The days when I forgot it 07
オリハが頭を下げて挨拶すると、ミルフィーユも条件反射のように「あ、どうも」と言って頭を下げた。
「俺はミルフィーユです。で、こっちの彼女が……リコリス」
ミルフィーユの紹介に、彼の後ろに隠れるようにして立っていたリコリスが、少し前に出て二人へ小さくお辞儀をした。
「へー、リコちゃんってーの? カワイイねー、彼氏とかいる?」
「わぁ、綺麗な黒髪! 東の大陸の方ですかぁ~? あ、なんか誰かに似てる気がしますねぇ~」
「……」
アツシとオリハの質問攻めにリコリスは困り果て、困惑した表情で彼女はミルフィーユを見つめる。
リコリスのヘルプの視線に気付いたミルフィーユは、慌てて「すいません、彼女喋れないんです」と二人に説明した。
ミルフィーユの説明に二人は同時に動きを停止させ、そして二人は同じ動作でミルフィーユへ視線を移した。
「な、喋れねぇのか! それはいけねぇ! なんか喉の病気か!?」
「た、大変です~! 喋れないなんてぇ、そんなぁ~」
なんかちょっとこの二人反応が面白いなぁとかぼんやり考えながら、ミルフィーユはとりあえず二人に苦笑いを返す。
「えっと、詳しいことは俺も聞いてないんでわからないんですけど、とにかく声が出ないらしいんです。でも本人はあまり気にしてないようなんで……」
ミルフィーユがそう言ってリコリスへと視線を向けると、彼女は無表情にコクリと頷いた。
リコリスのその様子に、アツシとオリハの二人は互いの顔を見合わせ、そして再び二人はミルフィーユへと向き直る。
「そうですかぁ~……でも、ミルフィーユさんの腕は心配ですねぇ~」
「そうだな、医者としては怪我人は放っておけねぇな」
先程その怪我人におもいきりタックル+頭突きというコンボをかましたことはアツシの頭から綺麗さっぱり抜け落ちているらしい。そこが微妙に引っ掛かったミルフィーユだが、まあいいかと彼は自分を納得させた。
「……ええと?」
心配する二人に、とりあえずミルフィーユは首を傾げる。
するとアツシは自信満々な笑みを浮かべ、自らを立てた親指で指差してこう言った。
「ぶつかっちまったこともあるし、その腕は俺が責任持って診てやるよ!」
「え……あ、あぁそれはどうも」
よくわからないが、医者である彼らに診てもらえるということは大変有り難い。これまた反射的にミルフィーユは礼を述べると、そこにオリハの「センセェ~」という間延びした声が割って入った。
「センセ、それは全然かまわないんですがぁ~、もうすぐアカデミーの生徒さんたちの定期検診が始まっちゃいますよぉ~?」
オリハの一言にアツシは「あっ!」と叫んで、途端に彼は青ざめる。
「そ、そうだったヤベェもう5分もねぇじゃねーか!」
「そぉですぅ~。どうするんですかぁ、センセェ~?」
重たそうな茶封筒をしっかりと胸元で抱え、オリハはアツシに問い詰める。「たしかにミルフィーユさんの腕はぁ、ちょっと心配ですけどぉ」と付けたし、オリハはアツシとミルフィーユを交互に見遣った。するとアツシはパッと顔を上げ、なにか名案でも思い付いたかのような表情を浮かべる。
「……わかった。じゃあ青年、オレの用が終わるまでちょっとこのアカデミー内で待っててくれねぇか?」
アツシのこの言葉にミルフィーユは一瞬「え?」と目を丸くするも、すぐに
「別にそれはかまわないですが……」
と言って、リコリスに視線を向けた。
「元々俺たち、時間潰す為にここの図書館を利用しようとして来たんだし……」
「……」
ミルフィーユの言葉に同意するようにリコリスは軽く頷く。
するとアツシは「そうか! よし!」となにか一人で納得し、何度も頷いた。
「それじゃあ決まりだ! ミルフィーユとリコちゃんは俺の用が済むまで、図書館でじっくりゆっくりぐったり本を堪能しててくれ!」
「……ぐったり?」
「それじゃあオリハ、急いで教室へ向かうぞ!」
ミルフィーユの精一杯のツッコミもあっさりかわし、アツシはオリハにそう言うと再び慌ただしく駆け出す。
「じゃあそういうわけで!」
去り際にアツシはミルフィーユたちにそう言って軽く手を上げると、「待ってくださいぃ~」というオリハの声を聞かずに彼はさっさと立ち去っていった。
「ああぁセンセェったらぁ~……ではではミルフィーユさんにリコリスさん、後ほどぉ~」
「は、はい……」
オリハも最後に優しげな笑みを二人に向けると、駆けて行ったアツシを追い掛けて足早に立ち去る。
ポツンとその場に残された二人は、アツシたちが立ち去った方向をしばらく見つめたまま立ち尽くした。
やがてミルフィーユは軽く頭を掻きながら、チラッとリコリスを見遣る。
「……えっと、じゃあ図書館へ向かおう」
リコリスが頷くのを確認し、ミルフィーユは改めて手元の案内に視線を落とした。
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