第二十一話 作戦実行!今夜決行!
マドブルクの街を出たタスケたち。そして、先程タスケが見掛けた魔導船の位置へと辿り着いた。
目的地までの移動中、彼らの戦いぶりは凄いものだった。目にも止まらぬ速さで剣を振るうイトウに、群れるモンスターに対しては爆発魔法を繰り出すリラ。己の肉体と格闘技だけでモンスターを倒していくカゲツに、みんなが倒したモンスターから、根こそぎ様々なものを奪っていくマオ。
さすがは勇者パーティだ……! 僕は後ろから見ていることしかできないけれど!
「よし!このあたりのモンスターは一掃できたらしいな!行くぞタスケ!」
「は、はい!」
「なんで敬語なのよ」
圧倒されてしまって、つい呆けてしまった。いけないいけない。
「確かこの辺りだったな……来い!我が『イトウ・グレート号』!!」
イトウがある場所で立ち止まり、大声をあげた。勢いの良い風とともに、イトウの声に呼び寄せられた、大きな船が降りてくる。
「おおー!すっげぇ!でっかい!」
「だろ?めちゃくちゃ失うの惜しいんだぞ!これ!」
「やるからには成功させなさいよね!」
イトウたちが乗ってきたという魔導船を目にし、興奮気味のタスケ。
巨大な魔石をエネルギーにしているだけあって、四人で乗っているとは思えない大きさを誇る船。一度でいいから、こんな大きな船に乗ってみたかったんだよなぁ。
「作戦の前に……僕もちょっと乗ってみていいかな?」
「すげえ少年みたいな目をしてんな。いいぞ」
「やったあ!」
なんだか童心が帰ってきたタスケは、喜び勇んで魔導船に乗った。
「フッフッフ……我は夜を駆ける漆黒の悪魔・タスケイロ!いよいよこの世界を我が手中に収めるときが来たな……!」
「一体何を言っているのよ……全く、本当にさっきあたしたちを言い負かした奴なのかしら……」
「リラも最初あんな感じではしゃいでいただろう。人のことを言えまい」
「なっ……!」
「随分可愛らしくはしゃいでましたよね~。『あたし、こういう大きな船に乗るのが夢だったの!』って。ふふっ」
うん。漆黒の悪魔・タスケイロ、またしてもスルーされたな。
それにしてもリラはずっと怒っているイメージだったけれど……なんだ、可愛いところあるじゃんか。
「なんでそんなに細かいこと覚えてんのよ!マオ、あんたって女は!」
「ふふっ。人の弱みには敏感なもので」
そんなやり取りを繰り広げるリラとマオを見ると、正反対に見えて案外仲が良いんだなと思う。
って、いけないいけない。本題を忘れるところだった。全員が船に乗り込んだのを確認して、タスケはイトウに尋ねる。
「この魔導船を動かすときって、やっぱり今みたいに声で動くのか?」
「その通りだ。しかも登録されている俺の声でのみ動くんだぞ!」
犬やドラゴンのカメラ眼球やら、音声録音機能やら、いちいち若干ハイテクだよな。この世界は。
「飛べ!我がイトウ・グレート号!!」
「うわっ!!?」
イトウが叫んだと同時に、魔導船が宙に浮いた。にしても、ネーミングセンス……。
「しかし、イトウ・グレート号って……」
「いいだろ!旗にもちなみに『勇者 イトウ・グレート』の文字を書いているぞ!」
「スキルで見たよそれは……。クソでかいから邪魔かもだけど、旗はとりあえず取っておいた方がいいよ。この旗、羅針盤の役割を果たしてるからね」
「そうなのか!?」
「冒険者の旗は、そう作られてるんだよ。冒険者が道に迷った時の助けになるようにな。冒険者ギルドで冒険者登録したら、基礎知識として教えられることだぞ?」
「そ、そうだっけ……」
「お前さては、説明書とか読まないタイプだな」
僕は冒険者ギルドに登録した時に貰った、タスケ専用の旗を取り出す。イトウの魔導船のものよりコンパクトなので、地図を見るときに役立てているのだ。
しかし、イトウは、全く活用していなかったらしい。
