第二十八話 魔王城の地下通路は罠だらけ!?
昨日のうちに、マドブルクの街の地下通路の母体は完成し、あとは街の人々に任せることとなった。
リラとマオは昨日のうちにタスケに指示を受け、マドブルクの街からそう遠くない森で、地下通路作りの真っ最中。慌ててタスケとイトウも加わった。
そして、休憩がてら森からいったん離れたところで、リラがタスケに声を掛ける。
「そういえばタスケ。そろそろ教えてくれない?なんであたしたちは『地下通路』なんか作ってるのよ」
「しかも複数ですしね。リラさんの魔法のお陰で割と進みは早いですが……」
「あぁ、そろそろ伝えるべきだと思っていたところだったんだ。次の作戦をね」
タスケはマントの裏から、大量のメモを取り出した。
「うわっ!なんだその量」
「夜な夜な魔王城の探索をしていたら、いい情報がどんどん手に入ったんだよね!これでも厳選した方!」
「どうやって持ってたのよそれ……」
「タスケさんのマントの中は、四次元ポケットか何かですか……?」
スキルを使って魔王城探索などに出掛ける度、メモの数を増やすタスケのために、マーリアがわざわざ内ポケットをたくさん作ってくれたのだ。
「お陰で実に百枚はありそうなメモの束も、ご覧の通り!ぜーんぶ収納出来ちゃいます!……って、僕は夢のジャパネットタスケか!」
「何一人で漫才しているのよ」
「まあ、それは置いておいて、今から魔王の慌てぶりを再現するから!見ていて!」
「は?」
「再現?」
タスケは目を瞑り、百万体ものモンスターと四天王のひとりを失ったことに騒然とする、魔王の様子を思い浮かべる。
ここからはタスケの寸劇をお楽しみください。
『マドブルク付近で大爆発が起きたと聞いたが……詳細が分かる者はいないのか!!』
『ヒッ!申し訳ございません!魔王軍百万体ものモンスターも、四天王のひとりでおわすザキル様も、全員やられてしまったということしか……!』
『くっ……ヒュドラを連れて来い』
『はっ!!』
魔王はヒュドラを魔王の間へ呼び寄せ、何やら呪文を唱え始める。
『グルルルル……(※ヒュドラです)』
『ふむ……録画を見る限り、勇者の魔導船が近づいてきて爆発だな……』
『勇者の奴、自爆作戦でも考えたんですかね?』
『そんなわけがあるか。自爆するにしても、この魔王城でするのが普通だろう』
『た、確かに……』
「いや、ヒュドラのカメラ眼球……録画もできるのかよ。ハイテクだな!?」
「魔王も魔王で、次の作戦を考えているんだよ。回想に行くよ!」
『この大規模な爆発……色合いから見ても、魔石暴走を起こしたとしか思えん。今すぐマドブルクに迎える者はおるか』
『ワ、ワタシは無理ですよ!?長距離移動ができるキャラじゃなきゃ』
『キャラとか言うなよお前』
『じゃあアナタが行けばいいじゃない』
『やかましいぞ!お前たち!』
『すみません……』
『マドブルク周辺に大きなクレーターが出来、その影響で地割れも起こしている。地形が大幅に変わっているが、我々がマドブルクに侵攻する手口ならまだあるだろう』
そう言って、口角を吊り上げる魔王。それにつられるかのように、モンスターたちも笑みを浮かべ出した。
『こういう時のために、地下通路を用意しておいて正解だったな』
『なるほど!そういえば、マドブルク付近の森に地下通路を建設していましたね!』
『今思い出したのかよ……』
『お前たち、準備を整えておくんだぞ。勇者ども……この魔王ヴリトラに逆らったことを、後悔させてやるからな……!フッフッフ……』
ここでタスケの回想寸劇は終わった。
「……って感じで、魔王軍の作戦を盗み聞きしてきたわけなんだ」
「ちょっと再現度高いの腹立つわね……」
「なるほど……マドブルク近くの森って……」
「今向かっている場所だよ。ちなみに街の中の地下シェルターは、街の人の避難用。もう地割れが起きるような作戦は実行しないから、魔王軍が攻めてきたときにはそこに避難してもらう手筈だよ」
「それなら前のように怪我人の心配は無さそうですね」
そう。マドブルクの街の中に作っていたのは、地下通路というよりは『地下シェルター』を作っていたのだ。もう二度と、街の人々を傷つけないために。
