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Endless KILL  作者: ユズリ
05.Twilight トワイライト
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The Cage of Dreams 05

宿屋、そこで宛てがわれた部屋。彼女は窓を開け放つ。

部屋は角部屋で、東側に設置された大きな窓を開ければ、爽やかな磯の香りと清んだ朝方の空気が、日の光と共に室内へと入ってくる。

海に近い土地独特の香りを胸一杯に吸い込みながら、少女は青銀に光る髪を柔らかく掻き上げた。


「……気持ちいいな」


”クールークは海が近いんだったね”


「そうだよ。海の香り好きだから、すごく気持ちいい」


”ふーん……いいね、僕はそういう香りが久しいから嗅ぎたいな”


「君も海が好きなの?」


”どうだろうね。まあ、今は暗い中でじっとしていることしか出来ないから、出来るなら海でも山でも行きたいけどね”


「……そっか」


”ところでリオ、ミルフィーユたちはボーダ大陸を出るんだって?”


「うん、らしいよ。ボクらも別の船で追いかけるよ」


”別の船? 見失わないかい?”


「もし見失っても、君が彼を捜してくれるでしょ?」


”……あまり僕をあてにしないで。今の僕は力が弱っているんだから”


「わかったよ。大丈夫、多分見失わないから」


”たぶん……ね”


「君の文句はミルフィーユを完全に見失ってから聞くよ。……もうすぐソフィーが来ちゃうから」


”はいはい。じゃあ僕はこれで。バイバイリオ、頑張ってね”