「この地図上のマドブルクの街に旗を刺してみると……ほら、向きが変わるだろ」
「本当だ!」
「凄いな!」
「あたしも知らなかったわ!」
「いや、だから最初に説明されてるんだって」
「私は知ってましたけどね……」
冒険者としての基礎知識が足りてないな……脳筋パーティめ。
「だから、旗は回収しといた方がいいよ。でも、その旗くらい目立つものがあった方がいいよな……」
「何をする気なんだ?」
「魔王軍を、マドブルクの街からまあまあ離れたこの場所に呼び寄せたい」
「なるほど。そうすれば、街への被害はないんだな」
「確証はないけどね……僕も魔石の暴走を目の当たりにしたことはないから」
「試しに私の持っている魔石、暴走させてみますか?そうすれば、イメージが湧くかもしれませんし」
マオはそう言って、魔石をいくつか取り出した。確かに、イメージしておくことは大事かも。
『完成型をイメージしながら服を作っていると……とても楽しくなってくるんです』
この服を作ってくれていた時のマーリアの言葉……。
マーリア、僕も今、楽しくなってきているよ。僕の作戦で、魔王軍に大打撃を与えられるかもしれないと思うと、凄くワクワクする!
「そうだね!やってみよう!」
「魔石暴走か……俺たちはやったことないが、どうすれば発動するんだ?」
「昔、とある魔法使いが火山のモンスターたちを殲滅しようとした時、魔法使いの魔力と相まって、魔石が暴走して山が消し飛んだらしいんだ。だから、今回の作戦のキーマンとなるのは……」
「リラか……」
「えっ」
「うむ。特にリラの炎魔法はかなりの威力だから、適任だろう」
「嘘でしょ?」
「ファイトです、リラさん」
「待ってってば!」
全員の視線がリラに集まる。リラはどこか怯えた表情をしながら、言葉を続けた。
「その暴走魔石の話は、転生した場所……『魔法使いの集落』で聞いたことがあるのよ……。その魔法使いが山を消し飛ばしたのと同じくして、命を落としたこともね……」
「うん。それくらい、魔石を暴走させるという行為は危険なことなんだ。でも、山一つ消し飛ばせるほどの暴走を、魔王軍にぶつけられれば……」
「魔王にとってはかなりの痛手に違いない、か……。リラ。お前にしかできないことでもあるんだぞ」
「う……」
「大丈夫だ。リラが危険な時は、我が身を挺してでも守って見せる」
「カゲツ……」
「そうですよ。リラさんがいないと、このパーティ面白くな……淋しいですし」
「マオ……前半は聞かなかったことにするわ……」
みんなに励まされ、リラは次第にやる気を出してくれたようだ。
「まずは一つの魔石でどれだけ暴走させられるか……。僕が軽く魔石を投げるから、リラは暴走させた炎魔法をぶつけて」
「分かったわ……やればいいんでしょ、やれば!」
「よーし!闇の力よ……我が腕に集え!!」
「さっきから何なのよそれは!」
「『ダークネス・ゴー・シュート』!!」
「お前も大概だぞ……」
しかし、タスケが渾身の力で投げた魔石は、船の舳先にぶつかって、床に落ちる。上空に投げたはずなのになぁ……。
「……あれ?」
「……あんたどんだけノーコンなのよ!」
「お、俺がやろう……」
タスケの腕力では、少し遠くに投げることすらできなかったようだ。代わってイトウが、船の少し奥へとめがけて、魔石を投げる。
「アディオ――ス!!」
「そこは技じゃないのかよ」
僕のツッコミも気にせず、イトウの狙い通りの場所へと魔石が飛んで行く。空中を舞う魔石に向かって、リラは杖をかざした。
「最大炎魔法……マクス・フランベ!!」
投げられた魔石に向かって杖を構えたリラの前方に、炎の塊が集まり、ぶち当たる。魔法暴走による加速もあり、魔石はさらに遠くの方へ。
赤くメラメラと燃えていた炎が、魔石の力のせいか、紫色に変わった。
