Remembrance.11
驚くミルフィーユの反応を不思議に思ったソフィルアは、「この前お前の連れの女にそう聞いたぞ」と言う。ミルフィーユは首を傾げ、「リコリスが?」と疑問を口にした。
「いや、俺達……っていうか、俺は別にパンドラは探してないよ。探し物はしてるけど、パンドラじゃなくて女の子を探しているんだ」
「女?」
「あぁ。マヤっていう、金髪碧眼の女の子だよ」
ミルフィーユが「歳は十代後半くらいの子で、髪型はショートカットの女の子なんだよ」と説明すると、ソフィルアは少し考えるように眉根を寄せて「そうか」と頷く。
「いや、そのリコリス……と言ったか? 彼女が『自分たちはパンドラを探して旅している』と先日教えてくれたので、てっきりそうだと思っていたのだ」
「う~ん……なんでリコリスはそんなこと言ったんだろう」
「さぁな」
ミルフィーユが首を傾げると、ソフィルアは「ただ嘘を言っていたようには思えなかったしな」と呟く。そうして彼は浅く息を吐き、「何か意図があったのかもしれん」と言葉を続けた。
「意図、か……なんだろうな」
ミルフィーユの視線が、自然とソフィルアのいる方向とは反対へ向く。
隣で毛布に包まり目を閉じるリコリスを、ミルフィーユは疑問の眼差しで見つめた。
「……そいつも不思議な奴だな」
リコリスを見つめていると、ソフィルアの唐突な呟きが聞こえる。ミルフィーユが顔を彼の方向へ向けると、ソフィルアもリコリスを見つめていた。
「この前、そのリコリスに色々と話を聞かれたのだが……何と言うか、彼女は独特の雰囲気を持っているな」
「あぁ……そう言われればそうだな。なんだろ、喋れないから他とは違うように感じる……とか?」
ソフィルアの言葉を受け、ミルフィーユは考えて言葉を返す。しかしソフィルアは「そうじゃなくて、存在そのものが他とは違うというか……」と言い、ミルフィーユの言葉を否定した。
「……上手くは言えんのだが」
「……」
ミルフィーユの視線が、再びリコリスへ向く。
確かに彼女が他の人とどこか違うというのは、ミルフィーユも常々感じていた。しかしそれはソフィルアも言葉に困るように、ミルフィーユもまた曖昧にそう感じるだけで、それが一体何なのか具体的な言葉には出来ない。
(リコリス、君は……)
リコリスの寝顔にすら感じる奇妙な感覚を一先ず忘れようと、ミルフィーユはソフィルアへと視線を戻して再び口を開いた。
「さっきリオとは昔からの知り合いだと言っていたが、旅に出る前までずっと一緒にいたってことか?」
「あぁ。彼女と共に俺は育ったから」
そう、ソフィルアは本当に今の今まで、リオとずっと一緒だった。その容姿のせいで村の子供たちの輪へと入っていけなかった幼い頃のソフィルアに、リオは笑顔で手を差し延べてくれた。彼女も彼女の家族も、ソフィルアをゲシュだという理由で差別などしなかった。
思えばいい出生ではなかった自分が特にひねくれずにここまで成長することが出来たのは、全ては育ての母親や彼女たち一家という恵まれた環境で育ったからなのだろう。差別が決して少なくないこの世界において、皆は魔物と人の子という悍ましい生まれ方をした自分を、同じ人間として扱ってくれたのだ。
「……化け物とそう変わらん俺とずっと一緒にいてくれた彼女には、とても感謝している」
「そうか……」
ソフィルアの静かな呟きに、ミルフィーユは目を細めて、優しげな表情で頷いた。
「……ん?」
不意にソフィルアは眉根を寄せて、なにかとても気になる小さな声を発する。それを聞き、ミルフィーユがすぐに「どうした?」と問い掛けた。
するとソフィルアは訝しげな表情を浮かべ、「あ、いや……」と曖昧な返事を返す。それっきりソフィルアは燃える炎を見つめたまま黙り込んでしまい、ミルフィーユは考え込む彼の横顔を眺めて不思議そうに首を捻った。
やがてソフィルアは突然「もうそろそろ、俺も寝る」と言って、毛布を被り直してその場へ無造作に横たわる。
「あ、そうだな。……おやすみ」
「……あぁ」
ミルフィーユが声をかけると、ソフィルアはどことなく上の空な感じの返事を返して、ミルフィーユに背を向けた。
「……」
しかし彼の桃色の瞳は、その後しばらく閉じられることはなかった。
自分は彼女とずっと一緒だった。それは紛れも無い事実。だが、改めて過去を考えるとどこかおかしい。
旅に出る直前、自分は何故か彼女と二人で暮らしていた。故郷ではない場所で、二人きりで。
その前は確かに、義理の母と共に暮らしていたのに。自分は一体いつ家を出て、そして彼女と二人暮しをするようになったのか。
なにか、理由があったような気がするが思い出せない。
まるで記憶が途中で切れ、そして適当なところで繋ぎ合わされたかのように、自分の記憶には不自然な空白がある気がする。
この違和感は一体、何なのだろうか。




