The days when I forgot it 05
それでも頑なに首を横に振るリコリスに、思わずミルフィーユは苦笑いを浮かべる。そして、そのうちリコリスは再び欲しいらしい本たちと睨めっこを始めた。
すると、二人のやり取りを近くで見ていたらしい客の一人が二人へと声をかけてくる。
「そちらのお嬢さんは随分と本がお好きなようだねぇ」
隣で同じく本を眺めていた老人の男性は、自分の手にしていた本を棚へと戻しながら二人へ柔らかな笑みを向けた。
「あ、あの……」
突然声をかけられて戸惑うミルフィーユに、老人は
「ああ、すまんねぇ。突然声をかけてしまって」
と言って軽く頭を下げる。
あまり社交的な性格ではないミルフィーユは反応に困り、彼は「はぁ……」と曖昧に頷いた。
すると老人はにこやかに笑いながら、無表情に自分を見つめるリコリスへ向き直る。
「お嬢さん、そんなに本が好きならばこの商業地区の大通りをさらに南へと真っすぐに向かってごらん。そこに学業を学ぶ者が通う大きなアカデミーがあって、そこには一般の者にも開放している巨大な図書館があるんだよ」
「アカデミー?」
老人の言葉にミルフィーユが首を傾げる。すると老人は「学校じゃよ」と、ミルフィーユの疑問に素早く答えた。
「ここからアカデミーはそう遠くないし、ここよりももっとたくさんの本が読める。時間があるなら行ってみるとよい」
「……」
キョトンとするリコリスに、老人はそれだけ伝えると「それじゃあワシはこれで」と言って、彼は早々にこの場を立ち去っていく。
残されたミルフィーユとリコリスはしばしその場で立ち尽くし、やがて二人はどちらからともなく顔を見合わせた。
「……どうする、リコリス。その……アカデミーってのに行ってみるか?」
「……」
見ず知らずの老人が、自分たちにわざわざ親切にも教えてくれたのだ。それを思ってミルフィーユは一応リコリスにアカデミーとやらへ行くか否かを問い掛ける。
するとリコリスはじっくり数秒思考したあと、こくりと小さく頷いた。
それを見てミルフィーユは口元を緩める。
「そうか。じゃあ……そうだな、行ってみよう」
ミルフィーユは「実は俺も、そのアカデミーってのがどんなものなのか気になったんだ」と言って照れたように頬を掻く。
「えっと、それじゃあ本はどうする?」
ミルフィーユの問い掛けにリコリスは再び視線を本へと戻し、ほんの少し悩んだあとに彼女は『魔法薬学』と書かれた本だけを手元に残して、残りの本は全て本棚の元の位置へと戻した。
どうやらリコリスは、その『魔法薬学』の本だけ買うことに決めたらしい。
随分と珍しい本を買うんだなぁとミルフィーユは一瞬思うも、「それじゃあ本を買ったらアカデミーという所へ行こう」と言ってリコリスに微笑みを向ける。その言葉にリコリスは頷き、手にした本を大事そうに胸に抱えた。
◇◆◇◆◇◆
『マルクス国・国立メディエズアカデミー』――マルクス国でも裕福な上流家庭の人間が通う、国の政治や司法・その他戦闘訓練などを含めた様々な学業を学ぶことが出来る施設。このアカデミーは国がその運営を完全にバックアップし、政治などの面でこのマルクスに必要となる有能な人材を育てることを目的としている。
「えぇと……それで学部もいくつかにわかれていて、大体が7年制で一部司法を学ぶ学部などは9年制らしい」
アカデミーの入口の案内で手に入れた学校案内のパンフレットを読みながら、ミルフィーユは「大変なんだな」と独り言のような感想を述べる。
彼の隣でリコリスが、キョロキョロとアカデミー内を物珍しそうに眺めていた。
「にしてもここは広いなぁ……」
城のような巨大で絢爛な外観のアカデミーは、乳白色の柔らかな色で統一された室内も全て掃除等の手入れが行き届いている。
その全てに圧倒されながら、ミルフィーユは感心仕切に「すごいな」と頷いた。
リコリスも同様に、表情に変化はあまりなくとも彼女なりにアカデミーの内装外装に驚いているらしい。リコリスはパチパチと仕切に目を瞬かせていた。
「それで、図書館っていうのはここを真っすぐ行って……」
そう言ってミルフィーユは手元の案内書に視線を落とす。
アカデミーの生徒や、おそらくミルフィーユたち同様一般に開放されている施設を利用しに来ている人々と途中すれ違いながら、二人は長い中央廊下を歩く。




