A requiem 03
「綺麗な歌だけど……何だか少し悲しくなる歌だよね。今日はお店もやっていないみたい。だからボクたち外部の人間にしたら暇だよ、この街。……どうもこの街の祭事みたいだし」
リオの淡々とした説明に、だからこの少女は自分たちに声をかけてきたのかと、ミルフィーユは納得した。
確かにこうずっと歌われては、この街の祭なんて知らない自分たちにしたら少し暇だし、ちょっと不気味な感じさえする。
何だかタイミングの悪い時に来たか?ともミルフィーユは思ったが、しかし冷静に考えると別に自分はこの街に行く行かないを選択出来る状態でもなかったなと考え直す。
店はやっていないとのことだったが、せめて宿屋くらいはやっていてほしいと思いながら、ミルフィーユはついでにリオへと問い掛けた。
「リオだっけか……その、さっきから言う"鎮魂祭"ってのは何だ?」
「あっ」と小さく声を上げて、リオはミルフィーユを見返した。
「そうだね、忘れてた。ボクも昨日聞いたんだけどさ、"鎮魂祭"ってのは……」
リオはミルフィーユを真っ直ぐ見ながら、一度言葉を切った。
”貴女は紡ぐ”
”くちづけだけでは嘘になる言葉を”
「……聖女の魂を……弔う為の祭なんだって」
少し淋しげな笑みを浮かべて、リオは答えた。
「聖女……?」
「アリア様だよ」
当たり前のようにリオが口にする"聖女"、そして"アリア"という単語。ミルフィーユにとってはやはり、聞いたことのないものだ。
(また新単語か……)
ミルフィーユは眉根を寄せて悩む。ちらっと隣のリコリスに、何となく助けを求めようと見るも、彼女はじっと俯いているだけだった。
しかし気のせいだろうかと、ミルフィーユはよくよく彼女を見遣る。
何故か彼女は、俯きながらも険しい瞳をリオに向けているように見えた。殆ど前髪に隠れて顔が見えないのだが。
「?」
そんな彼女を不思議に思っていると、リオが独り言のように語り出す。
「聖女アリア……このリ・ディールに、希望の光を与えた女性」
「アリア……」
「今日は、アリア様がお亡くなりになって、ちょうど100年目の日なんだ……命日なんだよ」
「それでその……"鎮魂祭"ってのをやってるのか」
「うん、そうみたい。元々このリスティンが、結構聖女様を信仰する国家って事情もあるしね。だから聖女様が亡くなったとされる今日、彼女の魂を弔うという意味で毎年、"鎮魂祭"っていうのをやっているんだって」
「……なるほど」
ミルフィーユはそう言って静かに頷いた。
「アリアか……よくわからんが、神みたいなものか」
無意識にミルフィーユの口から"神"という単語が出ていた。
言葉にして初めてミルフィーユは"神"という言葉と、その意味を自分が知っていることに気がつく。
そして"神"という言葉に、ミルフィーユは何とも言いようのない感覚を覚える。自分でもうまく言葉に出来ないが、無理矢理にでもこの胸中の感覚を言葉にするならば、『懐かしい』ようなそんな不思議な感覚。
「……?」
デジャヴのようなその感覚に、ミルフィーユは人知れず首を傾げた。だがそれも直ぐに、目を丸くしたリオの声に意識が奪われて忘れてしまう。
「ミルフィーユさんはもしかして、神様信仰派?」
「ん?」
ミルフィーユは、何故か興味深そうに自分を見つめるリオに「どういう意味だ?」と、率直に疑問を返した。するとリオは困ったような笑みを浮かべる。
「どうって……ただ何となく聞いただけだよ。神様信仰派って珍しいから。だってほら、このリ・ディールを衰退に追いやったのは、"神"だって一般的には信じられているでしょ?」
「……そうなのか?」
「そうだよ。だってもう常識でしょ」
"神"がこの世界を衰退に追いやった、というのも初耳なミルフィーユ。問い返す彼に、リオは不思議そうに首を傾げながら頷いた。
「……あぁ、まあ」
リオの言葉に、曖昧に頷く事しか出来ないミルフィーユは、それ以上この話題について問うのを止める事にした。
目を丸くして首を傾げるリオの視線が気まずく、これ以上余計な事を言ったらややこしい事になりそうな気がしたからだ。
いや、確実になる。