Remembrance.09
「はは、そうなのか。でも俺もそんなに喋るのが得意ってわけじゃないんだ。というか……う~ん、説明下手というか……」
「……そうか」
「あぁ。普段はアツシさんのノリでこう、色々と勢いで喋ってしまう時もあるけれど、でも基本的には俺も口が上手くないんだって最近かなり自覚しているんだよな」
ミルフィーユは焚火を見つめながら、少し自嘲気味に笑ってそう言葉を漏らす。それを聞き、ソフィルアは真顔で「あのアツシという男は、確かに騒がしい男だからな」と言った。
「そうなんだよ! まぁ、別に騒がしいのが嫌だってわけじゃないんだが、ただアツシさんの言葉に真面目に付き合っているとどうも少し疲れるっていうか……」
「あのようなノリは俺もあまり得意ではないな。……嫌いではないが」
焚火を挟んだ向こうで体を休めているアツシに視線を向け、ソフィルアは静かに呟く。彼の言葉にミルフィーユは苦笑しながら、「俺も嫌いじゃないんだが」と頷いた。
「ところでさ、ソフィルアって珍しい髪の色してるな。俺の銀とは違うよな……白だよな、それ。目の色も綺麗な桃色だし……何か珍しい種族とか、地方の出身なのか?」
「え?」
不意にミルフィーユの口から出た言葉に、ソフィルアは何故か少し動揺したような様子を見せる。ソフィルアは目を逸らし、突然険しい表情で俯いた。
「?」
ソフィルアの妙な反応に、ミルフィーユは訝しげに眉根を寄せる。そして彼は「どうした?」と、ソフィルアに問うた。
「……いや、今更それを聞かれるとは思わなかったから……驚いた」
「へ? い、今更?」
「お前、この髪の色と目の色のことを聞くならば、普通は出会った直後かその辺りで聞くものだぞ」
何故か少し怒ったような口調で、ソフィルアはそう言葉を返す。それを聞き、ミルフィーユは疑問の表情で「そ、そうなのか?」と言った。そのミルフィーユの反応にソフィルアは、今度は呆れたような溜息を吐く。
「普通俺のこの容姿を見た奴の反応は、大体二つに別れる。一つは珍しいと思いながらも、何も言わずに見てみぬふりをする者。もう一つは好奇心のまま、すぐにそれを指摘してくる者の二つだ。お前は……いや、なんでこんな今更、この髪色について聞いてきたんだ?」
「え……と、特に深い意味は無いんだが」
ソフィルアの問いに、ミルフィーユは困ったように口ごもり、そして考える。
「う~ん……ただ珍しいな~と思いつつも、聞く機会がなかったから聞かなかっただけかな」
「……それだけか?」
「それだけだが……ダメか?」
ミルフィーユが不安げな面持ちで小首を傾げると、ソフィルアはしばらく彼を注意深い眼差しで凝視した後、何故かまた深く溜息を吐く。
「な、なんで溜息?」
「……いや、お前は何だか変わっていると思って」
「え、えぇっ?」
真面目な顔で「変わっている」などと言われて、ミルフィーユは驚きと共に困惑する。「そうか?」と本気で困ったように呟く彼を見て、ソフィルアは小さく笑った。
「この容姿を珍しいと思いつつも見てみぬふりをするわけでもなく、気になったからと直ぐに問いただすわけでもなく……」
「だ、だってアツシさんやリコリスだって聞かなかったじゃないか! 二人とも特に気にした様子がなかったし、それで俺も何となく聞かずじまいだったんだよ!」
「……そういえばそうだな。お前たちは、こういうのを深く気にしない部類の人間なのだな」
ミルフィーユの言い分に、ソフィルアは微笑を口元に浮かべたまま、ぽつりとそう呟く。それに対しミルフィーユは、「まぁ、確かにそう特別気にするわけでもないかも」と正直に答えた。
「そうか。……なら、この容姿についてを正直に話せそうだ」
「ん?」
ソフィルアの意味深な発言に、ミルフィーユは改めて顔を上げて、彼を見つめる。
ソフィルアは桃色の瞳に赤い炎の色を映しながら、先のミルフィーユの問いに答える為その唇を開いた。
「俺は所謂……そう、ゲシュなんだ」
「ゲシュ?」
ソフィルアは炎を見つめたまま、深く頷く。
「魔族と人の混血……禁忌の存在、ゲシュだ」
「……」
予想だにしなかったソフィルアの告白に、ミルフィーユは言葉を失ってしまい、何も言えずただソフィルアを見つめた。そんなミルフィーユの困惑に気付いてか、ソフィルアは視線を彼の方向へ向けて微かに笑う。
「やはり驚いたか? まぁ、無理もないな。ゲシュは忌み嫌われる、異端の存在だ。……しかし、これを言ってもお前の顔に嫌悪の感情が見えないのは素直に嬉しい」
「え……」
ソフィルアの告白に少し混乱しつつも、ミルフィーユはただ困惑の表情で沈黙しただけで、確かにその顔にソフィルアを嫌悪するようなものは無い。
そもそも記憶喪失中のミルフィーユには、ゲシュというのが忌み嫌われる存在なのだという事がわからなかっただけなのだが、しかしそれでもゲシュという迫害の対象となっているソフィルアにとって、ただ驚くだけというミルフィーユの反応は安心出来るものだった。




