Remembrance.03
「え!? リコリスが俺に?」
リオに押されたリコリスは、驚くミルフィーユを無表情に見上げる。そして彼女は腰のポーチをあさり、その中から小さな包みを取り出す。リコリスはそれを、やはり無表情にミルフィーユへと差し出した。
「え……あ、ありがとう」
ミルフィーユは呆けた顔をしたまま、彼女の差し出す包みを受け取る。
何故か妙にドキドキしながら、ミルフィーユはその包みを開けてみた。
「リコちゃんがミルフィーユさんの為にって、さっき近くの雑貨屋さんに寄って一生懸命選んだんですよー!」
「へぇ……なんだろうな」
リオの説明に自然と頬を緩めながら、ミルフィーユは包みを開けて中のものをゆっくりと取り出す。そして中のものを取り出して見た瞬間、期待に輝いていたミルフィーユの表情が凍った。
「え……」
包みの中から出てきたのは、掌サイズの小さな人形。ただし全身黒で、顔らしき部分に大きな一つ目がギョロっと刺繍されている。
一見するとこれは、呪いの人形にしか見えない。
「これは、なんだ……?」
恐怖に引き攣る顔で呪いの人形を見つめるミルフィーユに、リオは元気よく「この街の名産、魔よけのマスコットですよ!」と答えた。
「あぁ、魔よけ……なるほど、魔よけ……」
魔よけというよりも、むしろこの人形こそが魔そのものに見える。しかしリコリスがせっかくプレゼントしてくれたもののため、そんなこと口が裂けても言えない。
「あ、ありがとうリコリス。大切にするよ」
「……」
ミルフィーユが引き攣った笑顔で礼を述べると、リコリスは無表情ながらもどこか満足そうに頷く。これはますますこの呪いの人形を大切にしなくてはいけない雰囲気となり、ミルフィーユは心の中で「どうするか……」と悩んだ。
「リコちゃん、ミルフィーユさんのためにってすごく悩んでそれを選んだんですよ~。で、ミルフィーユさんに悪いこと起きないようにって魔よけのそれを選んだんです」
リオが笑顔で説明するが、これがまたミルフィーユを色々と追い詰める。
これはもう肌身離さず持っていなくてはいけないような気がしてきた。
「それにその人形、なんか小さくて可愛いですよね!」
「あ……そ、そうだな」
リオは人形が本気で可愛いと思っているらしく、「目がクリッとしているとことか、とくに可愛いです」とか言ってるが、どうしてもミルフィーユにはこれが可愛いとは思えない。
(もしかして、俺の感覚がおかしいのか?)
ミルフィーユは人形を手にしながら、なんとなく視線をソフィルアの方向へ向ける。
するとソフィルアは何故か一瞬慌てたような表情をし、小さな声で「お、俺は他にも色々可愛いものはあるぞ、とは言ったんだが……」とミルフィーユへ呟いた。
どうやら自分の感性は、一応普通らしい。ミルフィーユは何となく安心しつつも、しかし呪いの人形は受け取らざるをえないので、彼は苦笑混じりの笑顔で「じゃあ、肌身離さず持つことにするよ」と言って人形をポケットにしまった。
「それじゃあリコリス、それにリオとソフィルアもお昼過ぎには出発するみたいだから準備をしといてくれ。今度は大きな砂漠を渡るみたいだから、そういう準備もしっかりしておけとアツシさんが言っていた」
「あ、わかりました」
「わかった」
ソフィルアの指示に、リオとソフィルアが了解の意を示す。リコリスも小さく頷いて、ミルフィーユを見つめた。
「ミルフィーユさん、砂漠越えるって言ってたよね」
「そうみたいだな」
廊下でミルフィーユと別れた後、リオはソフィルアの部屋によって彼に預けていた分の荷物の整理を始める。
「砂漠だから、なんか日よけのマントとか被っていかないといけないね」
リオは大きめの背負い袋を開けながら、中から二着砂色のマントを取り出した。
「あったあった。よかったね、この前コレ買っておいて」
リオはそう言って、ソフィルアにマントを一着手渡す。ソフィルアは「あぁ」と頷いて、それを彼女から受け取った。
「それにしても砂漠かぁ……ボク、砂漠は歩いたことがないからちょっと不安だな」
リオは自分用のマントを畳みながら、そうぽつりと言葉を漏らす。すると自分の荷物を整理していたソフィルアが顔を上げ、彼女にとって意外な言葉を発した。
「なんだ、それでさっきから元気がなかったのか?」
「え?」
ソフィルアの予想外の言葉に、リオが驚いて彼を見つめる。
ソフィルアは自分の珍しい白髪を隠す為に帽子を被り直しつつ、こちらを見遣るリオに無表情を向けながら問いかけの続きを口にした。
「いや、俺の気のせいかもしれないが……昨夜ミルフィーユと酒場から帰ってきてから、少し元気が無いように見えたから」
「……」
リオが何も言えないでいると、ソフィルアは再び荷物を整理しだす。そして「この大陸は砂漠が多いから、それが不安で元気がなかったのか?」とリオにもう一度問うた。




