Life and death 09
しかしこのままうなだれ続けても仕方ない。
ミルフィーユは決意新たな表情で顔を上げ、もう一度店内をよく見渡す。
これだけ人がいるならば、一人くらいミルフィーユでも声をかけられそうな人相をした人がいたっておかしくない。
珍しくポジティブ思考で「よし!」と小さく呟きながら、ミルフィーユは人の良さそうな客の姿を探した。
すると、ちょうどカウンター席の奥のほうで一人、まさしく"人の良さそう"な顔をした男が酒を飲んでいた。
優しげな風貌に、そんなに屈強ではないいたって普通の体格を持つその男の姿は、まさに消極的な自分でも安心して声をかけられそうな人物だと、ミルフィーユは表情を明るくさせる。さらに雰囲気も暗くなく、彼からは一人気ままに酒を飲んでいるといった様子が伺える。
以上の点から「もう彼しかいない!」と心に決めたミルフィーユは、明るい表情のままカウンター奥を指差して、リオに「あの人に聞いてみよう!」と言った。
「あ、あのカウンターの奥の方に座ってる男の人ですか?」
ミルフィーユの指差す先を見つめ、リオは確認の為に問い掛ける。
ミルフィーユが「そうだ」と頷くと、リオも「いいんじゃないですか」と微笑んだ。
「ここの人たちみんな怖そうな人たちばかりで、声かけずらそうだな~って思ってたんですけど……あの人なら怖そうじゃなくて安心して声かけられそうです」
どうやらリオも周囲の人々の雰囲気が、"怖い"と思っていたらしい。
彼女のその返事を聞いて、ミルフィーユはますます気合い入った様子で力強く頷いた。
「そうか、リオもそう思うのなら……やっぱりあの人しかいないな!」
「うん。それじゃあ、聞きに行きましょう」
「あぁ」
リオに背を押されたこともあり、ミルフィーユは些か前向きな姿勢でカウンター奥へと向かう。
「あのー……す、すいません」
「ん?」
突然背後から声をかけられ、カウンター奥で一人黙々と酒を煽っていた男は、切れ長気味の瞳に疑問の色を浮かべて振り返った。
「なんだい? 何か用かな」
ミルフィーユが恐る恐る声をかけると、男は訝しがる様子もなく、むしろ友好的な微笑を口元に浮かべてミルフィーユの顔を見返す。
どうやら男は外見や雰囲気どおり、気さくで人あたりが良い性格の人物らしい。
ミルフィーユは本格的に安心し、ホッと胸を撫で下ろした。
「あ、あのですね……少し聞きたいことがあるんですが……」
柔らかそうな橙色のくせっ毛が特徴的な男は、見た目から30代前半ぐらいの歳を連想させる。
そういう理由と、そして男の優しそうな人柄に逆に緊張したミルフィーユは、自然とかしこまった敬語調で男へ語りかける。
しかし、やはり男は気さくな性格らしく、彼は「そんなにかしこまらなくていいよ」と笑いながらミルフィーユらに自分の隣の空席をすすめた。
「あ、どうも……」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、ミルフィーユとリオもカウンター席へ腰を下ろす。
そしてミルフィーユたちがちょうど席に座ったタイミングで、男が二人へ笑顔を向けて自己紹介を始めた。
「はじめまして、僕はローヴェ。ご覧のとおり、気ままな一人旅をしている者だよ」
ローヴェと名乗った男は、マントを羽織った自分の恰好と小さな手荷物をミルフィーユたちに見せる。
「あ、俺はミルフィーユ。こっちは……」
「リオです」
「そう、リオで……えと、お、俺たちも旅人……かな?」
まだ自分の職業というものがよくわからないらしいミルフィーユは、疑問系で自己紹介をしてみせる。
するとそんなミルフィーユの様子に、ローヴェは可笑しそうに笑った。
「ははは、何だかミルフィーユさんは面白い人だなぁ」
「……」
いきなり"面白い人"と言われ、ミルフィーユは複雑な心境で黙り込む。
(俺、何か面白いことでも言ったか? ……わからないな。今のはどこが笑うポイントだったんだ?)
「? どうしたミルフィーユさん、急に黙り込んで」
笑いのポイントについてを真剣に考えていたミルフィーユは、ローヴェに声をかけられて我に返る。彼は慌てて、「なんでもないです!」と答えた。




