A wish 07
無表情にとんでもない発想を告げた彼女に、ミルフィーユは苦い表情のまま固まる。
意外とパワフルな思考の持ち主らしいことが発覚したリコリスは、どう言葉を返せばいいのか困り果てるミルフィーユに、「どうしたの?」とでも言いたそうな眼差しを向けながら小首を傾げた。
「いや、リコリス……言いたいことはわかるが、あの錠前を壊すのもこの壁を壊すのも、俺は同じくらい難しいと思うぞ?」
「……」
もっともな意見を述べるミルフィーユに、何故かリコリスは不満そうに目を細める。
そして彼女は再びポーチを漁り、中から何やら茶色の色をした小瓶を2個ほど取り出した。
「なんだそれは?」
妙な小瓶を掲げて見せるリコリスに、ミルフィーユは首を傾げて問う。
するとリコリスは少し考えるそぶりを見せた後、小瓶を壁に向けて投げる仕種を彼に見せた。
「?」
そして今度は大きく両手を広げて、一生懸命に何かを伝えようとするリコリス。
「……え~と」
もう一度小瓶を壁に投げる動作を見せ、そして大きく両手を広げるリコリスに、なんとなく彼女が言いたいを理解したミルフィーユは、「もしかしてその瓶は投げると爆発して、それで壁を壊す……とか言いたいのか?」と呟いてみせる。
「!」
するとその言葉を聞いた途端、リコリスは勢いよく頷いたのだった。
「マジ……?」
ポカンとした顔でリコリスと小瓶を見つめるミルフィーユは、やがて我に返りアツシへと駆け寄る。
「ちょ、あ、アツシさん! リコ、リコリスがなんかやばそうなことしようとしてるんですけどっ!」
「んん?」
ひどく慌てた様子で駆けてくるミルフィーユに、錠前をどうやって外そうか悩んでいたアツシは顔を上げた。
「なんだよミルフィーユ、リコちゃんがどうしたって?」
「いや、なんかリコリスが危険極まりないもの持って、あそこの壁を破壊しようとしてるんです!」
「へ?」
ミルフィーユの言うことがいまいち理解出来なかったアツシは、リコリスのいる壁の方向へと向かって歩きながら「壁を破壊?」と言って眉根を寄せる。
「何言ってんだよミルフィーユ、リコちゃんにそんなこと出来るわけが……」
アツシがそう言って笑いかけた瞬間、辺りに激しい爆発音と体を震わす強い振動が生まれる。思わずミルフィーユたちは、「うわぁ!」やら「うぉっ!」やら叫び声をあげて身を屈めた。
そして一体何が起きたのか理解する暇の無い二人の元に、爆風の衝撃を受けて吹き飛ばされたらしいリコリスが飛ばされてきた。
「わ、大丈夫かよリコちゃんっ!」
激しい音をたてて崩壊する壁。
そしてコロコロと床を転がるリコリスの体。
アツシが慌てて駆け寄り、転がって床に倒れる彼女の体を受け止めた。
「おいおい、この素晴らしい無茶はリコちゃんがやったってのか?」
体中埃と土、そして爆発の衝撃で受けたであろう小さな擦り傷だらけとなったリコリスを抱き上げつつ、アツシは逆に感心したような表情でぶち破られた部屋の壁を見つめた。
「なるほど……ここの壁は中に繋がってるし、それに長い時間の間に老朽化して壊しやすくなってたってわけか」
「にしても無茶し過ぎだよ、リコリス」
「……」
リコリスは自力で立ち上がると、いつもとかわらぬ無表情で非難するミルフィーユを見返した。
「で、リコちゃんは一体なにをしてこんなすげぇ事したんだ?」
「なんか俺に小瓶を見せて、その小瓶投げたら爆発するみたいなこと彼女言ってましたけど……」
その結果が、まさに今目の前に広がるこれだろう。
「なーるほどなーるほど、リコちゃんは薬を調合して作るだけじゃなくて、爆弾も作れちまうってわけだな!」
「……」
アツシの言葉にリコリスは少し考えた後、メモに何やら文字を書き記す。
――前に薬作ってる時、偶然出来た。さっきの爆弾。
「おぉ、薬を作ってて爆弾になるってそりゃすげぇハイレベルな才能だぜ」
「……こ、怖い……」
二人がそれぞれに畏怖の表情を浮かべると、リコリスは涼しい顔でさらに『何かに使えると思ってずっと持ってた』ともメモに書き足した。
「確かにかなり役に立ったな。サンキュ、リコちゃん!」
「ははは……」
機嫌良く豪快に笑うアツシに対し、ミルフィーユは今だ土煙が立ち込める、崩壊した壁を見て表情を引き攣らせる。
「でも、これは危なすぎると思うが……」
「リコちゃんさ、今度から錬金術師って名乗ればどうよ?」
冗談を囁くアツシに、ミルフィーユは内心で「怖いから止めてくれ」と突っ込みを入れた。
「さぁて、リコちゃんが体を張って道を作ってくれたから有り難く先に進ませてもらうか」
アツシはそう言うと、足元に散らばる大小様々な瓦礫を適当に遠くへ放りながら、完全な道を作り始める。
「おい、ミルフィーユも手伝ってくれよ」
「あ、はい」
アツシに促されて、ミルフィーユも瓦礫排除を手伝う。
やがてある程度瓦礫を退かしたところで、アツシは「よしっ!」と言って満足げに大穴が穿たれた壁を見つめた。
「こんなもんでいいだろ。ミルフィーユ、リコちゃん、行こうぜ」
アツシの言葉にミルフィーユは無言で頷き、リコリスはただぼんやりとした眼差しを返す。
「じゃ、この先は何かありそうだから一応歩く順番決めとくな。オレが先頭、真ん中にリコちゃん、最後尾はミルフィーユが警戒でオケ?」
「はい、わかりました」
「よーし、じゃあ改めてしゅっぱーつっ!」
アツシはいやに明るい声で気合いを叫ぶと、奇妙に薄暗い壁の向こう側へと足を向けていった。




