A wish 20
物凄く頭が痛かった。
ガンガンと、鈍器で軽く殴られ続けるような痛みが俺を襲う。
気分もすごぶるく悪かった。
きっとあの腐った臭いをずっと嗅いでいたせいだろう。
最悪だ。それ以外の言葉が出ない。
『……さん、……きて』
体が重い。
まるで自分の体じゃないみたいに、体がいうことをきかない。
『……ユさん、……きてってば』
頭は痛いし、気分は悪いし、おまけに動けない……俺は一体どうなってしまったのだろうか。
もしかして、死んだ?
『……ルフィーユさん!』
死んだにしても、なんでもっと楽じゃないんだろう。
死んだのなら頭痛とか体調不良とか、そういうの無しにしてくれたって……
『起きてってばぁっ!』
「っ!?」
目を開けた途端その視界に飛び込んできたものは、薄い青銀色の眩しい光りと、少女の泣きそうに歪んだ表情だった。
「……え? あ、俺……」
「や、やっと起きてくれた……ミルフィーユさん、死んじゃったかと思ったぁ~……」
仰向けの状態で意識が覚醒したミルフィーユに、リオはほとんど泣いた状態で「よかったよぉ」と言葉を繰り返し抱き着く。
「うわっ!」
「ぜ、全然目覚めて、ひっく、くれないからっ……し、心配……ふぇ~ん!」
リオはポロポロと涙を零しながら、抱き着かれて動揺するミルフィーユなど一切お構いなしで、彼に引っ付いて泣き続けた。
「おいおいリオちゃん、そりゃ大袈裟だぜ。さっきから言ってただろ? ミルフィーユは気ぃ失ってるだけだって」
「うぅ……で、でもぉ……」
アツシの声が聞こえ、ミルフィーユはリオに抱き着かれたままゆっくりと体を起こす。
そして周囲を見渡し、自分のすぐ近くに自分を囲むようにして立つアツシ、リコリス、ソフィルアの姿を見つけた。
「ようミルフィーユ、気分はどうよ?」
最初に目が合ったのは、自分の右隣りで妙な笑顔を向けて立つアツシ。
「……え……ちょっと頭が痛いですけど、後は……はい」
アツシはミルフィーユの返答に、「そうか」と言って安心したように笑った。
「とりあえず大丈夫そうだな」
「っていうか、ここは……?」
アツシを見上げるついでに、ミルフィーユの瞳は突き抜けるような晴天の青い空を見遣る。ということは、ここは先程までいた地下世界ではなく、外ということだろう。
いつの間に外に出たのかさっぱりわからず、ミルフィーユは困惑した表情でアツシを見上げた。
するとアツシはミルフィーユの困惑を直ぐに察して、「あー、ここ?」と言いながら頭を掻く。
「ここは外。ほら、そこにさっきの遺跡があんだろ?」
アツシはそういうと、自分の背後を振り返って指差す。するとアツシが示した先20メートルほどの所に、確かに先程まで自分たちが中にいた白く古びた巨大遺跡が存在していた。
「……」
それでも、それを見たからと言ってミルフィーユが今感じている疑問の全てが解決するわけではない。
勿論それを理解したうえで、アツシは言葉を続けた。
「なーんていうかなー。結論から言やぁオレたち、さっきの巨大グロテスク植物に見事勝利を果たし、そして地上っつーか外に戻ってきました~……って感じかな」
「……え?」
ミルフィーユが気を失っている間に、一体何があったのか。それを思い、彼は「一体なんで……」と困惑を問うた。
するとアツシは何故か苦笑いを口元に浮かべて、少々言いずらそうに言葉を濁す。
「うーん、ぶっちゃけると勝利したっつーか、なんつーか……ぬぅ~……」
「?」
曖昧な態度をとりだしたアツシに、ミルフィーユは首を捻る。
「何なんですか? 一体誰があんな化け物を……」
「それが……ボクも途中まで気を失っていたから詳しくは知らないんだけど、ソフィーが言うには突然あの部屋が真っ暗になったと思ったら、どこからともなく大量の青い炎が発生してあの植物を焼き払っちゃったんだって」
いつの間にか泣き止んでいたリオが、ミルフィーユを解放しながらアツシの代わりに説明を始めた。
「それでね、危うくボクたちも炎に巻き込まれかけたんだけど、その前にアツシさんがボクらを救出してくれて、それで気を失っていたミルフィーユさんはアツシさんが抱えて、あの部屋から皆急いで脱出してきたんだ」
「炎が……」
リオは自分でもまだ何が何だかわからないらしく、説明しつつも「不思議だよね」と首をしきりに傾げる。
「大体青い炎って、一体どこから発生したんだろー?」
「まぁまぁ、とりあえず今は皆助かったんだしそれでいいんじゃねぇの? ……ミルフィーユ、立てるか?」
アツシが会話に割って入り、座り込むミルフィーユへ右手を差し出す。
ミルフィーユは「あ、はい」と頷きながら、彼の手を借りて立ち上がった。
「……ミルフィーユ」
「はい?」
すると、立ち上がると同時に近くて立ち尽くしていたソフィルアが、ミルフィーユへ話し掛けてくる。
「さっきは悪かったな。わざわざ俺たちを助けようとして、あの植物へ突っ込んでいったと聞いた……」
「あぁ……」
先程の事態を思い出しながらミルフィーユが考えていると、ソフィルアは不器用な微笑みを顔へ浮かべてみせた。
「だからそのだな……ありがとう」
照れ臭いのか慣れていないのか、ソフィルアは段々と小さくなる声でミルフィーユへと礼を述べ、彼へ律義に頭を下げた。
「あ、いいですよ! そんな……こちらこそたいして役に立たず……うん」
ソフィルアの行動に、ミルフィーユも恐縮したように何故か頭を下げ始める。それを見ていたリオは思わず吹き出し、「二人して頭下げあって変だよぉ」と笑った。
「……って、ボクもミルフィーユさんと謝り合戦したんだった。人の事笑える立場じゃなかったね」
「は、はは……」
もっと笑える立場ではないミルフィーユは、とりあえず苦笑いを浮かべておいた。




