A wish 11
「……本当か?」
「ほ、ホント! ホントだよ!」
リオは何度も首を縦に振り、ミルフィーユを説得させるように強く肯定してみせる。
「し、信じてくれないかなぁ?」
不安げに眼差しを揺らし、リオはミルフィーユの持つ紫電の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「べ、別に信じないとは言ってない……」
リオのその眼差しに、ミルフィーユは物凄く困ったようにたじろぐ。
「それにその、これは信じる信じないの話じゃない気がするし……」
「……」
「……あー、何て言うか俺もよくわからなくなってきた」
口下手過ぎる自分は、こんな時でもやはり上手く言葉が出てこないんだなと、ミルフィーユは疲れたように深いため息を吐き出した。
「いや、こっちこそ変に疑って悪かったよ。すまない」
どうやらリオたちに悪意は無いようだし、それなのに自分のはやとちりで彼女らに剣を向けてしまったようなのだ。だからそのことに対しては素直に謝罪しておこうと、ミルフィーユは剣をしまいながら頭を下げた。
「え、あ、いえ、こっちこそごめんなさい! そんな、ミルフィーユさんが頭下げなくても……むしろボクらがまぎらわしいことしたのが原因だしっ!」
ミルフィーユの素直な謝罪に対し、こちらも生真面目が基本な少女は、申し訳なさそうにペコペコと何度も頭を下げる。
「ホントにごめんなさい!」
「あ、だからって君がそんなに謝らなくても……俺だって悪いんだし」
「でもでも……っ!」
「いや、だからさ……」
やがてミルフィーユとリオの止まらない謝り合戦を見兼ねて、二人を止めるべく呆れた表情のアツシが大きな咳ばらいをしながら動き出した。
「オイオイ、お前らそんなに頭下げ合って楽しいか? いいから謝り合いはそれくらいにしとけって、な?」
「あぅ……」
「アツシさん……」
実は二人も自分たちでは収拾がつかなくなり、どうしていいのかわからなくなっていたらしい。
「な、なんだよ二人共、そんな困った子犬みてぇな目でオレを見ないでくれ」
アツシに止められた二人は安心したように、同時に安堵の息を吐いた。
「で、リオちゃん……だっけ?」
「あ、はい」
「さっき君らもこの遺跡に用があるって言ってたよな?」
「えぇと……はい……」
「ならさぁ、君らもオレらと一緒にこの遺跡探険しちゃう?」
「え……?」
アツシの突然の提案に、リオはパチクリと大きな瞳を瞬きさせる。
「アツシさん?」
ミルフィーユも少々不思議そうな顔をして首を傾げると、アツシは優しい笑みを浮かべながらこう口を開いた。
「だってどうせ行くとこ同じなんだろ? ここって一本道みてぇだし。だったら一緒に探険しよーぜ。人数は多けりゃ多いほど楽しいってもんよ!」
「は、はぁ……」
アツシの豪快な笑いとノリに、リオは呆気に取られつつ勢いで頷いてしまう。
「お! リオちゃん頷いたってことはオッケーってことか?」
「へ?! あ、はい、ボクは別に構わないですけど……むしろボクらも心細かったから、よろしくお願いしますって感じでして……あっ!」
完全にアツシのペースにハマっていたリオだったが、しかし彼女はもう一人の連れの存在を思い出して突然慌て出した。
「あぁ! そ、ソフィーは?! ソフィーはどうかな?!」
「……俺も別に、お前が行くというなら構わない。一緒に行こう」
振り返るリオに、ソフィルアは相変わらずの仏頂面で頷いてみせる。
「そっかー! じゃあリオちゃんにソフィルア……君か? よろしくなー!」
「え、は、はい……よろしくです」
「……はい」
頷くリオとソフィルア。
「……」
アツシの勢いでいつの間にか人数が大勢になったことに、ミルフィーユは少しだけ不安そうな表情を浮かべた。
(別に人数が多いのが嫌ってわけじゃない。勿論リオやソフィルアが嫌ってわけでもない。……でも)
でも、じゃあこの心の隅に残る小さな不安は一体何なのだろうか。
「……」
「……ミルフィーユさん、どうしたの?」
いつの間にか自分の顔を覗き込んできていたリオに、ミルフィーユはハッとして「いや、何でもないよ!」と大きく両手を振った。
「? ……そう」
「……あぁ」
嘘の笑みは得意じゃない。
しかしミルフィーユは、ぎこちなく笑ってみせる。
その笑みを真っ直ぐな瞳で見上げたリオは、しかしそれ以上は何も言わずに彼から離れた。
「あ、リコリスさん久しぶりです!」
「……」
リオはトコトコとリコリスの元へ駆けていき、俯き加減に様子を窺っていた彼女へ満面の笑みを向ける。
しかし喋ることの出来ないリコリスは、ただ曖昧に頷くことしか出来ず、首を傾げるリオの反応に彼女はミルフィーユへ助けを求めた。
「……あ! リオ、彼女喋れないんだよ!」
リコリスの視線の意味に気付き、ミルフィーユは慌ててフォローへと入る。
するとそれを聞いたリオは驚いたように目を丸くして、すぐにリコリスへ向き直ると、彼女へ向けて勢いよく頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! そうとは知らず……」
「……」
頭を下げるリオに、リコリスはますます困ったように眉を寄せる。
「リオ、そんな風に謝られてもリコリスも困るだけだと思うし……」
「あ、そうか……うん」
ミルフィーユに止められて、リオは頭を上げる。
そしてもう一度微笑みを浮かべて、リコリスに向けて右手を差し出した。
「よろしく!」
「……」
差し出された右手に、リコリスは一瞬怯えたように肩を震わせる。
しかし彼女はゆっくりと右手を持ち上げて、リオの掌と自分のそれを重ね合わせた。
「……えへへ」
嬉しそうに笑うリオを、リコリスは暗い瞳で見つめ返した。




