2.遭遇一歩前
ありゃあ、知り合いのご隠居に呼ばれて、テフェンの町を訪れた時の事だったな。そこでとんだ騒ぎに巻き込まれちまったのよ。……あぁ、そんな事になるって判ってりゃあ、幾ら上得意のご隠居の頼みでも、テフェンなんて町にゃ近寄りもしなかったろうぜ。……ご隠居の隠居所は町から少し外れた場所にあるから、テフェンを通らずに訪ねて行く事だってできたんだ。
何しろ選りに選ってその町で、あわや例の四バカどもと面付き合わせるとこだったんだからな……
マコーレー子爵ってお貴族様がお宝を奪われた一件は知ってるか? あぁ、その話だ。
まぁ……気の緩みが無かったたぁは言わねぇが、公平に見て四バカだけを責める事ぁできねぇかもな。何しろよ、宿の食事に一服盛られて眠りこけたなぁ、子爵様の護衛も同じなんだからよ。
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「すると何ですかぃ? あの四バカ……失敬……何とかいう勇者(笑)パーティが子爵様の行列の護衛を買って出たのはいいが、一服盛られて眠り込んじまって、挙げ句に肝心のお宝を盗まれちまった――と?」
「子爵様自前の護衛共々な。まぁ、宿の警備役が賊に気付いて応戦し、何名かは討ち取ったみてぇだが」
肝心のお宝は盗まれたまんまかよ。そりゃ、四バカも面子丸潰れってやつだな。
「もう護衛も勇者も当てにならねぇってんで、子爵様は冒険者ギルドに依頼してきたわけだな」
「……次回の護衛を――って事ですかぃ?」
「んなわけ無ぇだろうが。盗まれちまったお宝を取り戻せとの仰せだ」
あぁ……やっぱり面倒な話かよ……
「……だったら、ちんけな駆け出し斥候職を徴集するよか、追跡のための人手を集める方が先なんじゃねぇですかぃ?」
……夜明け前から宿にまで押し掛けやがって。好い気持ちで白河夜船と眠ってるところを、無理矢理に叩き起こされた身にもなってみろってんだ。
「そっちの方は手配してある。お前に声をかけたなぁ別口だ」
「……まさか、片腕から下手人の行方を割り出せ……なんて事を言うんじゃねぇでしょうね?」
アロニーの冒険者ギルドじゃそんな無茶振りをされたんだ。ここテフェンのギルドだって、どんな無理難題を振ってくるか解ったもんじゃねぇ。
そう思って予防線を張ったんだが……
「安心しろ。今度はちゃんと首から下も揃ってる。息の有るやつも無いやつもお望み次第だ」
ここのギルマスもアロニーでの件は知ってたらしく、そんな答えを返してきた。……アロニーのギルマス、余計な事まで吹聴してんじゃねぇだろうな。
……まぁそりゃいいんだが、〝息の有る無しはお望み次第〟ってのは……
「……宿の警衛の戦果ですかぃ? 討ち取っただけじゃなく、生け捕りにしたのもいるって事で?」
「あぁ。生きてるやつぁ既に訊問が始まってるだろうが、おっ死んじまったやつはまだ手つかずのままだ」
「……屍体が『浄化』されてたら、駆け出し死霊術師の手にゃ負えませんぜ?」
「それも安心しろ。子爵様が直々にそれを止めて下さって、万一のための監視付きで保存されてる」
おぃおぃ……って事ぁ……
「あぁ、死霊術師を呼べってなぁ、子爵様直々のご要望だ。嫌でございますと断るか?」
「……んな真似できるわきゃ無ぇでしょうが……」
結局、吹けば飛ぶよな駆け出し死霊術師にお貴族様の無茶振りを拒めるわけもなく、俺は事件の現場まで引っ張ってかれて、死霊術で屍体を訊問する羽目になったわけだ。……まぁ、久方ぶりの死霊術師らしい仕事って言やぁ、そりゃ確かにそうなんだけどよ。
あぁ、屍体の訊問は恙無く終わったよ。……まだ屍体になってねぇやつの訊問もついでにな。
ギルマスが死霊術の場に賊の一味を引っ張って来た時にゃ何かと思ったが……まさか〝アンデッドにしてから死霊術で訊問した方が早い〟なんて脅かすたぁ思わなかったわ。冒険者ギルドのギルマスともなると、色んな手管を知ってるもんだぜ。賊の野郎、顔を青くして白状しやがった。……そこまで嫌かね、死霊術。
まぁ、そんなこんなでとにかく一味の隠れ処を訊き出して、俺たちゃそこへ向かったんだけどな……