第二十話 とんでもない作戦!
過去話に花を咲かせていた五人だったが、ふと、イトウがギルドの時計を見やる。
「そういえば、タスケは何をしにギルドに来たんだ?俺たちは次の戦闘の準備に来たのだが……」
「あっ!そうだった!!」
タスケはここに来た本来の目的を思い出して、大袈裟に立ち上がる。
そうだ。勇者であるイトウたちと合流し、仲間入りすることは出来たものの、事態は何も変わっていない。
「南側を侵略した魔王軍が、このマドブルクに向かっているんだ!」
「あぁ……そのことか」
「知っていたの!?」
「さすがに詳しくは知らなかったが……」
「魔導船に乗って別のダンジョンに向かっていた最中、不穏な動きを感じて我々はマドブルクに戻ってきたのだ」
魔導船……? なんだか聞き慣れない言葉が出て来たけれど、南の方で見たことを伝えなければ。
「南側の魔王軍は、百万体ものモンスターで構成されていて……君たちの力が必要なんだ!」
「い、今はどのあたりにいるのよ?タスケなら分かるわけ?」
「分かる!ちょっと待って……」
リラにモンスターの大群の居場所を聞かれ、タスケは意識を南側へと飛ばす。
かなり移動が進んでいるな……。モンスターは人間とは比べ物にならない移動速度だし……。
「このペースだと、明日にはマドブルクの街に到達する可能性が高いね」
「なんと……!」
「百万体ものモンスターに攻め込まれたら、街に及ぶ影響は間違いなく大きい……その糸口は君たちにしかないと思って、今日は君たちに会いに来たんだ!」
街への被害を最小限にするには、何か大きな力を働かせるしかないだろう。
「そうだ!イトウもスキルがあるんだろ?どんなスキルだ?」
「選ばれし者しか扱えないこの剣で、一撃必殺を放てるというスキルだ。ただ、一戦闘に一回しか使えないというデメリットがある。俺だけじゃなく、みんなスキルを持っているぞ」
「そうだったのか……」
凄いスキルだけれど、百万体ものモンスターを一蹴することは出来ないだろう。
「……じゃあ、リラは?スキルとか、一番威力の高い魔法はない?」
「あたしは戦闘中、MPが常に回復していくスキルよ。一通りどんな魔法も使えるけど、一番威力の高い魔法は炎魔法ね」
「リラの炎魔法が暴走したとき、十メートルくらいのクレーターがその場に出来たこともあったな……」
「ふふっ!崇め奉りなさい!」
「それは凄いけど、百万のモンスターを一気に消し飛ばすことは出来なさそうだね」
「ちょっと!?」
考えてみれば、勇者たちはかなり早い段階で魔王と戦ってしまっている……。戦闘経験も、実はそこまでないのかもな……。
「タスケ。お前の作戦に生かせるかは分からないが、我のスキルも念のために伝えておこう。我のスキルは、攻撃を受ける度に我の攻撃力が上がる、というものだ」
「私もお伝えしておきますね。相手の持っている所持金や持ち物が全て見えるスキルです」
カゲツとマオのスキルも、敵を一網打尽に出来るものではない……。
うーん……これは詰みか? 今からとんでもない威力の攻撃を放てる人を探すのも時間がかかるし……アンリさん曰く、勇者パーティを超える戦闘力を持つ冒険者はいないらしいし……。
「これは……終わったな。お疲れさまでした。作者の次回作にご期待ください」
「タスケ、お前何を言っているんだ?」
「とりあえず言ったらいけないことを言っていることだけ分かるわね……ほらあんた!しっかりなさい!」
リラに頭を叩かれながら、タスケは一人思う。このまま、魔王に世界を侵略されるのを待つしかないのか……折角転生してこの世界に来たって言うのに……。
『タスケ、気を付けてね。私はいつでもここで待っているから!』
タスケの脳裏に蘇るのは、ここに来る直前、笑顔で僕を見送ってくれたマーリアの姿。
そうだ。このまま諦めていいわけがない。マーリアが……この街の人たちの命が懸かっているんだ。
「モンスター百万体を一気に殲滅する方法……何かないのか……?」
「勇者の俺でも難しいからな……」
「百万を一気に……は無茶すぎるのではないか?」
「そうよ。そんなの魔王でもない限り無理だわ。バカ言わないでよ」
「僕はこの街の人たちが大好きなんだ。出来る限り巻き込みたくない……!」
タスケの言っていることが無茶であることは分かっているものの、四人はタスケの気迫に押されたらしい。彼らも考え込み始めた。
なにか……なにか無いのか!!?
