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Endless KILL  作者: ユズリ
05.Twilight トワイライト
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The Cage of Dreams 11

そこは美しい歌と軽快な踊り、そして優しくもあり雄々しくもある音楽で溢れていた。



「なんだ、こりゃ」


「……さぁ」



アサド大陸の西に広がる砂漠地帯、そこに点在するオアシスの街の一つ・エルペターナ。

ここは麻の布に植物から採取した染料で原色系の染色を施した、鮮やかな染め物が名産の小さな街だ。だが船着き場があったり砂漠では大切なオアシスということもあり、街は多くの人で賑わっている。


しかし今はその賑わいが、通常の賑わいとは明らかに異なっていた。



「な、なんか踊っている人とかいますね……」


複雑な紋様を刺繍したこの地方独特の民族衣装を身に纏い、住人の女たちは声高らかに歌って、男たちは指先で見たことの無い楽器を奏で踊る。


「んー、お祭りでもやってんじゃねぇの?」


ミルフィーユたち以外の旅人も街には大勢いるようだが、彼らも街の住人たちに混ざって歌い踊っていたりする。


アツシはキョロキョロと周囲を見渡しながら、「こんなに賑やかで人が多いとリコちゃん捜すの大変かもな」と呟いた。彼のこの一言に同感したミルフィーユは、楽しげに歌い踊る周囲の人々とは正反対に暗い表情を浮かべる。


「早く見つけないと……」


「ああ、そうだな。……でもお祭りってんならちょっくら楽しみたいよなー」


「アツシさん……?」


うっかりぽろっと出てしまったアツシの本音を聞き、ミルフィーユはギロッと鋭く彼を睨む。


「や、やだなぁ冗談だってミルフィーユ君! そんな可愛い顔で悪鬼の如く睨むなよ! オレ、しっかりリコちゃん捜しまーす!」


ミルフィーユの殺気すら漂う呪いの視線にたじろいだアツシは、彼の肩を強く叩きながら先程の失言を笑ってごまかした。


「まったくもー……アツシってちょっと頼れないというか、胡散臭いというか、信じられないというか……」



空元気に「さぁ張り切ってリコちゃん捜しだー!」と叫ぶアツシの隣で、ブツブツと文句を呟きながらミルフィーユも周囲に視線をさ迷わす。しかし周りは街の恒例行事を楽しむ人の波で、さらに派手な民族衣装で踊る人々に視線が奪われたりしてしまい、ミルフィーユはリコリスの捜索に集中出来ない。


(……それに俺、こんな賑やかなもの初めて見たな)


ミルフィーユは祭事の賑やかさと派手さにすっかり魅入り、彼は物珍しげに色とりどりの花を手に踊る女性の輪を見つめた。


「なんかすごいな……」


「お、なんか面白そうなものはっけーん! あ、わりぃミルフィーユ! オレちょっと用足してくる! ってことでリコちゃん捜索頑張れよー!」


「は?」


ミルフィーユがすっかり踊りに心奪われていると、その隙を狙ってか今度はアツシが猛ダッシュでどこかへと駆け出していってしまった。


「え、ちょ、アツシさんっ!?」


「わりぃな、祭がオレを呼んでるんだー! 夜になったらどっかの宿で落ち合おうぜー!」


アツシは「ひゃっほーい!」だかの奇声をあげ、派手な赤いバンダナとくすんだ砂色のマントを靡かせながら人の波へと消えていく。

瞬く間に見えなくなったアツシに、ミルフィーユはポカンと口を開けてその場に立ち尽くした。


「よ、用を足すってトイレじゃないんですか……? 祭がオレを呼んでるって、まさかアツシさんは逃げたとか……」


予想だにしない、アツシの突然の失踪。

ミルフィーユはまだ呆然としつつ、持っていた懐中時計を取り出して、今の時間を調べる。


「……16時すぎ」


夕方ということは、夜までそんなに時間があるわけではない。ということは、アツシもそんな長い時間遊んでくるわけではないということか。

しかしアツシは具体的な時間を指定しなかったうえに、どこかの宿で落ち合おうなどと曖昧すぎる待ち合わせ場所を指定して消えた。


「これじゃ実質、アツシさんともはぐれたようなもんだよ……」


疲れたように肩を落とし、ミルフィーユはとりあえず足を動かす。


初めて訪れた地で、一体どう人を捜せばいいのか。


途方に暮れたように、ミルフィーユは今日何度目かのため息を吐き出した。




◆◇◆◇◆◇





船を降りてから数時間。

今の時期だと砂漠の地の日没はわりと早いらしく、今の時点ですでに周囲は日が落ちかけている。


空は茜色と深い紺の色を混ぜた、幻想的な色に染まっていた。



「……」


日干し煉瓦で造られた民家の壁に背を預け、マントを頭から被った恰好のリコリスは、無表情に幻想の空を見上げていた。


周りではやはり歌声や民俗音楽の独特な音色が響き、人々は一夜限りの祭の夜を楽しもうと騒ぎ立てる。しかし一人リコリスだけは、陽気に歌い踊る人々の宴に混じらずに、ひっそりと街角の隅で立ち尽くしていた。


勝手にミルフィーユたちの元から離れ、今までずっと街を一人で適当に見て回っていた彼女。しかし人込みがそんなに得意ではない彼女は、先日の王都ほどの量ではないにしろ、それでも通常の量では無い人の波の中を歩いていたらだいぶ疲労したらしい。空を見上げるリコリスの唇から、自然に疲れがため息として吐き出された。



空から茜色が消えかかってきた頃、やっとリコリスは頭上を見上げるのを止める。

彼女は軽く目を擦りながら、虚無の眼差しを正面へと向けた。


目の前、その少し遠方では旅の楽団らしき人々が、街の住人と混じって異国の民謡を演奏しているのが見える。

リュートやオカリナ、太鼓などの打楽器や、他にもリコリスの知らない弦楽器などが激しい音楽を周囲に奏で解き放している。そして彼らを取り囲むようにして、派手な踊りの衣装を身に纏った女性たちが、どこか蠱惑的な仕種を交えながら、花弁を撒き散らして踊っていた。


踊り子の手から離れた淡い色の花弁は、砂漠の冷たい風に流されて舞い上がり、同時に街には甘く芳しい花の香りが広がっていく。



「……」


鼻先を掠める花の誘惑的な香りと、自分のすぐ近くを風に流されて舞ってきた小さな白い花弁に、リコリスの意識は向けられる。

リコリスはぼんやりとした眼差しで流れる花弁を見つめ、やがて彼女の左手は特に意図も無く、自然と花弁を捕まえようと宙へ伸ばされた。

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