The days when I forgot it 08
「メディエズアカデミー図書館をご利用いただきありがとうございます。お客様は一般のご利用ですね。こちらの施設のご利用は初めてでございますか?」
アカデミーと長い廊下で繋がった、こちらも広大な広さを誇るドーム状の絢爛な建物。アカデミーとは別館のような扱いとなっている図書館の扉を開けた途端、ミルフィーユたちを迎えたのは眼鏡をかけた清楚な女性の微笑だった。
カウンター越しに立つ司書らしき女性のあいさつの言葉に、ミルフィーユは驚いて一瞬固まりつつもすぐに「あ、はい」と頷く。
淡い金色の髪をきっちりと後ろで結った女性は、二人に柔らかい微笑みを向け
「それでは当館内のご利用方法などを簡単にご説明させていただきます。どうぞこちらへ」
そう言って女性は二人をカウンターへと案内した。
司書の女性に図書館利用の簡単なレクチャーを受けた後、ミルフィーユとリコリスは静かな館内をゆったりとした足どりで歩いていた。
館内は著者別、または分類別に整理された膨大な数の書物が、見上げるような高さの本棚に綺麗に収められている。そして淡い象牙色で統一された館内は、タングステンの金属線を真空の小さな硝子球の中に封じて、そこに電流を流し発光されるという原理の照明器具によって明るく照らされていた。
先程の司書の女性の話だと、今現在リ・ディールに一般的に普及しているアルコールを燃料としたランプの照明具だと炎を直に扱うため、このような燃えやすいものが膨大な数ある施設には、大変高価だがその分安全な最新の照明器具で館内を照らしているのだという。
そのような細かな気遣いが成されているのは、この図書館には一般に貸し出し禁止となっている貴重な蔵書が何冊も保管されているからだそうだ。
(たしかにこんなにも大量の書物を保管しているのなら、貴重な本もいくつかあるはずだよな……)
自分の背丈など優に越える本棚を感慨深げに見上げながら、不意にミルフィーユは立ち止まる。すると彼が立ち止まったのに気付き、リコリスも足を止めた。
リコリスが不思議そうにミルフィーユへと近づく。そしてそのまま、ミルフィーユが見つめる視線の先を自らの目で追った。
「……」
ミルフィーユが見つめていたのは、世界の歴史や宗教・文化などの本が収められている本棚。
「リ・ディールの世界史か……」
本棚から世界の歴史をある程度記した歴史書を何冊か手に取り、ミルフィーユは脇に抱える。
リコリスがキョトンとした表情で自分を見つめているのに気がつき、ミルフィーユは「あぁ」と笑って彼女に説明を始めた。
「ほら、少しでもこの世界のことを知っておこうと思ってな」
ミルフィーユはそう言って、手元の本を一冊掲げる。『リ・ディール 旧歴史』と題名が書かれた本をヒラヒラと振り、「なにも覚えていないままじゃいけないからな」と苦笑いを見せた。
「……」
「えっと、俺はこの本を読むけど……リコリスはどうする?」
ミルフィーユが問い掛けると、リコリスはチラッと先程の本棚を見遣る。
そうして彼女は、ミルフィーユが手にした本と同じ棚に収められていた本を何冊か手に取った。
リコリスが手にしたのは、ミルフィーユと同じ歴史書やあるいはリ・ディール各地の宗教文化に関した本など。
「……それでいいのか?」
自分と似たようなチョイスをした彼女にミルフィーユは少し首を傾げるも、リコリスが深く頷いたのを見て「そうか」と彼も首を縦に振った。
「それじゃあどこか静かな席に……」
読む本も決まり、ミルフィーユは館内の読書が出来るテーブルスペースの方へと視線を向ける。
やがてミルフィーユの紫の瞳は、暖かな日の光りが優しく注ぐ窓際の小さなテーブルで止まり
「うん、あそこの席にしよう」
と言って、彼は歩き出した。
リコリスも本を抱えながら、ミルフィーユの後を追う。
二人が席へと向かう途中、白や青のローブを着たアカデミーの生徒何人かとすれ違った。
ミルフィーユたちのような一般の利用者も館内ではちらほら見かけるが、やはりアカデミー内の図書館ということもあり時間を潰しに来た生徒や、調べ物をしに来た生徒たちの姿のほうが多い。
本を手にし、友人と小声でなにやら楽しげにお喋りする女子生徒とのわきを抜け、ミルフィーユは窓際の席へと腰を下ろした。
リコリスも同じように、ミルフィーユの向かい側へと腰を下ろす。
そうして早速手にした本を読もうとしたリコリスだったが、彼女の手は「なんだか懐かしいな」というミルフィーユの呟きに止まった。




