A requiem 02
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Main Continent VODA.
States of MARX.
Town of LISTIN.
マルクス国 リスティンの街
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”ここは神に 見捨てられた楽園”
”慈悲も無い 救済も無い 愛も無い”
その街は人々の歌声で溢れていた。
歌声はどうやらこの街から聞こえてきたようだった。
けれどもそれは先に聞こえてきたように、決して心踊るような歌声ではない。
まるで死者を弔うような、哀惜と悲哀を込めた音の旋律。
街中の人々が不思議とそれぞれ白の衣服を身に纏い、そして皆何かの儀式のように、胸元や髪に同色の薔薇を飾っていた。
そうして、彼らは皆揃って静かな音と詞を紡ぐ。
「……何だ?」
街を目指して西へと向かったが、歌声に誘われるような形になってしまった訪問。リ・ディール最大の大陸、その西端部に位置する大自然に恵まれたここは、リスティンの街。
ミルフィーユは街の煉瓦の門を潜りながら、不思議な恰好で歌う住人たちを不可解そうに見つめた。少し遅れて来たリコリスは、ほんの僅かに下向き加減で門をくぐる。そうして、唖然と街を見つめ眺めるミルフィーユについていった。
綺麗な街だった。淡い灰白色の煉瓦で造られた建物が、等間隔に列んでいる。屋根の色は黒が多く、他にもパールグレーや濃紺色等あったが、ミルフィーユの印象としてはモノトーンな色の街だ…と感じた。
住人が何故か皆、白い服を身にまとっているのも影響しているだろう。
”たった一人 貴女だけが楽園の使者”
「……お兄さんたち、旅人さん……だね?」
「え?」
歌声とは別の声に、ミルフィーユは反応する。きょろきょろと辺りを見渡すと、隣のリコリスが彼の服の裾を引っ張って、後ろを指差した。
リコリスが指差した先には、煌めく青銀の髪が目立つ小柄な少女の姿。ミルフィーユとリコリスに向けて、少女はにっこりと愛らしい笑みを浮かべていた。
「驚いた?今このリスティンは、"鎮魂祭"の真っ最中だから…こうして住人は皆、歌ってるんだ」
ミルフィーユと同じアメジスト色の大きな瞳を持つ可憐な少女は、街中を軽く見渡しながら告げる。少し短めの青銀髪が楽しげに揺らいだ。
何故か親しげな少女の様子に、どちらかというと社交的ではないミルフィーユは反応の仕方がわからず、ただ呆然としていた。リコリスは少し俯き加減のままに、長い前髪で表情を隠すようにしている。
それでも髪の隙間から、観察するように無感情な瞳を向けていた。
二人のそんな様子と反応に、少女はハッと何かに気付いたようで
「あ、ごめんなさい。ボクはリオっていいます」
そう言って丁寧にお辞儀をした。今だ戸惑うミルフィーユに、リオは何だか楽しそうに笑う。
「えーっと、お兄さんとお姉さんは?」
「ん?……あ、あぁ。俺は……ミルフィーユ」
リオに名を問われ、ミルフィーユも慌てて自身の名を名乗った。
しかしリオの視線が、隣のリコリスに向けられているのを見て「あ……こっちはリコリスだ」と、今だ俯き加減でいるリコリスも紹介する。
ぎこちない態度のミルフィーユに、全く愛想の無いリコリス。しかしリオは彼等の様子を気にする事なく微笑んだ。
「ミルフィーユさんに、リコリスさんだね」
静かで盛大な歌声が響く中、「宜しく」とリオは二人へ告げた。
何が「宜しく」なのかさっぱり解らないミルフィーユは、曖昧に頷く。リコリスはやはり、無反応を通した。
気にすることなくリオは更に続ける。
「ミルフィーユさん達、ちょうど"鎮魂祭"の時に来たからびっくりしたでしょ? 実はボクもこの街には2日くらい前に来たんだケド……」
「君も旅人か?」
会話を中断してのミルフィーユの疑問に、リオは「まぁそんなものかな?」と答えた。
「この街の人たち、今朝からずっとこんな感じで歌ってるんだ」
今朝からずっと……という言葉に、ミルフィーユは驚く。