頭を抱える僕の脳裏に、マーリアとの会話が過ぎった。
『へえ、魔石ってそんなことにもなるんだ』
『ええ。だから、戦いに参加しない私たちが魔石を手に入れたら、ギルドに預ける必要があるんです』
マーリアは仕事中、凄まじい集中力を見せるときもあるが、締め切りに追われていないときは、僕と話をしながら針仕事をしていた。
その時に、この世界のことをたくさん教えてくれたのだ。
《あれは『魔石についてもっと知りたい』と言ったときだったな……》
タスケはテーブルに広げたメモの中から、一枚取り出した。
『巨大な魔石が暴走し、大きな山をひとつ消し飛ばしたことがある』
「……これだっ!」
「ん?何か思いついたのか?」
「みんな!みんなは魔石、どれくらい持ってる?」
タスケの手元にある魔石は、荒野で自分で調達したものと、マーリアたちに分けて貰ったものを含めて合計六個。
「俺は七つだな。武器の強化をしようとしたが、これだけでは足りないってあの受付に言っていたところだったんだ」
イトウは七個の魔石を持っているようだ。受付でアンリさんと揉めていたのは、それが原因だったのか……。
「我は昨日の戦闘で手に入れた三つだけだ。我の武器は己の肉体……基本的に魔石の強化には頼らないようにしている」
「あたしは申し訳ないけどゼロよ。今朝落としてきたから……」
「私は二十個持ってます」
カゲツが三、リラがゼロ、マオが二十か……ってんん!!?
「マオの魔石、多くない!?」
「私のモーニング・ルーティーンの一環ですよ。ふふ」
「ああ……。(察し)でも、これでここには、合計三十六個の魔石があることになる」
「おお!それで俺の武器を強化するんだな!?」
「いや。強化したところで、百万ものモンスターに勝てる保証はないだろ。ちょっと待ってて……このあたりにいい場所がないか見てくる」
そう言って、タスケはマドブルクの街から三方向へとゴースケを飛ばした。街から出来るだけ離れた場所……尚且つここに向かってきているモンスターたちを一匹残らず駆逐できるような……。
「ん?なんだあれ……」
ゴースケはマドブルクの街から少し離れた上空に停まる、大きな船を見つけた。船なのに、空を飛んでる……?
近くまで行くと、船の旗に『勇者 イトウ・グレート』とでかでかと書かれている。
さっきカゲツが言っていた『魔導船』か?この位置か……いいかもしれない。
すぐに意識を本体に戻し、彼らに問いかける。
「イトウ。空にあったあの船、もしかして……?」
「あぁ。俺たちが乗ってきた魔導船だな。聞いて驚け。あの船は海じゃなく空を渡る!」
「魔王城の近くの集落で、イトウが実力をひけらかして貰ってきたのよ」
「そこだけ聞くと、めちゃくちゃ格好悪いな……」
「うるせぇ。『ひけらかした』は違うだろ」
「ひけらかしたかどうかはともかく、あの魔導船は本当に便利なものだ……。世界に三隻しかない代物を、我らが扱えるなんて、実にありがたい話……」
「……あ、確かあの魔導船って、相当巨大な魔石をエネルギーにしていましたよね」
タスケはマオの発言を聞き、ピンとくる。それだ!
「君たちは知っているか?巨大な魔石によって、山がひとつ消し飛んだことがあることを」
「どこかで聞いたことはあるが……っておい、まさか!」
「そしてこれは究極の選択だ……。ここで死ぬのと、魔導船を失うんだったら……どちらを選ぶ?」
「は……!?どっちも嫌なんだけど!?」
そう。タスケの考えた作戦とは、魔導船に使われている巨大魔石を暴走させ、モンスター百万体を一気に消し飛ばす……というものだった。
それを悟った勇者パーティの面々は、一気に表情を曇らせる。
話を聞く限り、貴重な魔導船……確かに失うのは惜しいだろう……。
「どちらも嫌……?君たちの一存で、マドブルクの人々もろとも、僕たちも全滅という未来しかないよ?それでも魔導船が惜しいのか?」
「くっ……」
「僕はその魔導船に乗ったことがないし、君たちには君たちなりの愛着もあると思う……。だけど、その執着が人をたくさん傷つけることもあるんだ!頼む!作戦に乗ってくれ!」
「イ、イトウ……!どうするのよ!」
「我は魔導船を失った方がいいと思うが……ここはイトウに決めてもらおう。勇者だからな」
「私は正直どちらでも。正面突破の方が盗みは出来ますからね」
「カゲツ……マオ……!」
カゲツは案外あっさりと魔導船を手放すことを決めたようだ。マオは至って冷静に言い放ち、リラは未だに迷っている。
「そう言ってるけれど……マオのことだからどうせ別に理由があるんでしょ?」
「……何の罪もない人たちに死んでほしいわけじゃないです。私も魔導船を失う派で」
マオも最初から答えは決まっていたようだ。なら、後はイトウとリラだけ。二人ともだらだらと汗をかいている。
でも、イトウだって転生前が不良(※タスケの偏見です)でも、今は勇者。答えは決まっているはずだ。
「お前たち。これからは徒歩移動になるが……いいな?」
「っ……分かったわよ!」
「構わぬ」
「了解です」
「イトウ……!」
「ほら、そうと決まれば魔導船の方に行くぞ。タスケ、暴走のさせ方は?」
「頭に入ってる。決断が早くて助かるよ。ありがとう!」
かくして、勇者パーティ&タスケは、マドブルクに迫る魔王軍を迎え撃つための準備に入るのであった。
「って、なんだよ!『&タスケ』って!」
「戦闘できないんだから、補助要員だろお前」
「そうよ。勇者のパーティに仮にも入れただけ、ありがたいと思いなさいよね」
まだまだ、タスケの受難は続くのである……。
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