A wish 16
「もしかして俺たち、本当にこのまま戻れないんじゃあ……!」
「落ち着いて、ミルフィーユさん。大丈夫だよ、分かれ道の所にはソフィーが行く方向へ目印を付けて進んできたから……だから、帰りは目印を頼りに戻ればいいと思うよ」
「え?」
珍しく取り乱すミルフィーユに、リオはにっこりと微笑みながら落ち着いた口調でもう一度「大丈夫」と言った。
「……一度戻った分かれ道も、それがわかるように目印を付けてきた。だからそれを見たら、おそらく戻れるだろう」
ソフィルアも説明の為に口を開き、彼はいつの間に持っていたのか、右手に持った白いチョークをミルフィーユへ向けて掲げて見せる。
「わ、本当だ。……いつの間に」
「ボクらも、こう見えても冒険者だからね! こういう事は準備もしてあるし、ある程度は慣れているよ」
「冒険者か……にしては二人とも、武器らしいもんの類いは持ってねぇよな」
リオの言葉に、アツシは先程から少々気になっていたことを問う。するとリオは「あ、武器か……」と、何故か微妙な表情を浮かべて呟いた。
「ソフィーはこう見えても、武器無しで魔物をガンガン倒しちゃう、強い格闘術の達人なんだよ!」
「こう見えても……、か」
「あ、ごめんねソフィー」
リオの説明が少々引っ掛かったソフィルアだったが、すぐに彼女が素直に謝ると、それ以上は何も言わずに再び黙する。
「あぁなるほど、だから彼は武器っぽいもんが無いのか。……で、リオちゃんは?」
「ぼ、ボクは……恥ずかしながら、武器とかはちょっと……」
リオは恥ずかしそうに苦笑いを浮かべると、「だから戦いでは、いつもソフィーの足手まといなんだ……」と、少々自虐気味に呟いた。
「そんなことは……お前の分、俺が頑張る」
「はは……うん、ありがとソフィー……」
ソフィルアはリオを気遣う言葉を彼女へ向けるも、しかし自分が戦えないということに相当なコンプレックスを持っているのか、リオは微妙な表情のままうなだれる。
「はぁ……でもさ、やっぱり剣とか持ちたいなー……かっこよさそう」
「や、止めておけ! お前が剣を振り回して手が滑って、俺の足元に天に舞い上がった剣が突き刺さるように落ちたあの日のことを忘れたのか!」
リオの呟きを聞き、ソフィルアが本気で怯えたような表情を見せる。
先程から仏頂面が多かった彼がここまで怯えているので、おそらく彼女が剣を振り回した時の事件というのは、彼にとって相当怖いトラウマ恐怖体験だったらしい。
「あ、あれ……あれは少しミスしたっていうか……」
「少しのミスだと!? 少しのミスで俺は死ぬかと思ったんだぞ!」
「おぉ、ソフィーが珍しくマジだ! う、うん、じゃあやっぱり止めときます」
必死でリオを止めるソフィルアの姿に、リオは彼の本気を感じ取ってかすぐに武器を持つことを諦めた。
「そうだな、女の子は別に無理して武器持たなくてもいいとオレは思うぞー」
「そ、そう……?」
「あぁ。そういやリコちゃんも武器持ってないもんなー」
アツシはミルフィーユの後ろをトコトコついて歩くリコリスへ視線を向けて、「だよなぁ、リコちゃん」と彼女へ声をかける。
リコリスは僅かに顔を上げて、アツシの言葉に頷いた。
「あ、リコリスさんもそうなんだ!」
「そのかわりリコちゃんは、時々爆弾取り出したりするから色々危険だけどなー」
「ば、爆弾!」
基本的に説明不足なアツシの台詞は、リオに何やら大きい勘違いとちょっとした恐怖を与える結果となる。
「リ、リコリスさんって一体何者なんですか?」
「ん? いんやぁ、ふつーの女の子さぁ」
「……」
恐る恐る視線を合わせるリオに、目が合ったリコリスは、あのぼんやりとした眼差しを向けたまま、とりあえず頷いてみせた。
「……っと、話していたらいつの間にかなんとも怪しいところに着いたな」
その言葉と共に突然足を止めたアツシに、彼の後ろを歩いていたミルフィーユたちも次々と足を止める。
「なんですかね、この妙に大きな扉は……」
アツシと、そしてリオが持つランプの明かりに照らされて、その巨大な扉は彼らの瞳に映る。
その扉は彼らの中で一番背が高いアツシの背丈を軽く上回る高さを持ち、引き戸タイプとなっているそれは勿論横幅も広い。
そして扉に塗られた白い塗料はほとんど剥がれ落ち、塗料が剥がれた表面からは赤黒い錆が不気味に覗き見えていた。
「な、なんか嫌な見た目……怖いっていうか、不気味っていうか……」
少々腰が引ける様子で、リオは不安げに呟く。
おそらく硬くて丈夫な鋼鉄で出来ていると思う厳重なその扉に、とりあえず先頭に立つアツシが手をかけて開けようと動く。
しかし長い間ずっと放っておかれた施設なために、扉は鍵や鎖は無くとも強く錆び付いていて簡単には開かなかった。
「んんっ……! けっこー力がいるな、こりゃあ」
「なら俺も手伝います」
「……俺も」
アツシが苦戦しているのを見て、ミルフィーユとソフィルアの二人も彼を手伝う。
すると錆び付いた鉄の扉はそのうち、耳障りな金属音を奏でながら、徐々にではあったが動き出した。
「だ、大丈夫?」
「あぁ……っと、少しっ!」
リオの心配そうな声にアツシは返事をした後、「うらぁっ!」と気合いを叫んだ彼は、二人と共に一気にけりをつける。
扉はまるで鉄を削るような激しい音をたてて、大きく開け放たれた。




