A wish 15
「おっといけねぇ、またうっかり話しこんじまったな」
アツシはミルフィーユの"事情"を詳しく知らないリオとソフィルアに向けて、「わりぃわりぃ」と言って軽く手をあげてみせる。
しかし彼らにミルフィーユの事を一から説明する気はないらしく、彼はそれ以上先程の話については触れなかった。
「えぇと、それでリオちゃんたちが調べた感じじゃここは……」
「うん、魔法関係の実験と研究を行う施設だったんだと思う。それに他の研究は、全部とは言わないけどほとんどはその魔法関係の研究を隠す、カモフラージュだったとも思うんだ。魔法関係の実験や研究資料に、それらを隠すような細工がいくつか見られたから」
「ふーん。じゃあ魔法の研究などについては、それらを行っているとは知られたくなかったってわけか」
「でも、じゃあなんで知られたくなかったんでしょうか?」
ミルフィーユが疑問を言葉にすると、アツシも「そうだなぁ」と言って眉をひそめる。
「魔法の研究なんてのは特に禁止されちゃいねぇし、それこそ興味あるやつは一般人だって行ってることだ。わざわざ隠す必要ないよな」
「となると、怪しいのはやっぱり実験のほうじゃないかな」
「……だな」
リオの言葉に、アツシは堅い表情で頷いた。
「この国の法律にゃ詳しくないが、多分違法な実験を色々やってたんだろうな」
「……」
その違法な実験の一部が、先程ミルフィーユたちが地下部屋で見た"アレ"だろう。
それを思い出し、ミルフィーユは沈痛な面持ちで目を伏せた。
「あー……でもここが本当に"そういう"目的で作られた施設だったってんなら、オレが聞いた『未知の薬草やらなんやらがある』って噂はガセだったんかなー……」
「へー、そんな噂があったんですか。でも、やっぱりそういうのは実際自分の目で隅々まで観察してからじゃないと、真実はわからないし結論付けられないから……そう結論を出してしまうのはまだ早いとボクは思いますよ」
少々残念そうに肩を落とすアツシに、リオは励ますような笑みを浮かべてみせる。
「ボクは気になる噂話とかは、実際自分の目で確認しないと気が済まない質なんです。そうやってボク自身がよーく確認して、その結果真実だったものだけをボクは信じる。アツシさんも、この中を隅々まで調べた訳じゃないなら、隅々まで調べてみましょうよ! 今はまだ可能性でしかない噂ですが、もしかしたらってことも多くあります。未知の薬草が魔法植物だって可能性も……だから、ね!」
「……う~ん。そうだな、そう言われるとなんかやる気が復活してきたぜ!」
リオの励ましのおかげか、やる気を取り戻したアツシ。
彼の素早い気持ちの切り替えに、見ていたミルフィーユは呆気にとられたような顔をしていた。
「よし、ならばさっさとこの怪しい地下空間を制覇して、何が何でも未知なるお宝を手に入れてやるぜ!」
「あれ? 薬草が目的だったんじゃ……」
「薬草も勿論目的に入ってるぜ? しかしオレは気付いたんだよ、どうせなら目標は高く広く持つべきだってな!」
「……よくわからない」
正直に意見を述べるミルフィーユに対して、アツシは唇を尖らせて「わかれよぅ、気合いとかなんかそんなんでさぁ」と子供のようにぼやく。
「まぁまぁ、とりあえずもう少し進んでみようよ! 幸いなことに、ここって魔物が出る雰囲気も無いようだし」
二人を宥めようとするリオは、苦笑いを浮かべながらそう言った。すると彼女の隣で延々黙し、ほぼ全員の会話を聞くのみだったソフィルアが、険しい表情を浮かべながら静かな呟きを漏らす。
「……しかし、嫌な雰囲気はある」
「……」
硬質な声音で呟かれたその言葉は、その場にいる全員に彼が感じた不安を同じに感じさせる効果があった。
確かに、誰もが薄々感じていた。この空間の不気味さ、いい知れない不安の圧力に。
しかしその不安の影を打ち消すように、アツシは力強い声で前進を促す台詞を吐く。
「行こうぜ」
一抹の不安を抱えつつも、彼らは更なる闇の奥深くへ向けて歩きだした。
ほとんど一本道だった地下空間も、しばらく歩くと途中でいくつかの分岐点が現れ始め、アツシたちはとりあえず適当な方向へ向かって奥へ奥へと進み続ける。
その途中、行き止まりがあれば来た道を引き返し、分岐の別方向へ進みなどを繰り返し、気がつくと彼らは遺跡のだいぶ奥へと進んでいた。
「ねぇアツシさん、これすごく奥深くまで来たと思いますけど……帰り道はわかるんですよね?」
何度も何度も分岐点を行ったり来たりしていたおかげで、もう自分が今どこにいるのかさっぱりわからなくなったミルフィーユが、不安げな表情を浮かべてアツシへと問う。
するとアツシは「大丈夫だって」と明るく言い、彼はランプを持った手とは逆の手で自分の頭を指差した。
「今まで通った道は全部、この天才頭脳にばっちり記憶されてっからな!」
アツシの自信に充ち溢れたこの一言を聞いて、ミルフィーユの顔色は一気に蒼白へと変わる。
「お、終わりだ……もう戻れない……」
ミルフィーユはまるでこの世の終わりのような顔で、絶望したようにそう呟いた。それを聞いたアツシは、やはり心外そうに頬を膨らます。
「な、何だとミルフィーユ! お前、オレの記憶力の凄さなめんなよぅ!」
「無理、絶対無理だ! アツシさんの記憶力になんて頼れるわけがない!」
「はぁ! おいミルフィーユ、そりゃねぇよ!」
アツシの自信を全力で否定するミルフィーユは、絶望から一変して今度はひどく慌てた様子で「どうしよう!」と暗闇に叫んだ。




