Remembrance.02
ミルフィーユの右手が剣から離れたことに、アツシは心から安心し安堵の息を吐く。そして彼は思い出したように顔を上げ、「あぁ、そういやリコちゃんは?」とミルフィーユへ問うた。
「リコリスなら今朝早くから、リオたちと街へ買い物へ行きましたよ。お昼前には戻ると、リオが言っていました」
「あーそう、リオちゃんと……リオちゃんっていやぁ、あの二人はどこへ行くんだろうな」
アツシはミルフィーユの言葉に、リオとソフィルアの二人のことを思い出して首を捻る。
それはミルフィーユも疑問だったらしく、「どうするんでしょうね、あの二人は」と呟きを漏らした。
「んー……この国をもう少し見て回るんなら、二人とはここでお別れだな。けど二人もこの国を出るってんなら、東に行く以外選択肢はないから……」
「でしたら、リオたちとはもう少し一緒ってことですかね」
「だなぁ」
アツシは地図を畳みながら、「リオちゃんたちが帰ってきたら聞いてみっか」と言う。ミルフィーユは、「そうですね」と頷いた。
「ところでミルフィーユ君」
「? なんですか?」
アツシが突然改まった態度で、真面目な顔をしてミルフィーユを呼ぶ。
ミルフィーユが不思議そうな顔をすると、アツシはそんなミルフィーユへこう口を開いた。
「あのさぁ、ちょっとオレ腹減ったんだぁ。後で金返すから、お前街でなんか食うもん買ってきてくんねぇ?」
「……」
ヘラッと笑うアツシを見て、ミルフィーユは無言で剣を鞘から抜いた。
………………………………
リオとソフィルア、そしてリコリスが街から戻ってきたのは、約束どおりお昼ちょっと前のことだった。
「あ、ミルフィーユさん!」
手に何やら大きな紙袋を抱えたソフィルアと、小さめの紙袋を抱えたリオが、リコリスと共に宿屋へと戻ってくる。そして偶然廊下で鉢合わせしたミルフィーユにリオが声をかけると、ミルフィーユは三人に「ああ、お帰り」と笑顔を向けた。しかしその手には何故か包帯と救急セットが握られていて、リオは疑問の表情を浮かべる。
「……ミルフィーユさん、そんなもの持ってどこか怪我でもしたんですか?」
心配そうなリオの視線が、ミルフィーユの手元の包帯その他へ注がれる。リオの言葉を聞いて、彼女の後ろにいたリコリスも少し身を乗り出してミルフィーユを見つめた。
「あ、これは……いや、これは俺じゃなくてアツシさんが……」
リオたちの心配そうな視線を受けて、ミルフィーユは何故か慌てた様子を見せる。すると彼が口走った言葉を聞き逃さなかったソフィルアが、訝しげな視線をミルフィーユへ向けて、「アツシ?」と呟いた。
「あぁ、ええっと……あ、アツシさんが何故か怪我しちゃって……はは」
「えぇっ! だ、大丈夫ですか?!」
リオが本気で心配したように、顔を青くさせてミルフィーユへ問う。
ミルフィーユは視線をさ迷わせ、「あ、うん……だ、大丈夫だよ」と歯切れ悪く言葉を返した。
「本当に平気なのか?」
「あ、あぁ。ちょっと我を忘れて剣で切り付けちゃったけど、ちゃんと反省して俺が手当したから」
「剣で切り付けたって……?」
「え!? あ、いや……な、なんでもない! 違う違う、うん、大丈夫だから!」
ソフィルアとリオが揃って疑問の視線を向けてくると、ミルフィーユは何故か必死に「本当、大丈夫だから! 生きてるし!」と訴えた。
「そう、それでさっきアツシさんと話してたんだけど、アツシさんが言うには今日のお昼過ぎにこの街を出て、隣のクロムレカという国へ向かうらしい」
ミルフィーユはリオたちを見て、「二人はどうするんだ?」と問いを続ける。するとソフィルアとリオは揃って顔を見合わせた。
「どうするのだ、リオ。俺はお前についていく」
「あ、うん……どうしようかな。じゃあ、ボクらもとりあえず一緒にクロムレカを目指していいですか?」
ソフィルアの言葉を聞いて、リオはそうミルフィーユへ言葉を返す。彼女の答えを聞いて、ミルフィーユは少し驚いた顔をしたが、しかしすぐ彼は笑顔を浮かべて「そうか、じゃあもうしばらくよろしく」と彼女らに頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。なんかついてってるみたいになってごめんなさい」
「いや、せっかく知り合えたんだから、長く一緒にいられるほうが俺も嬉しいよ」
苦笑いを浮かべるリオに対して、ミルフィーユは優しく微笑みを返す。すると彼のその笑顔を見た途端、リオの表情が悲しみの色に変わった。
「?」
リオの表情の変化にミルフィーユが不思議そうな顔をすると、ミルフィーユが何か言葉を発するよりも先に、リオが突然後ろを振り返って「あ、そういえばリコちゃん!」とリコリスへ声をかけた。
突然声をかけられてキョトンとするリコリスに、リオは満面の笑みを浮かべて「ねぇねぇ、ほらアレ!」と意味深なことを言う。しかしリオの言いたいことが理解出来ずリコリスが首を傾げると、リオは「だから、あれだよ! さっき買ったあれ、ミルフィーユさんにあげるんでしょ?」と言ってリコリスの体を前へ前へと押した。




