Remembrance.14
ミルフィーユは頷き、それを見たリオは「ではお休みのところをお邪魔してすいませんでした」と言った。
「あ、寝るときはちゃんと髪乾かしてからの方がいいですよ。濡れたままだと目が覚めたとき、ボワッて髪がすごいことになっちゃうんで」
「はは、ありがとう。気をつけるよ」
苦笑するミルフィーユに、リオは小さく手を振って背を向ける。彼女はそのまま小走りに駆け、自分の部屋へと戻っていった。
「……髪、乾かすか」
リオの忠告を聞いてか、ミルフィーユはそんなことを呟いた。
ミルフィーユの部屋から戻ってきたリオは、無言で自分の部屋へと入って扉を後ろ手に閉める。
「……」
そのまましばらく扉に背を預けて立ち尽くしていると、同室のリコリスが濡れた髪をタオルで拭きながら、不思議そうな顔をしてリオの元へやってきた。
「?」
「……あっ、リコちゃん! ご、ごめん、ちょっとボーっとしてたよ」
顔を覗き込んできたリコリスに、リオは慌てて反応を返す。それでもまだ不思議そうな顔をするリコリスに、リオは笑顔で「うん、大丈夫大丈夫!」と何度も首を縦に振った。
「……」
「あはは、ごめんね」
リオは笑いながら、髪の濡れたリコリスを見て「あ、リコちゃんお風呂行ってきたんだ」と言う。リコリスが頷くと、リオは「ボクも入ってさっぱりしてこよー」と言って大きく伸びをした。
「リコちゃん、タオルどこにある?」
「……」
リオが問うとリコリスは一瞬止まった後、直ぐにどこかへと小走りに向かう。すぐに彼女は部屋に用意されていたバスタオルを持ってきて、それをリオに手渡した。
「ありがとー」
笑顔で礼を言うリオに、リコリスは無表情に頷いた。
「っていうか、どうせならリコちゃんと一緒にお風呂入りたかったなぁ~」
「……」
リオの言葉に、リコリスは少し困ったような顔をする。そんなリコリスの反応を見て、リオは「あは、冗談だよ」と苦笑いして言った。
「それじゃ、お風呂行ってきま~す」
リオはリコリスに手を振り、再び部屋の外へ出る。
リオは扉をゆっくりと閉め、そして表情無くした顔で深く息を吐いた。
「……偶然、か」
先程のミルフィーユとの会話が、廊下に出た彼女の脳裏に思い浮かぶ。
リオは自嘲気味な笑みを口元に浮かべ、「偶然なんかじゃないんだよ」と呟いた。
限界だったのだ。
これ以上自分は、ミルフィーユと共に笑顔で旅なんて出来ない。だって自分は、彼を騙しているのだから。
ミルフィーユに何も知らないふりをして近付き、そして彼を監視していた。
全てはあの少年との約束だから。少年との約束で、ソフィルアの為に自分はミルフィーユを監視し続けていた。だけど
「……だけど、本当にこのままでいいのかな?」
理不尽な現実を受け入れられなかった自分は、現実を捩曲げる為に悪魔に魂を売った。そして自分は悪魔の要求を受け入れ、その結果が今のこの現実だ。
自分は今この瞬間にも、あんな優しい笑顔で自分に向けてくれているミルフィーユを騙している。その罪悪感に耐え切れなかったのだ。だから自分はミルフィーユから逃げることを選んだ。でもこれは逃げであって、自分の中に生まれた迷いを解決することにはならない。
結局自分は、どうすればいいのか。
わからない。だから胸が苦しい。
「……あ、そっか。ミルフィーユさんだけじゃなくて、ボクはソフィーも騙しているんだ……」
チクリと痛む胸を押さえ、リオは泣きそうな顔をして「騙してばっかりだ、ボクは」と呟いた。
何が正しいのかはわからないけれど、でもこれだけはわかる。
今ボクがしていることは、けっして正しいことなんかじゃない。
…………………………
『街中を見てくる』と元気なことを言って一人宿の外へ向かったアツシが戻ってきたのは、日が落ちて直ぐくらいの時間だった。
「たっだいまぁ~」
「あ、あぁ……」
別れた直後と変わらず元気一杯の様子で、アツシはにこやかに部屋へと入ってくる。
今夜彼と同室になったソフィルアは、そんなアツシにどう反応したらいいのかわからないようで、困惑した顔を彼へ向けた。
「なんだよソフィルア君、もっと笑顔でオレを迎えてくれよ」
「え、笑顔で……?」
「そーそー。笑って『おかえりなさい』って言ってくれよぉ」
「……」
アツシのふざけているのか真剣なのかよくわからない台詞に、ソフィルアは困惑を深めて黙り込む。ソフィルアがあまりにも難しい顔をして黙り込むので、アツシは苦笑して「じょーだんだよー」と彼に言った。
「わりぃわりぃ、そうマジに悩むなって~」
ゲラゲラと声をあげて笑うアツシに、ソフィルアは些か警戒の色を滲ませた視線を向ける。




