A wish 06
「? ……どうしたんだ?」
ソフィルアの固い声に、リオはハッとしたように顔を上げて「何があるかは、入ってからのお楽しみだよ!」と言って微笑んだ。
「お、たの……しみ?」
「そーそー! ね、だからとりあえず中に入ろうよ!」
「あ、あぁ」
リオに押される形で、ソフィルアは四角い巨大な建造物へと足を向ける。
「……なんだか、嫌な匂いのする所だな……」
「え? なぁにソフィー、なんか言った?」
「いや……」
首を傾げるリオに、ソフィルアは否定を告げて「行こう」と彼女を促した。
四角く、無機質な巨大要塞を連想させる外観の遺跡内部は、その見た目通りのひどく素っ気ない造りとなっていた。
元々はどこかの組織が何かの研究所として所有していた施設らしく、中は研究所を思わせる部屋や設備がそのままに、いくつか残されている。
黒ずんだ灰色の壁や廊下は、元はおそらく白一色で統一されていたのだろう。
清潔感を感じさせるその色は、しかし今は長い歳月と共に変色しきってしまっていた。
「……埃っぽいですね」
彼等が一歩を踏み出す度に、廊下に広がった埃や土が僅かに舞い上がり、ミルフィーユはそれを嫌って服の袖で口元を押さえる。
「まぁお宝があるとか噂はあれど、そうそう人なんて立ち入らない場所だろうからな。それに放棄されてもう何年も経ってるんだ、そういうのは仕方ないと言うしかないな」
いつになく真面目な口調で言葉を返したアツシは、少し意外そうな顔で目を丸くするミルフィーユに、「そんなに埃が気になるなら使うか?」と言って懐からハンカチを取り出した。
「言っとくが清潔感はバッチリだぜ?」
「はぁ……あ、ありがとうございます」
差し出されたハンカチを素直に受け取り、ミルフィーユは頭を下げる。
「いえいえ。リコちゃんは大丈夫ー?」
「……」
最後尾をトコトコと歩くリコリスにアツシが声をかけると、彼女は顔を上げて小さく首を縦に振った。
「そうか。じゃあとりあえず先に進むけど……」
アツシはそう言うとぐるりと周囲を見渡して、何故か不可解そうな表情で目を細める。
「……やけに静かだな。中にゃ魔物がいるって聞いていたんだが、この様子じゃそんなもんいそうにねぇぞ?」
自分たちの足跡しか無い埃の積もった廊下を見下ろしながら、アツシは独り言のようにそう言葉を漏らす。
「……嘘だったんじゃないですか? お宝のことも含めて、この場所に魔物が出る話とか全部」
ポツリと呟くミルフィーユの言葉に、アツシは「う~ん」と唸りながら頭を掻いた。
「いや、でもここがなんかの研究所だったってことは確かみてぇだしな~」
確かにアツシの言うとおり無愛想な造りをした白塗りの建物は、全体の雰囲気と中の様子から何らかの研究所だったとは予想出来た。
彼らにはよくわからない謎の器具がいくつも存在し、部屋の中には薬品の瓶が陳列された灰色の棚などもある。
「……病院にも見えますけどね」
「ベッドが無いだろ、ベッドが」
「あ、そっか」
等間隔に並んだ扉をいくつも通りすぎながら、アツシの先導でミルフィーユたちは建物内を奥へ奥へと進んでいく。
すると、やがて3人の前に今までの扉とは明らかに異なる、重厚な見た目の鉄製の扉が現れた。
「なんだろ、これ」
「さぁ……」
隙間なくしっかり閉じた扉を前に、3人は途方に暮れたような顔で立ち尽くす。
絶対に何か有りそうな扉にアツシは心踊らせるも、しかし扉は鉄の鎖と巨大な錠によって封印されていて、とても素手では開けられそうもない。
「うーわー、ここぜってーなんかあるって! ミルフィーユ、これ開けて」
「はぁっ! 無理ですよ、こんなに厳重に閉めてある扉開けるなんて!」
アツシの無理注文を聞いて、ミルフィーユは鉄の錠前を指差しながら声をあげる。
「この錠壊したら鎖も取れそうなんですけど……アツシさんこそ、鍵壊すとか出来ないんですか?」
「んー……どうだろうな」
「どうだろうなって、なんですかその返事」
曖昧な返事を返すアツシは、顎に手を当てながら鎖と錠前を交互に見遣った。
「これを壊す、か~……ちょーっち難しいかもな~」
「あ、俺の剣で壊せないですかね?」
「無理だな。まずお前にこれを叩っ切るだけの力と技術がないだろ」
「……」
アツシに冷静に突っ込まれ、ミルフィーユはしょんぼり肩を落として沈黙する。
「ん~、こーまったな~。でも中、ちょーぉ気になるよな~」
ついにしゃがみ込んで錠前を観察し、妙な歌まで歌いだしたアツシからミルフィーユは視線を外す。そしてふとリコリスのことが気になった彼は、彼女がいる方向へ顔を向けた。
するとリコリスは二人から少し離れた場所のコンクリ壁をまじまじと見つめながら、なにやら真剣に考え込む様子を見せていた。
「リコリス、どうかしたのか?」
「……」
ミルフィーユに声をかけられたリコリスは、一旦視線を上げて彼の方を見返す。
「なにかあったのか?」
ミルフィーユはそう言うと、リコリスが観察していた壁へと目を向ける。
しかしそこはただ灰色に汚れた壁があるだけで、特にこれといって気になるようなものは何もない。
「?」
ミルフィーユが不可解そうに眉をひそめると、リコリスは何やら腰のポーチを漁りだして、メモ用紙とペンを取り出した。
そして彼女はメモ用紙に素早く何かを書き込み、それをミルフィーユへと見せる。
――この壁ぶち壊したら、中に行けると思う
「……」