「それにしてもこの森、街から随分近いじゃないの。大丈夫なの?」
「うん。雑魚は基本的に地下で倒す。魔王ヴリトラは出てきてしまうだろうけど、街への被害は最小限に出来るはずだ」
タスケは森の地面の、色が変わっている部分を指差した。
「ほら、見えないように魔法をかけてあるけれど、このあたりだけ違和感があるだろ?」
「本当だ……色が違うわね」
「あ、触っちゃダメ。魔王城に通知がいくみたいだから」
「この世界、なんで絶妙にハイテクなのよ……」
魔王城からここに繋がる地下通路の出入り口。しかし、ここに少しでも触れれば、魔王城にある全てのサイレンが鳴り響くのだ。それはもう火災報知器のように。
「この地下通路を逆手に取る……ということですか?」
「そう。僕がやりたいのは、この魔王城と繋がる地下通路とは少し離れたところに穴を掘り進めて、たくさん『仕掛け』を作ること。魔王軍がここに来ることは決まっているから、この場所で決着をつける。あ、あんまり大声は出さないでね」
「指差すんじゃないわよ……」
「まぁ、一番大声を出しますからね」
「そんなこと……!あ」
リラが特に頭に血が上りやすいタイプだが、反面素直でもある。自分が話すと、どうしても声のボリュームが上がってしまうと判断したリラは、押し黙ってしまう。
三人とも、真剣な面持ちでタスケの話を聞く。半信半疑だった最初の頃とは全く違う。あの魔石大爆発作戦が成功し、勇者たちの信頼を確実に獲得したのだ。
次だって必ず、成功させてみせる!
「構図も作って来たんだよ。こういうイメージね」
「うわあ……」
タスケの描いた図に、三人は間の抜けた表情になる。ど、どうして?
「えーっと……?多分これが魔王軍の地下通路ですよね?」
「そうそう!」
「この魔王軍の『地下通路』から少し離れた位置に、罠仕掛け用の穴を掘って、魔王たちが通ったときに作動するようにしたいんですね?」
「その通りだよ!マオは本当に頭脳派だね!」
「いや……その図は私でも理解不能なところありましたよ」
「あんた、図を描くの下手すぎでしょ……」
「えぇ……自信作だったんだけどなぁ……」
タスケは批評されまくる自分の図を見ながら、がっくりと肩を落とす。そういえば、美術の成績は一だったような……。
「だが、マオの説明のお陰でやりたいことは分かった。仕掛けは何をするんだ?」
「この前の魔石暴走作戦で、普通の魔石の暴走による威力も分かっただろ?魔導船のように巨大な魔石まではいかなくとも、軽く十体のモンスターを倒せる……それが何発も地下通路で起きれば……フッフッフ」
「戦えない割にはあんた、おぞましいことを考えるわね……」
「ですが、やるしかないですよ。私もタスケさんの案が得策だと思いますから」
タスケの考えた作戦は、地下通路に暴走魔石による地雷を仕掛けるというもの。早速三人は地下通路作りを始めた。
通路自体はリラの魔法によって穴をあけ、人が通る必要はないため道は最小限の固め方で良いことにした。
「結構派手に掘り進めてるけど、大丈夫なわけ?さっき言ってた火災報知器みたいなの、作動しないの?」
「うん。今日僕が持って来たマントを、みんな身に着けているだろう?マーリアが僕らのために作ってくれた『透明マント』は、モンスターたちの視界から僕たちを見えなくするんだ」
「へぇ……あのお嬢様、便利なものも作れるのね」
「マーリアは凄い人だからね!」
マーリアが褒められていると、自分のことのように嬉しくなってくる。
「……で?次は何処に作るのよ?」
「あ、次はあのあたりを……」
「俺は周辺モンスターを狩ってくるな」
「うん、よろしく」
リラが大方の位置に魔法で穴をあけ、いよいよ仕掛けを投入するとき。
魔王軍の地下通路内にはタスケの意識を飛ばし、備蓄品がある場所、武器庫の在処をこと細かに把握した。
「リラ。その先を掘り進めれば兵士詰め所がある。普段は見張りのモンスターしかいないところだけど、攻めてくるときは傷ついたモンスターの救護所になるんだ。僕がいいって言うまで掘ってくれ」
「分かったわ」
「マオ。その先には所持金を預ける銀行みたいな場所があるよ」
