Remembrance.17
「だからオレは力あるものに嫉妬するよーな心の狭い奴にゃなりたくないんで、そーいうの気にしないのさー」
最後にアツシはいつもの口調に戻り、そうソフィルアの疑問に答えを返す。
目を見開き、何も口を開けずにいるソフィルアへ、アツシは野性的な笑みを浮かべて「他に質問は?」と言った。
「……い、や」
「そーか。いやぁ、オレ様ソフィルア君ともっと仲良くなりたいから、もーっとなんでも聞いてくれてかまわねぇんだぜぃ?」
アツシはいつもの笑顔でそう言うも、元々そうお喋りではないソフィルアは、質問も直ぐには口から出てこない。
ソフィルアが少し困ったように沈黙し考えていると、突然部屋の入口からノック音と共に「アツシさーん、いますー?」という声が聞こえてきた。
「ミルフィーユか? ……なんだぁ?」
アツシはベッドから立ち上がり、ドアの方へ向かう。そんな彼の姿をソフィルアが視線だけで追っていくと、アツシは「へいへい、なに用でございましょ」と言いながら扉を開けた。
「あ、よかった。アツシさん、戻ってきてたんですね」
ドアを開けると案の定ミルフィーユの姿があった。しかし彼は何故か、頭から大きめのタオルをすっぽりと被っている。その奇妙な恰好にアツシは首を傾げたが、とりあえず部屋へと来たミルフィーユの用件を聞いてみることにした。
「どうしたんだー?」
「あのですね……あ、ソフィルアも起きてたのか」
アツシの後ろにソフィルアの姿がチラリと見え、ミルフィーユは言葉を切り替え室内へと目を向ける。
「あぁ」
「疲れてたようだし、もう寝てるのかと思ったよ。っていうか、俺がさっきまで眠っちゃってたからさ」
部屋の中からソフィルアの返事が聞こえてくると、ミルフィーユはアツシへの用件など忘れたかのように話を続ける。思わずアツシが身を乗り出して「オレに用があったんじゃねーんかい!」と言うと、ミルフィーユは「あ」と言って視線をアツシに戻した。
「すいません。アツシさんの存在、今一瞬すっかり忘れてました」
「おまっ、こんな目の前にいんのに忘れんなよ」
段々アツシに対して軽い毒を吐くようになってきたミルフィーユに、アツシは苦い顔をしながらも「で、なんだよ」と問い掛ける。
「えぇ。さっきリオが俺の部屋にやってきて、明日からまたソフィルアと二人旅するって……」
「あらっ」
ミルフィーユの言葉に驚きの声をあげたのはアツシだったが、部屋の中ではソフィルアも一緒に驚いた顔をしていた。
「なんでいきなり」
「さぁ。なんかまた、二人で旅をしたくなったんですって」
理由を問うアツシに、ミルフィーユは少し意地悪く笑いながら「アツシさんがうるさくて嫌になったんじゃないですか」と言う。それに対してアツシは少し怒ったように、「そんなことはねーよ!」と言い返した。
「って言うかよぉ、ソフィルアは知ってたのか? あの、今の話」
アツシが振り返り室内のソフィルアに問い掛けると、ソフィルアは少し困惑した顔で「いや……」と首を横に振る。
「しかしあいつの気まぐれは今に始まったことではないし、あいつがそうしたいというのなら俺はそれに従うつもりだ」
「……うわぉ、かっこいいこと言うねぇソフィルア君は」
真面目な顔して聞いているほうが恥ずかしくなる台詞を言うソフィルアを見て、アツシは視線をミルフィーユに戻しながら「お前もあれくらい言ってみ、男って感じでかっこいいぞ」と囁いた。
「ほれ、『アツシさんの為ならなんでもします』とか『アツシさんサイコー!』とか『アツシさん、あなたは神です。どうかわたくしめを下僕のようにこき使ってください』とか言ってみ。ホラホラ」
「言いませんよ、そんな気持ち悪いこと。っていうか馬鹿なことばっか言ってると、本気で捻り潰しますよ」
ミルフィーユはジトッとした目でアツシを睨んだ後、ハァッ……と溜息を吐いて「まぁ、そういうわけでお知らせしときましたよ」と言った。
「おぅ、サンキューな」
ミルフィーユに礼を言い、アツシは少し淋しげに笑って背後を見遣る。
「にしてももう終わりかー。寂しいぜ、青年」
「そうですね。……できれば二人とは、もう少し長く旅したかったな」
アツシの言葉に同意したように、ミルフィーユも頷きソフィルアに言葉を向ける。
二人の言葉にソフィルアは少し笑い、小さな声ではあったが「俺もだ」と呟いた。
「でもま、出会いもありゃ別れもある。しゃーねぇな」
「う~ん……」
アツシがしんみりとした空気を払うように大声を出し、ミルフィーユがやはりどこか淋しげに表情を歪める。そんな二人を、ソフィルアは微笑を口元に刻んだまま、ぼんやりと見つめた。
すると突然アツシはミルフィーユに向き直り、「ところでさぁ」と彼に言う。
「え、なんです?」
顔を上げて疑問の目を向けるミルフィーユに、アツシは不思議そうな顔で彼の頭を指差した。
「その頭のタオル、なんだ?」
「……え」




