Remembrance.06
それに対しリオは、少し苦しげな様子を含めた顔を向けて、「まだ大丈夫」と答える。しかしミルフィーユの目には、とても大丈夫そうには見えなかった。
「本当に大丈夫か、リオ。なんだか足元が危ないが……」
「大丈夫だって! それに本当に危なくなったら倒れるだけだから、心配しないでください!」
「た、倒れるだけって……」
にっこりと精一杯の笑顔を返すリオに、ミルフィーユはやはり不安の眼差しを向ける。
まだ街を出て一時間も経ってはいないが、やはり女性の体力では、一面砂だらけで足場が悪く、さらに焼けるような日差しまでもが降り注ぐ砂漠を歩くのは少し大変なようだ。
ふとミルフィーユがリコリスに視線を向けると、彼女も無表情ではあるが、どこか辛そうな雰囲気を纏いながら俯き歩いていた。その足どりはやはりどこかふらついていて、見ていて心配になる。
「リコリスも大丈夫か?」
「……」
ミルフィーユの声を聞き、リコリスは陰欝とした顔を彼の方へ向ける。
ミルフィーユの心配そうな顔に、リコリスは小さく頷いた。
「……そう、か?」
よく見れば、リコリスはリオ以上に辛そうだ。この日差し強い中、汗一つかいていない彼女の顔も、なんだか異常に思える。
「り、リコリス……きつかったら、言っていいぞ? アツシさんに言って、休ませてもらうようにするし」
「んー? なんだリコちゃん、ヤバイかあ?」
ミルフィーユの言葉を耳にしたアツシが、後ろを振り返り手を振る。その手には前日まではなかった白い包帯が巻かれていたが、その理由を知るのはミルフィーユだけだ。ミルフィーユはその包帯を見ないようにしながら、「えぇ、だいぶ疲れてるみたいです」とアツシに言葉を返した。
「そうかー。まぁ女の子だもんな……しかししばらくはオアシスらしい場所もねぇから、ちょっと休むってことは出来ねぇんだよ」
「でも、フラフラしてますよ? リオも辛そうですし……」
「んー……じゃあオレが二人の荷物持ってやるから、もーちっと頑張ってくれぃ」
アツシはそう言って一旦立ち止まり、そして「ホレ」と言って手を差し出す。それを見て、ミルフィーユとリオが困惑した表情を浮かべた。
「あの……いいです。アツシさんも荷物あるじゃないですか」
リオが遠慮をすると、アツシは直ぐさま「あー、オレは平気よぉ」と笑顔を向ける。しかし実はミルフィーユたち三人の共通の荷物はアツシが持っている為、この中で一番多く荷物を持っているのはアツシなのだ。さすがにそんな彼へ「はいどうぞ」と荷物を預けることは出来なかったので、「いいですよアツシさん、荷物は俺が持ちます」とミルフィーユが代わりに手を上げた。
「なら、リオの荷物は俺が持とう」
「あら、ソフィー君もいいのかい? じゃあオレの出番無くなっちまうなぁ……そうだ、じゃあオレは二人が倒れた時におんぶしてやるぜぃ!」
ソフィルアもリオの荷物は自分が持つと手を上げると、アツシはふざけているのか本気なのかわからない態度でそんなことを言う。
ミルフィーユは呆れた顔で、「じゃあ俺が倒れたら、俺もお願いしますね」と言いながら、リコリスの荷物を受け取った。
「おーまかせろ! ミルフィーユくらい軽い軽い、なんならソフィルアも遠慮なくオレ様の広い背中を頼っていいぞー! あっはっはー!」
「え……あ、あぁ」
大声で笑いながら再び歩きだすアツシに、ソフィルアは困惑しきった表情を向ける。
何か真剣に悩んでいる様子のソフィルアを見て、すかさずミルフィーユが「本気にしないほうがいいよ、アツシさんは大概適当だから」と言葉を向けた。
「いちいちあの人の言葉を本気にしてたら疲れるよ。こっちも適当に流したほうがいい」
自分の経験から、ミルフィーユは何気に酷いことを、ソフィルアへアドバイスする。するとそれを聞き、ソフィルアはどこか安心したように「わかった」と頷いた。
「……あぁ。リオ、荷物を持とう」
「ん? ……え、いいよ。大丈夫だよ」
ソフィルアがリオに手を差し延べると、リオは苦笑しながら「平気だから」と答える。
しかしソフィルアは厳しい顔で「倒れてからでは遅いんだぞ」と言って、リオの持つ小さめの荷物袋を彼女の手から奪った。
「あ」
「いいからお前は歩くことに集中していろ」
「あ、うん……ごめんね」
素っ気ない物言いのソフィルアに、リオは申し訳なさそうな顔で謝る。ソフィルアは無表情に、「別に謝るようなことではない」と言葉を返した。
「それよりも、お前も疲れたらちゃんと言うんだぞ」
「うん、わかった」
リオの返事を聞き、ソフィルアは安心したような息を吐いて、再び前を向いて黙々と歩きだす。しかしリオはそんな彼を横目で、どこか淋しげに見つめた。