「……このまま掘り進めてはいけませんか?」
「それはダメ。かと言ってお金は勿体ないから、水を流し込む仕組みにしようか。この世界のお金は全て金貨だから、水責めしつつ盗めるタイミングで盗んじゃおう」
「はい」
タスケの指示で、どんどん地下通路を掘り進めていくリラとマオ。そして、森周辺のモンスターを一掃したイトウも合流し、通路は大方作り終えることができた。
地味な光景だが、しっかり魔王軍対策をしている最中なのである。
仕掛けは前回各々が持っていた魔石。しかもリラとマオの魔法によって、暴走手前まで来ているものである。各自が掘り進めた先に、そっと魔石を置いて行く。
「乱暴に置くと魔石暴走が起こるから、みんな気を付けなさいよね」
「リラが一番乱暴に置きそうだっての……」
「何か言ったかしら?イトウ」
「何でも……」
イトウあいつ……さてはリラが苦手だな? 強気な魔法使いなんて、よく聞く設定ではあるけど、リラは特に強気だもんなぁ。
「でも、魔石に溜める魔力を暴走手前までに留めるなんて、さすがリラだね」
「ふふっ、もっともっと褒めてもいいわよ」
リラは褒めると上機嫌になるし、否定されると不機嫌になる。かなり分かりやすい人間だ。だから、凄いことをしたときは普通に褒めてあげるのが一番だろう。
「……タスケさんは、普通に見えて凄い人ですよね」
「えっ?な、何?どうしたのいきなり」
「人を見る目……観察眼が鋭いのでしょうか。生憎、人の心情には疎いようですが」
「な、何の話……?」
マオは唐突にタスケに近寄り、そう話す。しかし、それ以降は俯いて何も言わなくなった。彼女は元々掴めないところがあるけれど……今日は更に分からない!!
「だいぶ仕掛け終わったわね!今からでもかかってきなさいよ!」
「いやそれはダメだろ……一旦みんな休憩を……」
「おーーーーーい!!お前たち!!」
声のした方向を振り返ると、カゲツが走って来ていた! それはまあ、凄い勢いで。
……ちょっと待って!?
「わあああ!カゲツ!?」
「と、止まれ!止まれ!」
「きゃあああ!!」
「えっ?カゲツさん?」
カゲツの勢いは止まらず、そのまま僕らに突進してきた。僕たちは四人まとめて、カゲツにハグされてしまう。
「あ痛たたた……」
「もう!何すんのよ!カゲツ!」
「すまない……お前たちに早く会いたくてな……」
「ふふ、カゲツさんも可愛らしいところがあるじゃないですか」
どうやら怪我が完治したらしいカゲツは、それはもう嬉しそうに合流できたことを喜んでいる。
ふと目が合い、優しく笑うカゲツ。良かった。本当に……。
「良かった……怪我、治ったんだね」
「あぁ。心配を掛けたな……そろそろ昼食の時間だと思って、パンやフルーツを全員分貰ってきたぞ」
「やったぁ!お昼!」
「ありがとうございます」
「助かる!」
カゲツが持って来たのは、ギルドで冒険者に支給される黒パンとフルーツ。
ギルドの黒パン、久々に食べるなぁ。ずっとマーリア邸で世話になっていたし……。でも、手掴みなら手を洗いたいところ……。
「これ使います?」
「ん?おぉ!紙せっけん!?異世界にもあるんだ!?」
「随分前にモンスターから盗んだものです。元はきっと人のものだったに違いないですけど……誰のものか結局分からないので使いましょう」
そう言ったマオは、至って無表情だった。
マオは確か……人から盗まれた人のものを取り返すために、盗みをしていたんだっけ……。
それこそ漫画でよくある怪盗みたいに……。凄いことだけど、やっぱり犯罪者には変わりないんだよな……。
マオは四人の中でも一番、僕に心を完全に開いてくれていない。
いや、指示には従ってくれるんだけど、消去法で従ってる感じなんだよなぁ……。
「一緒に戦う上では……心から信頼し合ったほうがいい気がするんだけどね……」
黒パンに食らいつきながら、タスケは誰にも聞こえないように呟く。
視線の先には、三人の輪から少し外れたところで手を合わせているマオがいた。
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