいよ、この光景」


「だって夏なんだもん!」

 あたしは声にマックスの喜びを込めた。


「冬だよ。気が狂ってるの?」


「夏だよ! こんなに燃えてるんだもん! ちっとも寒くなんかないし!」


「俺は寒い。早くこんなとこ立ち去ろうよ帰ろうよ」


「離さないっ!」


「いや、離せよ」



 彼のコートの前を開けて、彼のセーターを着た暖かい胸に顔を埋める。コートの中は使い捨てカイロがびっしりと貼られている。


 ああ、こんなに心は暑いのに、暖かい彼の胸の中がこんなにも居心地いい。湿度の高すぎるあたしの思いをカラリと受け止めてくれる。ずっと、永遠に、ここにいたい。


 いたい。


 いたいよう。



「里美ちゃん、それ、凍傷じゃね?」

 大成(たいせい)が優しい声で言ってくれた。

「そんな薄着してるから、真っ青だよ、肩が」


 何よ! 肩出してたらいけないって言うの?


 あなたに見せるためなのに。ああ、大成(たいせい)。あなたにこの素肌を見てもらって何かを感じさせたいからなのに。突っ込まないでよ。



「病院行こう」

 優しい声があたしを包む。

「眠ると死ぬよ? 手遅れになる前に。あと、頭の病院もね」



 やだ。あたし、ずっと、こうしてたいんだから。


 ずっとこの胸の中にいたい。永遠に、いたい。いたい。



 永遠は、ここにあった。永遠の夏。



 意識が遠くなって行った。




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― 新着の感想 ―
[良い点] レビューから拝見いたしました。 2月の小説ですが、いやー暑いですね(笑) 里美のパワフルな暑さと大成のクールなツッコミが 私の心も暑くしたり冷やしたりしてくれる短編でした。
[良い点] ああ、うん。 ホント天才。 天才です……! 最後の二行、そこだけ見ると、正統派の詩情が描かれていているのに(多少の狂気はあるにせよ)、作品全体に流れる、カラッと明るく、可愛くてポップなの…
[良い点] 面白かったです! 『いたい』が『痛い』とかかってるんですね! 意識遠くなってるし! 彼氏の『冬だよ。気が狂ってるの?』とか冷静なツッコミも面白いです。 朝から面白くてにやけてしまいました。…
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