The Cage of Dreams 15
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「そーれーで、リコちゃんは今部屋に一人でいて、休んでるのか?」
「……はい」
すっかり夜も更け、街の祭もいくらか落ち着きをみせた頃。
街で唯一の宿屋にて無事に落ち合うことが出来たミルフィーユとアツシは、借りた部屋の一室に集まって、それぞれ椅子に腰を下ろしたり壁に背を預けたりした姿勢でくつろいでいた。
「う~ん、オレが酒場で一生懸命情報仕入れていたころ、君達は君達でな~んか色々あったんだねぇ」
泣き続けるリコリスがある程度落ち着いてきたのを見計らい、彼女を連れて宿屋へと向かったミルフィーユ。宿で受け付けを済ませてすぐ、リコリスを部屋へと送り、その後ずいぶん酒臭いアツシと宿の受け付けでばったり会ったミルフィーユは、アツシの酒臭さに少々顔をしかめつつも彼に先程の出来事を語り聞かせた。
しかしリコリスのことについては、正直ミルフィーユもよく理解しきれていない。
何故か服や髪が激しく乱れ、体中に点々と血痕をつけたリコリスの様子をミルフィーユが語って聞かせると、アツシはひどく深刻そうな表情で彼の話に耳を傾けていた。
「……で、アツシさんはどうしてそんなに酒臭いんですか?」
「ぬ? あ、オレか? オレはホラ、酒場でイイカンジの情報を仕入れるついでに、気さくなオッサンに酒を進められたからお付き合いで一口……な?」
「お付き合いで一口、ね……」
アツシはおどけた様子で笑うと、途端にミルフィーユは呆れたため息をついて彼を睨む。
「やっぱりアツシさん、お祭りに浮かれてどっかに逃げてっちゃってたんですね」
「な、違うぞ! 何度も言うようだが、オレは情報収集していたんだ!」
じっとり睨むミルフィーユの視線に、アツシは慌てた様子で「本当だぞ!」とミルフィーユに念をおす。
「情報ね……本当にそんなもの、仕入れてきたんですか?」
「もちろん収穫アリだ! 早ければ明日あたり、リコちゃんが元気なようなら二人の前で今日ゲットした超レア情報をドドーンと紹介しちゃうぜ!」
ドンッと強く胸を叩いて自慢げに語るアツシに、彼に対して徐々に本性を見せ始めたミルフィーユは「胡散臭いな……」と小さく呟く。
疑惑たっぷりの視線をアツシに向けていたミルフィーユは、やがて疲れたようにため息を吐いて、越しかけていたソファーに深く座り直した。
「でも、リコリス……本当に一体なにがあったんだ……?」
乳白色の天井を見上げ、ミルフィーユは呟く。彼が不意に呟いた疑問に、アツシは僅かに眉を上げて反応した。
「……お前、本当に彼女に何があったか想像つかないのか?」
「え?」
アツシの表情と声音が変わり、それは真剣みを帯びたものとなる。
「え、ええ……」
「……そうか。なら、別にいい」
「?」
街の中だし、魔物に襲われたわけでもないだろう。
首を横に振るミルフィーユに、なんとも複雑な表情で深くため息をつくアツシ。
余り見ないアツシのその表情に、ミルフィーユは思わず「アツシさんはなにかわかったんですか?」と問いかけていた。
彼の問い掛けに対してアツシは一瞬表情を曇らせ、しかしすぐに微苦笑を口元に刻みながら「いや」と否定を漏らした。
「……ああ、もしかしてどっかでコケたのかもな。それで服を引っ掛けて破いちまったとか!」
「……そうですかね?」
『そんなわけない』といった表情で首を傾げるミルフィーユに、アツシは「そうだよ」と笑いかける。
「だから今度からはリコちゃんが転んで怪我しねぇように、お前は彼女にしっかりついていてやれよ!」
「……はぁ」
なんだか納得いかないアツシの言葉だったが、とりあえずミルフィーユは頷いておく。それに満足したのか、アツシはさらにご機嫌な笑顔を彼に向けた。
「それじゃ、お前も今日はもう休め! 疲れてるだろ?」
「え? あ、はい……まぁ……」
その言葉にミルフィーユが頷くと、アツシは「じゃあホラ、さっさと立って部屋に戻って寝ろ!」と、ミルフィーユを追い払うような態度をみせる。
「な、なんですかいきなり!」
「いいから、子供はクソしてさっさと寝ろ!」
「子供じゃないですよ!」
アツシの言葉に少々怒りをみせつつ、渋々ミルフィーユはソファから立ち上がる。そうして一応アツシに「じゃあおやすみなさい」と告げると、彼は腑に落ちない様子で部屋を後にした。