「……うん」





「……リオ、起きているか?」


控えめなノックの音と共に、静かな青年の呼び声がドアの向こう側から聞こえる。

窓の外を眺めていたリオは振り返り、「ソフィー!」と声をあげて、部屋のドアへと駆け寄った。


「おはよ、ソフィー。もう起きてるよ」


リオはドアを開け、その向こうに立っていた青年に笑顔を向ける。

彼は黒っぽい色の帽子を深々と被り、真っ白い色の髪の毛と桃色の瞳を隠すようにして、無表情にその場に立っていた。


「起きていたか……今日は午後、アサド大陸に向けて出発だったな」


「うん、そうだよ。それまではやることないから、この都を散歩しようよ」


「散歩……」


リオがにっこりと微笑むと、反対にソフィルアは眉をひそめる。


「リオ、都は人が多い。俺のこの容姿はあまり人の多いところでは……」


そう言うとソフィルアは、頭に被った帽子をさらに深く被り直した。

自分の持つ白の髪、それと桃色という異形の瞳を隠すように、ソフィルアは帽子を被り直しながら俯く。

普通の人々とは明らかに違う自分の容姿を気にするソフィルアに、リオはほんの一瞬だけ淋しげな表情を見せ、しかしすぐに彼女は優しい笑みを彼へと向けて口を開いた。


「大丈夫、ソフィーになにかあったらボクが守ってあげるから!」


「……え?」


にぱっと笑い、突然胸を張って得意げに、謎の宣言をするリオ。

ソフィルアは呆気に取られたようにポカンと目を丸くし、不思議と胸を張る彼女を見つめる。


「……リオ?」


「大丈夫だよ、ソフィー。帽子を被っちゃえば大丈夫。君は髪の色と瞳の色が他人と少し違うだけで、あとはなんらかわりはないんだから」


「……」


「だから、大丈夫。自信を持って歩こうよ」


優しく諭すような口調で、リオは告げる。彼女の柔らかく、そしてどこか淋しげな微笑みを見つめ、ソフィルアは桃色の瞳を辛そうに伏せながら、「ああ」と小さく頷いた。


「……わかった。お前がそう言うなら大丈夫だな」


「うん。だからさ、ソフィーもこの都を楽しもう?」


俯き加減のソフィルアの顔を、リオは大きな紫電の瞳で覗き込む。「ね?」と微笑む彼女の瞳にソフィルアは苦笑いをしながら、無言で首を縦に振った。


「よし、じゃあ船の出発時間までお散歩けってーい!」


「……仕方ないな」


「それじゃちょっとお出かけの準備するから、ソフィーは部屋で待ってて」


「わかった」


リオの言葉にソフィルアは頷き、彼は踵を返して自身の部屋へと戻っていく。


リオはゆっくりと部屋の扉を閉め、何か疲れたように深いため息を吐き出した。


「……ごめんね、ソフィー。ボクは君に嘘ばかりついている……」


リオは淋しげに目を伏せ、扉に額を押し当てて、搾り出すような声で懺悔の言葉を呟く。


「本当にごめん……」


溢れそうな涙に歪みだす視界を遮るように、俯いたまま彼女は瞳を閉じた。




◇◆◇◆◇◆




………………………

王都クールーク

――クールーク港

………………………


「それじゃ今日は予定通り、アサド大陸に向けて出発だな」


船の出航時間が迫り、ミルフィーユたちは見送りのレイジ・オリハと共に、クールークの港へと来ていた。



「アツシセンセェ~、忘れ物はないですかぁ~?」


「ねぇよ」


オリハが疑わしげな視線を向けて問うと、アツシは先に船へと乗せなかった分の荷物を両手に抱え、「ほら見ろ!」と彼女に見せる。


「てかお前こそレイジとしっかりやれよ!?」


「大丈夫ですよぉ~。私、レイジさんとは頻繁にお仕事してますからぁ~」


オリハはにっこりと微笑み、隣で少々怠そうに立つレイジに、「ね~レイジさん」と声をかける。


「あー……うん、そうだな。お前が謎の失踪ばかりするから、結構な頻度でお前の代わりやってるしな、俺」


「えー、そうかぁ?」


「そうだよ。てかお前、しょっちゅうどっかに行って、オリハさんに心配ばっかりかけるなよ」


呆れたような視線を自分へと向けるレイジに、アツシは「あははー」と、とりあえず適当に笑っておく。レイジの瞳が、一層呆れたように細められた。


「はぁ……まったく、お前は相変わらず……まぁいいや、気をつけて未知の薬草でもお宝でもパンドラでもなんでも探してこい。未知の薬草は俺も興味あるしな」


「オォよ、任せろ! 今回は多分、一年くらいで戻ってくるわ!」


鼻息荒く、なんだか自信満々の瞳で宣言するアツシに、彼の隣で二人の会話を傍観していたミルフィーユが、「一年っ!?」と驚いたようなに大声をあげた。


「え、なに? 一年って短かった?」


「い、いえ、むしろ逆で……」


キョトンとするアツシに、ミルフィーユは苦い顔で「一年も振り回されるのか」と、小声で呟く。対してオリハとレイジはもう色々と慣れているらしく、それぞれ笑ったり呆れたようにため息をついたりとしながらも、自由奔放なアツシに突っ込む気はないようだった。


「……それにしてもぉ、リコリスさんは体調大丈夫ですかぁ~?」


「……」


今まで一切皆の会話の中には入らず、相変わらず具合が悪そうな表情でミルフィーユたちの隣に立っていたリコリス。

彼女の顔色と体調を心配してオリハが首を傾げると、僅かに俯いていたリコリスはけだるそうな動作で顔を上げ、本当に微かにだが首を縦に振った。


「……どう見ても大丈夫そうには見えないんだが」


レイジも心配そうに呟くが、リコリスは「平気」とでも言いたそうに彼を睨み付ける。


「うん……でも今回はリコちゃんが『行こう』って言ってるからなぁ……まぁ辛かったら船の中では寝ててかまわないし、なんかあったらオレも一応医者やってるしな」


「……」


レイジの言葉にリコリスはしっかりと頷き、自分の体調を心配する周囲に向けて、彼女はしきりに大丈夫だということを伝えた。


「ま、そういうわけだ。少し不安もあるが、行ってくるわ」


「わかった。じゃあな」


「アツシセンセェにミルフィーユさん、リコリスさんも皆さんお気をつけてぇ~」


そろそれ船の出航時間となり、アツシとミルフィーユとリコリスの三人は、レイジらに別れを告げて船へと向かい出す。



「あ、リコリス!」


「……」


途中ミルフィーユは、アツシの背に続いて歩きだすリコリスに声をかける。

呼びかけに彼女は一旦足を止め、僅かに首を後方へと向けてミルフィーユを見遣った。


「……」


「あ、その……本当に体調のほうは平気なのか?」


暗く冷めた瞳を向けるリコリスにミルフィーユは一瞬たじろぐも、やはり顔色の優れない彼女を心配して彼は問い掛ける。しかしリコリスは彼になんの反応も返さず、すぐに顔を戻して小走りにアツシの元へと駆けていってしまった。


「……えぇ?」


予想外すぎるリコリスの冷たい反応に、ミルフィーユは呆気にとられたような表情でその場に立ち尽くす。

最近のリコリスは自分に対してわりと好意的に接してくれたので、まるで掌を返したように冷たい彼女の態度と反応に、ミルフィーユは困惑したように「どういうことだ?」と呟いた。


「? 俺、なんかしたかな……」


「おーい、ミルフィーユ! 早くこねぇと船出ちまうぞぉー!?」


頭を抱えながら少し混乱するミルフィーユに、彼のだいぶ先を行ったアツシが大声でミルフィーユの名を呼ぶ。

ミルフィーユはハッと顔を上げ、「すいません!」と謝りながら慌てて駆け出した。



(……でも一体、どういうことだ?)


静かに混乱するミルフィーユは、訳がわからないまま船へと向かうアツシらの背中を追った。

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