「魔石の暴走が始まったようね」
「あれが……魔石の暴走!?」
そして、魔石が砕ける音と同時に、炎が上空で燃え広がった。凄い威力だ……軽く十体のモンスターは一気に倒せてしまえるだろう。
「す、凄いな……」
「化学反応みたいですね」
「確かに、この世界で言う化学反応なのかも知れん……一つの魔石であの威力なら、この船の魔石は……」
想像して、少し身震いがする。この大きさなら、山一つどころか、五つくらい軽く消し飛びそうだ。
「いける……!いけるよリラ!」
「そ、そう……?」
「うん!リラの魔法も凄かった!魔法って凄く格好いいね!」
タスケは喜びながら、リラの手を取った。純粋に魔法を褒めたら、耳まで赤くなっている。それを面白がって、マオがからかい始めた。
「あらあらあら?リラさんお顔が真っ赤ですよ?」
「う、うるさいわね!マオ!……タスケ!あんたも!気安く触るんじゃないわよ!」
「あ、ごめんリラ……嫌だったよね」
「べ、別に嫌じゃ……ないけど……」
それっきり、リラはタスケから目を逸らしっきりになる。また怒らせちゃったな……。
「嘘よ……こんなパッとしない奴にドキドキしてるはずないわ……」
「……私は恋愛に興味なんてないですけど、ああいう普通の人が、意外とモテたりするんですよねぇ」
「何の話をしてるんだ?」
「さあ……」
「女性には女性としか語り合えないことがあるのだろう……」
「確かに……あれがガールズトークってやつか。今度二人をマーリアに紹介しようかな」
マドブルクの若い人は、ほとんど冒険者を志す上、マーリアは縫製作業に夢中になりがちだ。そしてマドブルクで一番の名家のお嬢様だから、同世代の友達がいないらしい。
ベルベットさんもそのあたりに関しては心配していたもんな……。
マーリアたちのことを考えていると、突然イトウに胸倉を掴まれる。うわー、今日何回目だよこれ。
「マーリアって!お前、あのお嬢様と知り合いなのか!?」
「え、あ、うん……友達だよ」
「くっそ……俺とは全く話そうとしなかったのに……なんでなんだ……!」
「あー……しつこいからイトウのことは苦手って言ってた」
「くそー!なんでだよおおぉぉぉ!!」
そんな話をしていたら、いつの間にか夜も更けてしまっていた。タスケたちは一旦船で休むことに。
リラ、カゲツ、マオが各自の部屋で戦闘準備を整えに行き、魔導船の舳先にはタスケとイトウが並んでいた。
タスケはゴースケを派遣し、南の方から向かってきている百万体ものモンスターたちの様子をうかがっていた。
「うーん……やっぱり加速しているな……」
「そうか……どうするタスケ。船を動かすか?」
「この船を使った魔石の暴走で、どれだけの規模になるか読めない以上、街に近づいている奴らに向かっていくのはリスキーすぎる。街からある程度離れている、ここに『おびき寄せよう』」
「オッケー。それならば、この勇者イトウ・グレートに任せろ!」
「何か策でもあるのか?」
イトウは得意気に笑いながら、自分の剣を抜き、天に掲げた。
「おいタスケ!だいたいのモンスターたちの方向は!?」
「イトウから見て九時十分の方向!」
「何処だ!」
「アホか!」
そんなに頭が良くないようなので、口で言っても伝わらない!仕方がないので、指を差して方向を示す。
「完全に理解した」
「本当かよ……」
「勇者奥義……『イトウ・グレート・アルティメットソード』!」
本当にネーミングセンスが無いな……そう思ったタスケだったが、彼の剣から飛び出したド派手な衝撃波の威力は本物だったため、そっと口を噤んだのであった。
選ばれし者である勇者の一撃必殺。それはまるで、戦いの狼煙のようだった。
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