Remembrance.12
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『ミルフィーユ……さん?』
少女が俺に問い掛ける。
黒く長い髪、紅い瞳。綺麗な少女だ。だけど、君は一体誰だ?
『そう……あの、助けてくれてありがとうございます……』
少女は俺を見上げ、無表情に礼の言葉を紡ぐ。だが俺は少女を知らない。
『……私は……名前は、アリア』
あぁ、そうか。君はアリアというのか。
『……』
アリア、俺は君を……
…………………………
「さぁ、今日も張り切って砂漠わたろーぜー!」
朝から元気のいいアツシの声を聞き、ミルフィーユはまだ眠そうな顔で「アツシさん、テンション高いですね」と呟く。荷物を纏めて背負い直しながら、ミルフィーユは一つ大きな欠伸をした。
「なんだぁ? ミルフィーユはまだ寝ぼけてんのかぁ?」
欠伸をするミルフィーユの姿を目撃し、アツシは眉を寄せて彼にそう声をかける。するとミルフィーユは口を尖らせ、「寝ぼけてはいませんよ」と言い返した。
「ちょっと欠伸出ただけじゃないですか」
「ノンノン、ひっろーい砂漠を今日も一日ひたすら歩くんだから、そんな欠伸なんかしてちゃ途中でへばるぜぃ?」
「大丈夫ですよ、歩けますー」
ミルフィーユが少し怒ったように言葉を返すと、アツシは笑って「まぁ、もしぶっ倒れても、俺がちゃんとお姫様抱っこでお前を運んでやらぁ~」と言う。それを聞き、ミルフィーユは「死んでも倒れないぞ」と真剣そのものの表情で呟いた。
「ミルフィーユさん、寝不足?」
「ん?」
アツシとの会話を聞いていたのだろう、出発の為の準備を終えたリオが、少し心配そうな顔をしてミルフィーユの元へ駆けてきた。ミルフィーユは慌てて、「大丈夫だよ」と彼女へ言葉を返す。
「でも、昨日一日歩いて思ったんだけど……砂漠歩くのって本当に大変ですよね。無理はしないほうがいいですよ。なんだか眠そう……」
「はは、ありがとう。いや、本当に平気だから。ほら、まだ完全に目が覚めていないだけだと思う。それで思わず欠伸しちゃったというか」
「そうですか……」
ミルフィーユの説明に納得したのか、リオは笑顔で「ならよかったです」と言う。そうして彼女は両拳を握りしめ、決意溢れる瞳でミルフィーユを見上げた。
「じゃあ今日も砂漠越え、頑張りましょうね!」
「あ、うん……」
リオはそれだけ言うと、再び元いたソフィルアの側へと戻っていく。そんな彼女の後ろ姿を、ミルフィーユはぼんやりと見つめた。
「……」
何がまた、昨夜は大事な夢を見ていた気がする。
「……う~ん」
ミルフィーユは目を擦りながら、溜息と共に首を傾げて考える。
正直寝不足というよりも、昨夜何かまた気になる夢を見たような気がして、それが一体なんだったのかを先程からずっと考えていたので、そのせいでミルフィーユはずっとぼんやりしていたのだ。
しかしいくら考えても、具体的にどんな夢を見ていたのかどうしても思い出せない。断片的にすら思い出せず、ただ重要な内容の夢だったんじゃないかという感覚だけが、ミルフィーユの脳裏に浮かぶ。
(……やめた)
考え事している顔が「眠そう」に見えるようなので、ミルフィーユは首を軽く振って考えるのを止めることにした。どうせ考えても思い出せないのだ。
「それじゃみんな、いくぞー。忘れもんすんなよー」
今日の出発を告げるアツシの呼び声も聞こえたので、ミルフィーユは完全に思考を切り替えて歩きだした。
……………………………
彼は光の無い深淵の底で、目を閉じて歌っていた。
「崩れ行く世界 あなたの名を呼ぶ」
滑らかなアルトの歌声は、闇に消えてどこにも届くことはない。それでも彼は一人、幸せを祈る歌を歌い続けた。
「手を伸ばしても 届かないもの
わたしの声は あなたには伝わらないけれど」
唐突に歌声が止む。
彼――少年は暗闇の中、鮮やかな橙色の瞳を見開いた。
「……暇だな」
幼い唇からは、溜息と共に不満の声が漏れる。しかしそれを聞いてくれる者など、ここには一人もいない。少年はつまらなそうに目を細め、唇を尖らせた。
「早くミルフィーユ、彼女見つけてくれないかな~」
少年はそれだけ呟くと、再び目を閉じて歌を歌いだした。
「あなたの幸せを願う……」




