The Cage of Dreams 16
ミルフィーユを追い出したあと、窓付近の壁に背を預けてもたれ掛かっていたアツシは、今度はすぐ側のベッドへと仰向けの形で寝転がる。そして彼は真っさらな天井を見上げたまま、鋭い瞳でこう呟いた。
「たぶんありゃ、男に襲われたか……」
ミルフィーユの話から推理するに、リコリスはおそらく見知らぬ男に暴行されたか、されそうになったのだろう。
ミルフィーユは記憶喪失中のためか、それとも元々が鈍くて気付いていないのかわからないが、服を目茶苦茶に破られて怪我をし、そして泣いていたというミルフィーユの話から、アツシは大体そういう事があったのだろうと察する。
「チッ……知らねぇ土地で一人にさせたのがまずかったな。迂闊だった……」
一体どこまで何をされたのかはわからないが、しかし彼女に聞くわけにもいかない。おそらくは、そのことについて男の自分になど話したくはないだろう。
今はそっとしておいてあげるのが一番最善だと、少しばかり申し訳なさそうな面持ちでアツシは考える。それくらいしか、自分にはしてやれることはない。
後の事――彼女を色んな面で支えてあげるような役目も、自分よりミルフィーユが行ったほうがおそらくいいだろう。
なんだかんだでリコリスは、自分を含めた他人の誰よりも、ミルフィーユを一番信頼しているように思える。
「……で、これからリコちゃんの事はミルフィーユに任せるにして、だ」
リコリスが今後、ちゃんと旅を続けられるような状態となるから少し不安ではあったが、とりあえずこのことはこれで一句切をつける。
アツシは深く息を吐きながら、次にこれと関連してもう一つ"気になること"について考えることにした。
それは先程宿へ向かう途中耳にした、首と胴が斬り離された男の変死体について。
聞いた話だと、人気の少ない住宅街の路地裏で、見知らぬ男――おそらく旅の者であろう――が、首と胴を巨大な刃物かなにかで斬り離されたような状態で殺害されていたらしい。
男の着衣は争った痕跡のような乱れがあり、そして転がっていた男の首の近くには、砂色の布切れが落ちていたと聞く。
「砂色の……布切れ……」
ミルフィーユの話だと、リコリスの身につけていたマントはひどく破れていたらしち。
そして彼女に切り傷のような怪我はないのに、何故か彼女は体の至る所を血で汚していた。
「……」
アツシの脳裏に浮かぶ、一つの考え。
以上のことから自然に推測されるて導かれる"答え"に、アツシは「まさかな」と呟いて微苦笑を浮かべる。
「リコちゃんは武器らしいもん持ってねぇし、そんなんで男の首なんて斬れねぇよな」
自分の推理が馬鹿馬鹿しくなったアツシは、乾いた笑い声を発した。
しかし一方で、頭の隅では『もしかして』という考えも確かに存在する。
「……ミルフィーユに、リコリス……か」
さりげなく謎の多い、この二人。
一体二人は何者なのか……考えても答えなど出るはずもない問いを忘れるように、アツシは大きく首を横に振って目を閉じる。
「んなことより、今日酒場で仕入れた情報でも整理すっかぁー……」
そう言いつつも、一旦目を閉じたアツシの体は急に睡魔に襲われて、心地よい感覚の中でだんだんと意識が曖昧になっていく。
今になって酔いがまわってきたのだろうか。
難しいことはもう考えず、今日はもうこのまま夢に落ちていくのもいいかもしれない。
「……やっぱ寝よ」
急激に色んな事がどうでもよくなる。
短い呟きを発した直後、アツシの唇からは静かな寝息が漏れ出した。
【To Be Continued】




